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新たな展開

「綺麗な花を渡して、優しくセックスすればいいのです」 「顔もみたくないって言われてるのに、そんなことできねーよ」 セックスって。 んなの、出来るはずない。 そもそも、相手の体に触れることすら出来ないんだから。 「だからこそ、ですよ。ここで言われるがまま離れてしまえば、心も離れてしまいます」 「だけど、しつこくして、これ以上嫌われたくない」 本当にあいつが消えてしまったら今度こそ耐えられない。 「騙されたと思ってやってみて」 って、言ってもさ。 といいつつ、入り口で立ちすくむ。 目の前には、赤やピンク、オレンジ。 色とりどりの花で溢れ帰っている。 店員が奥から出てくる。 「いらっしゃいませ」 誰かに嫌われたくないって思ったのは初めて。 そんなことは、考えたこともなかった。 物心ついたときから、周りはオレに好かれたいってやつらで囲まれていた。 嫌うのはオレ。 判断基準は、オレがどう思うか。 誰かの気持ちを考えて行動したことはない。 「思わず、笑顔になる花束を作って」 「プレゼントですか?」 「うん」 「相手の方はどんな花が好き?」 そんなの知らない。 てか、あいつの好きなものなんて、ひとつも知らない。 ホント、あいつのことを何も知らない。 「イメージは?」 「白」 赤でもピンクでもない。 何色にも染まらない、清廉潔白な色。 押し付けがましいわけじゃないのに、圧倒的な存在感。 思わず、目を離せなくなるような。 「では、この花はどうですか?」 「うーん、こっちのイメージかな。あ、これも入れて。うん、あいつにはこれだな」 やべ、早く叶に会いたい。 「えっと、じゃあ、少し待っててください。思わず、笑顔になっちゃうものを作りますね」 早く笑顔がみたい。 叶の笑顔を全然みてない。 泣き顔ばっかり。 どうやったら、笑顔に出来るんだろう? って、人に頼ってたらダメだよな。 「お待たせしました。どうです?」 「うん、すごくいいかも。ありがとう」 オレは、花をもって走った。 早く、叶に会いたい。 「ただいま」 息をせききって自室に駆け込む。 「叶?」 叶の姿を求めて、視線を巡らす。 いた。 布団がこんもりと盛り上がっている。 その塊の上から覆い被さるように抱き締める。 「これ。叶に。生まれて初めて買ったんだよ。とりあえず、見るだけ見てよ」 のそのそと布団の下で身動きする気配がしたあと、小さな隙間があらわれる。 隙間に花束を差し出す。 しばしの沈黙。 「何、それ」 よかった。声が和らいでいる。 「笑顔になる花束って言って作ってもらった」 「花じゃないし」 かすみ草をふんだんに使ったフワフワな中に緑色の小さなリンゴの実がゴロゴロ。 「オレが選んだんだよ。ちゃんと水につけておいたら色が赤になって食べられるんだって」 花束を持ちかえて、隙間を覗きこむ。 叶と目を合わす。 ずっと泣いてたんだろう。目が真っ赤。 「色が変わるまで1ヶ月以上かかるんだって。一緒に育てような」 叶の目が潤む。 「そんなの約束できない」 「約束じゃない。絶対に赤になるまで一緒に育てるっていう決意表明だよ」 隙間が閉じる。 息を殺した泣き声が布団の下から聞こえる。 オレは、布団を抱き締めた。 叶のぬくもりが伝わってきそう。 ん? あれ? オレ、叶を抱き締めてない? 「ちょっと、失礼っ!!」 勢いよく布団をめくりあげる。 「何するんだよっ!!」 引き剥がされまいと、叶が布団を引っ張る。 まけじと、オレも引っ張る。 布団の引っ張りあい。 ほら。 やっぱり、おかしい。 実体化してないか? 「叶っ!」 腕をつかもうと、布団に手をいれる。 叶? お前、実体化してるだろっ?? 「あっ」 やっぱり、伸ばした手は空をきる。 叶に触れることはできない。 「でもさ、これなら?」 ハンカチを叶の手首にかけてその上から掴む。 「掴めた! 叶、わかる? オレ、お前の手首を掴んでるっ!!!」 叶の目がまんまるになる。 「わかる……肇の手のひらの感触がちゃんとわかる」 どういうことだ? つまり…… 「ものを介してなら触れ合えるってこと?」 「だね」 すごい。 これは、大いなる前進。 オレは、ハンカチの下の脈打つ手首をぎゅっと握りしめた。

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