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第1話

俺は恋をしたらしい。 そう、恋をしたんだ!…多分…きっと でもあの頃の俺はまったくの無自覚で 笑っちゃうくらい何もわからず ただその得体もしれない感情を 持て余していた。。 あれが始まりだったのかもしれない… いつも数学の授業は気だるい 教科書を読んで写すだけの授業 クソ面白くもない! んなのは授業受けなくてもわかるさ それがある日 担当教科の先生が出張で 変わりに「先生」が来た 「…まずは教科書をしまえ。俺の授業には必要ないからな。だから黒板をちゃんと見てろよ」 ん?俺は顔を上げて教卓を見た。 白衣を着た、背の高い先生が 黒板に向かって問題を書いているところだった。 流れるようにしなやかに進む手は 午後のひかりと重なって とても眩しかった 「さあ、まずはこの問題を解いてもらうぞ。 わからなかったら、できた人に聞いてもいいぞ! 但し、答えを教えてもらうのも教えるのもダメだぞ!!」 教室はざわついたがみんないつもと違う授業に 惹き込まれていった。 「数学はな、美しく解くんだぞ!」 美しく解く?? 数学に美しいも美しくないもあるのか?! 面白い先生だなと俺は興味を持った。 俺は数学が得意だ。 だからまぁ、難なく解いて 頬杖をついて外を眺めていた。 ふいに声をかけられた。 「おっ、早いな!どれどれ。。 うむうむ、おーよーし!正解だ!! えーと、花房優か、 うんおまえの解き方は美しいぞ」 そういいながら先生に頭を撫でられた。 スゴく優しいあたたかい手で ドキッとした。。 そう俺はあのとき確かにドキッとしたんだ。 それと同時にとてもくすぐったい気持ちにもなったんだ。 まだその意味も知らずに… 注目され褒められたのがただ恥ずかしいだけなんだとそう思っていた。 あれから先生と会うことはほとんどない。 もともと先生は俺のクラスを受け持ってないからこれが日常なんだけど… 気がつけば先生を探してる俺がいた。 そしていつも先生のことを考えていた。 廊下を歩く先生 笑いながら生徒と戯れる先生 なぜか走ってる先生 空を見てる先生 教科室で質問に答えてる先生 …いいな、俺も教えてもらいたい ん?んんんんん? 教科室へ行けば会える!!! 「ヤバッ!」 俺は自分の口元が緩んでるのを自覚した。 ニヤけが抑えられないのだ。 なんだろう?この嬉しい気持ちは? 嬉しい??先生に会いたいのか?俺が?? 今日の放課後、思い切って行ってみよう。善は急げ!じゃないけれどこの勢いは絶対必要だと俺の中の俺が言っている気がした。 トントントン 「失礼します。橘先生はいらっしゃいますか?」 この緊張が伝わらないかと冷や冷やしながら 俺はノックした。 「どうぞ」 中から聞こえてきた低音で落ち着きのあるあの声。 たった一言で俺の心臓はわけもわからずギュッと掴まれたようだった。 「花房です。橘先生いらっしゃいますか?」 平静を装いゆっくりと発した。 『 いるぞ、なんだ?』 「ちょっとわからない問題があって、教えてもらえませんか?」 『いいけど、俺の受け持ちじゃないよな?俺でいいのか?担当の先生呼ぼうか?』 「いやいやいや、あの…せ、先生がいいんで…」 俺の必死さ?熱意?と呼べるかわからないががそれが伝わったらしく、なんとか教えてもらえることになった。 『そんなに俺がいいのか?』と笑いながら先生は少し照れていたように見えた。 やはり先生の教え方はわかりやすいし、興味を示してくれる。俺も美しく数学を解きたいと思うようになったんだ。 毎日でも行きたいけど、さすがにそれはおかしいからちょっと間を開けつつ、問題を探しながら数学にものめり込んでいった。 いつからかだろうか。 時より先生に見られてる気がしていた。気配感じて視線を上げるとフッと逸らされる。えっ?俺なんかおかしな解き方してたかな? と焦る俺は思わず 「なに?」 ついつっけんどんな言い方になってしまった。わぁそんなつもりないのにと心の中で自分にツッコミを入れていた。 『いや、なんでもない』 よかったー、先生は普通だった。 しかしだ、だんだん問題が難しくなるのは気のせいだろうか。いや解けそうで解けなさそうな微妙な問題は、やってやろうじゃないかと俺を熱くさせた。 そしてあの日あの難問が解けた時のことは忘れられない。 ほんとに先生は意地悪だなってちょっと思うくらいの難問。でも俺は難しいほど燃えていたから楽しかったんだ。 でもどうしてもわからなくてひとつだけ、ひとつだけヒントをもらった。 そして 『いろんな角度から問題を見ろよ』 という先生の教えを反芻しながら、 あっ!!夢中で解いた、嘘みたいにスラスラと答えが見えてきて、これが快感というやつだろうか。 『 優!凄いじゃないか!!よくやったな!』 「 先生のヒントで閃いたんだ!俺、やるだろ う!! てか、先生今、俺のこと名前で呼んだ!?呼んだ??呼んだよね!!嬉しいな~ 」 先生が興奮気味に褒めてくれたことも問題が解けたことも、そして名前で呼んでくれたことも全部が飛び上がるほど嬉しくて笑いが止まらなかった。 やっぱ先生はすげぇーとますます教科室へ足を運んだ。 俺が通い始めてからどれくらい経っただろう。 たまに先生の視線が俺の手に注がれてることに気づいた。何を見てるんだろうか? まぁ聞けるはずもないしなとそのこと自体は気にしなくなった。 ある放課後、いつものように先生に教わっていたら過ってシャーペンを落としてしまった。 あっと思って拾おうとした瞬間 先生の手とちょっと触れてしまった。 たったそれだけなのにビビビってまるで電流が走ったかのような物凄い衝撃を受けた。 そして心臓のドキドキが耳にまでうるさく響いていた。 一瞬にして身体が熱くなり俺は思考停止していたと思う。正直、あまり覚えていないのだ。 先生の方を見ると、先生もちょっと様子が変だ。びっくりしているようだった。 あの衝撃を先生も感じたんだろうか。 しかしそのことも聞けずにまた日常へと戻ってしまった。 あれ以来、俺はますます先生を意識していた。 先生の声を耳にしただけで、見かけただけで名前を聞いただけでドキッと心臓が脈打つ。 それがなんなのか自分でも分からず、でもやっぱり教科室へ通っていた。 こうして先生を目の前にすると、心臓は脈打たない。むしろ平穏で居心地がいい気さえする。 この間のことを先生はどう思ってるのかとじっと見てみるが反応無し。 あっ、目が合ってしまった! となるが何も反応無し、肩透かしを食らったと内心は落胆していた。 あれは気のせいだったのか。 俺の中だけで感情が上がったり下がったりして自分自身でもわけがわからなくなっていった。だから結局 どっちでもいいか だって先生とここで過ごせることを俺はとても気に入っている。 この居心地のいい感じは初めてだ。 だからこのままがいいのだ!! と俺の中で納得した。

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