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第10話
F大に編入して二ヶ月が過ぎた。バレー部員達は皆良い奴ばかりでセッターとしての僕を認めてくれ、いい感じに毎日を過ごしている。
「雅也。俺に持ってこい」
「勝手に名前で呼ばないでくれる?」
わざとキツめのトス上げるが、長く力強い腕は寸分の狂いもなくボールを捉え叩き落す。
「ナイスキー俺!」
確かに良いスパイクだったけど、ドヤ顔がムカつくから鼻で笑ってやる。
「そりゃあ完璧なトス上げてるんだから決められなかったらウソでしょ」
「うわぁ。可愛くない」
「うわぁ。嬉しい」
軽口を叩いていると紅林が校内放送で呼び出された。
「俺が居なくて寂しいだろうけど、直ぐ戻るから練習しといて」
「戻らなくていいからゆっくりしておいで」
さっさと行けと手を振って追い出すと、抜けた分を休憩中の部員から補充し試合形式の練習を再開する。
相手となっているBチームはブロックを得意としている。
三枚のブロックをいかにして剥がすか、フェイントを交えレフトにライトにとトスを上げる。
あと一点でブレイクだという時だった。突然の悪寒にその場にしゃがみこんだ。
マズイ!
そう思った時には誘発フェロモンが身体から放たれていた。
発情期まで遠いのに。何で?
いや、そんな事よりも薬と首輪……。
「真幸さん大丈夫ですか?」
βである苑田くんが駆け寄るとαであるキャプテンが叫んだ。
「苑田! 今井! 真幸を体育館倉庫に運べ! 木見下は真幸の鞄を倉庫に運べ!」
何が起こっているか分からないβ達に指示を出すとキャプテンは痛みでフェロモンをごまかすべく、自身の腕を噛んだ。
事態を理解した部員達は急いで指示を実行に移し、僕を引き摺るようにして倉庫へと運ぶと鞄を投げ入れた。
「外から鍵かけて誰も入れないようにします」
そう断り苑田と今井は扉を閉めた。
僕はとにかく薬を飲まねばと鞄をあさり飲料水と薬を流し込んだ。
即効性の薬だが何かあってはいけないと首輪を嵌め、マットの上に蹲る。
早く効いてくれ。
でないと血迷った誰かが扉を壊して入ってくるかもしれない。
こんな時に限って何で紅林のバカはいないんだ!
早く助けに来いよ!
いや、今のなし! 紅林なんか来なくていい!
ってか、来たらややこしい事になるから寧ろ来るな!
微かに残った理性はそう叫ぶが、熱く滾る身体は何処からともなく漂うαのフェロモンに興奮し、震え、濡れ細る。
誰か助けてくれと切望する。
誰か……。
誰でもいい。
何でもいい。
早く熱を冷まして欲しい。
誰か……。誰か……。誰か……。
思考が本能に塗り潰されていると、硬質な音が鳴り重い扉が開いた。
助かる。
安堵の息を漏らし助けてくれと手を差し出すと、逆光で見えなかった顔が紅林の物だと分かり、再び安堵した。
紅林ならいい。
噛んで欲しい。
言葉に出来ない思いを込め見詰めていると紅林が傍寄り跪く。
「薬は飲んだな?」
声を出したらおかしな事を口走りそうだから歯を食いしばり、頷く事で答える。
「落ち着くまで辛いだろうけど頑張れ」
紅林の言葉に愕然とする。
助けてはくれないのだと……。
「もし孕んだりしたらお前、バレー出来なくなるだろ?」
そう言われ砕け散った理性が僅かに戻る。
そうだ。問題を起こしたらバレーが出来なくなる。
孕んだらバレーが出来なくなる。
「俺も薬飲んでるけど、お前のフェロモン強烈な。チンコはち切れそうでキツイぜ」
濡れた瞳で見下ろされ身体の芯が疼く。
「辛いのはお前だけじゃない。一緒に我慢しようぜ」
大きな手に頬を撫でられ、お尻の穴がキュッてなったけど、バレーの為だと我慢した。
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