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そして、死
「全身タイツを着てさ、ゴムをつけたらエッチできるんじゃね??」
そうしたら、叶を抱き締めることができる。
触れあうことができれば、きっと叶も寂しくなくなる。
オレの愛も伝わる。
「やっぱり、肇はエッチがしたいんだね。こんな幽霊じゃ、嫌だよね。……ホント、消えたい」
「ちがう。別にエッチがしたいって訳じゃなくて」
あー、うまく伝わらねぇ。
別にエッチできなくても、叶がそばにいてくれるだけでオレは満足なのに。
いつも言葉が足らなくて、叶を傷つける。
「頭、冷やしてくる」
部屋を出ることの出来ない叶のために、オレが外に出る。
叶は解放されたがってるけど、オレはあいつがいなくちゃ無理だ。
解放してあげることは出来ない。
生まれて初めて好きになった運命の番だから。
布越しに噛みつくことで、番にできないかな?
できる。きっと、できる。
今夜にでも試してみよう。
そうすれば、叶も安心できるはず。
オレは、あれやこれやと考え事をしながら通りを歩いていた。
「あの……」
「えっと、誰?」
「酷い……あなたの運命の番なのに……」
「あ、ごめん。あのとき、あんまりちゃんと顔を見なかったから。もう、発情期は終わったの?」
「もともと発情期ではなかったのに、運命のアルファにであった刺激でヒートになっただけだから」
「今日はヒートにならないんだね。ということは、もう、運命の番じゃなくなったってことかな? よかった」
叶の死で繰りあがったのだから、叶とつがえることが可能になった時点で、また、外れるってことはあり得そうだ。
どっちにしてもオレは叶としか、つがう気はないし、この子にも別のアルファが現れてほしい。
「全然、良くない。それに、よくわかんないけど、ヒートにならないのは一度寝たからだと思うし。運命の番のままだし」
「そうか? ごめん。君とはあんなことになったけど、つがうことは出来ないから。オレには心に決めたヤツがいる」
「どうして? 僕たちは運命の番なんだよ?」
「だったとしても、ムリだから」
「そんな……これから先、僕はどうすればいいの?」
「他のアルファと幸せになって。誰か紹介しようか?」
「……酷い」
「ごめん。あのときは自制できなくてあんなことになってしまったけど、もうそんなことはないから安心して」
「……え?」
「今夜にでも、つがうから。そうすれば、目の前でヒート起こしても、叶以外には反応しなくなるし」
「叶って、誰?」
「オレの愛する人。あいつ以外とはムリなんだ」
「僕だってあなたを愛してる。あなた以外は無理だ」
「でも、オレもあいつ以外はムリだ。ごめん、話してても平行線のまま時間の無駄だし、もう行くね」
「待ってっ!」
すがりつく腕を振り切って歩く。
今夜、つがうのなら素敵な夜にしたい。
叶が喜ぶ花をプレゼントしよう。
どんなものがいいだろう?
「っ!!」
脇腹に衝撃。
「絶対に渡さない。あなたは僕の番だ」
刺されたのか?
「絶対に渡さないっ!!」
今度は、胸に衝撃。
「渡さないっ!」
何度も何度も引き抜いては、突き立てる。
「キャーーー、誰かっ!」
「やめろっ! 取り押さえろ」
「救急車っ! 君、大丈夫か?」
「救急車を誰か呼べっ!」
不思議と痛みはない。
視界がボヤける。
オレ、死ぬのかな?
叶と二人で幽霊って。
それもいいかも。
あいつ、どんな顔するかな?
叶? 待ってて。
もうすぐ、そっちに行くから。
オレはそっと目を閉じた。
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