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第1話
入り口横にある大きなショーケースには、細かなガラスのビーズが縫い付けられた煌びやかなドレスが飾られていた。
計算された角度から受ける照明は、その美しさをどの角度からでも楽しめるように配置されており、思わず立ち止まった檜山静樹は数秒眺めただけで限界だった。
「檜山君、何してるの」
早く、と声をかけてきた伊谷圭介は、その建物に足を踏み入れようとしていた。
「待てよ、これ、あんた…。ガチの所じゃねぇか」
キラキラと光るそのドレスは真っ白なウェディングドレスだ。ガラス越しにそれを指さした静樹は、思わず眉根を寄せて圭介を睨んだ。
「ガチって……。結婚指輪を見たいって言ったのは檜山君でしょ」
「いっ、……たけど、」
悩みに悩んだ末に、相談相手に選んだのは行きつけのバーのオーナーである彼だ。
独特の雰囲気を持つ彼は、好意的な笑顔の下に夜の底にある淫らな香りを纏わせている男だ。
恋人である小畑由人と過去に寝たことのある男。なのに何故彼に話を打ち明けてしまったのだろう、と静樹は彼を頼ったことを後悔し始めていた。
「大丈夫だよ、ここのスタッフに俺の友人がいるから」
友人。そう聞いて指先がぴくりと揺れた。
どうやら圭介の知り合いや友人と言うのは、もれなく彼とそういう関係になった相手が多いようで、本気で帰りたくなってきた。
「いらっしゃいませ、……あれ、圭介さん?」
「聡太君、久し振り」
「お久しぶりです。どうしたんですか、ここに来るなんて」
紺色のスーツを着たその男は、性別を疑う様な細さをしていた。少し長めの髪は癖があるのかふわふわとしていて、パッチリとした大きな瞳で微笑む姿は年齢を判別しにくくさせている。
「彼がね、同性のパートナーに贈る指輪を探しているんだ」
圭介の言葉を聞いた彼は、静樹の前に歩み寄りにっこりと笑って見せた。
「ようこそ、いらっしゃいませ。ウェディングアクセサリー担当の小谷聡太と申します」
流暢な仕草で名刺を差し出され、素直に受け取った。
「……檜山君。彼はダメだよ。もう決まったパートナーがいるからね」
「ば、変な事言うなよ」
「今、ちょっと聡太君に見蕩れてたでしょ」
可愛らしい雰囲気が由人に似ているな、と思っただけだが、瞬時にして見抜かれてしまい顔が熱くなってしまった。
「どうぞ、指輪でしたらこちらにございます」
通されたのは、ワンフロアの全てがウェディングに関するアクセサリーが並べられた部屋だった。
アイボリーの壁色に合わせたゴシック調の調度品に、飾るように置かれているアクセサリーが主張するように輝いていた。
そのフロアに置かれたショーケースには、ずらりとペアになった指輪が並べられている。
「気になるものがございましたら、お申し付けください」
目の前に並ぶ数々の指輪を前にして、静樹は困惑した。
過去に指輪なんてものを贈ろうと考えたことは無く、まさかこれ程種類があるとは思わなかったのだ。
「……これ全部指輪?」
「…あぁ、こういうプレゼントは初めてなんだね」
圭介はショーケースに手をつき、静樹の心を見抜いた様に薄く笑った。
「指輪のサイズも計らずに来てそうだよね」
さらりとした前髪をかきあげた圭介は、固まった静樹に向いて同じ様に黙ってしまった。
「…え、まさか知らないの?」
「……………」
「あ、あの、大丈夫ですよ、お客様。どちらにせよご希望のデザインの指輪がお決まりになってからサイズを合わせますので、数日頂かなくてはならないので」
ショーケースの向こうから間に入ってくれた聡太は、とりあえず見るだけでもと勧めてくれた。
「……由人君も、聡太君と同じで細い指をしてるよ。…うん、変わらないんじゃないかな」
聡太の手を取った圭介は、彼の指の根元を撫で、細い指の上をなぞるように滑らせた。
「……っ、ちょ、ちょっと、圭介さんっ」
「ふふ、聡太くんは相変わらず敏感だなぁ。これだけで感じてちゃ仕事にならないんじゃないのかな?」
まるで夜の店に飲みに来た時のような光景を見せつけられ、静樹は心の中で圭介に向けて悪態をついた。
だが、パートナーがいるという聡太も頬を赤くしているし、本当にこの伊谷圭介というのは何者なのだろう。
指輪を買いに来たはずなのに、結局は何も決まらずに店を後にした。
「あぇ?おあえい」
自宅の鍵を開けて入ると、洗面所から玄関に由人が顔を出した。
彼は丁度歯磨きをしていたらしく、その口にハブラシをくわえている。
「はやはっはえ」
早かったね。と言ってるらしい彼に、早めに解散になったと話しながらリビングに足を向けた。
今夜は圭介の案内で指輪を買いに出たので、由人には職場の飲み会があるからと話していたのだ。
ひとまずスーツを脱いでハンガーにかけた静樹は、部屋着に着替えて冷蔵庫を開けた。
そこで初めて飲みに行くと言ったくせに酒を飲んでいないことに気がついた。
(しまった、)
目に入った缶ビールを掴んでプルタブをひき、中身を勢い良く飲み干していく。
とりあえずこれで誤魔化せるだろうか、と二本目のビールを手に振り向くと、ソファの上に座りハブラシを動かせる由人がいた。
「……由人。歯磨きは洗面所でしろっていつも言ってるだろ。終わらせてからテレビ見ろよ」
「ん〜、」
曖昧な返事をした彼は、自分のパジャマがあるのに、静樹の着古した長袖Tシャツを寝間着にしている。
彼曰く、何度も洗濯を繰り返したそれは柔らかくて着心地が好いらしいのだが、静樹よりかなり華奢な体つきをしている彼が着ると、大き過ぎて肩がはだけてくるのだ。
(……くそ、ムラムラするじゃねぇか)
リビングで歯磨きをする彼の嫌な癖も、つい許してしまいそうになる。
彼のはだけた肩を眺めつつ二本目のビールを飲んでいると、ソファから立ち上がった彼は洗面所に口を濯ぎに向かった。
彼のいなくなったソファに座り、流れていたニュース番組を眺めつつ、どうやって由人の指のサイズを知ればいいのかを考えた。
携帯を取り出し、キーワードを打ち込んで検索する。
(……伸縮性の低い紐…、もしくは長めに切った紙…?指にまいて重なる部分にマークを……)
「は?そんなにハッキリわかんなきゃなんねぇのか?」
表示されたサイズの測り方を読み、本人に知られずにするにはかなり面倒だと声が出てしまった。
「なに、どしたの」
歯磨きを終えた由人が、目を丸くして出てきた。
やはりその片方の肩が出ていて、酔いの回り始めた静樹の視線はそこに釘付けだ。
「…静樹?何かあったのか?」
心配そうにした由人に、静樹は手を伸ばした。
彼は一瞬躊躇した後、伏せ目がちに側に来た。
静樹は彼の手首を掴むと、強く引き寄せ膝に抱き上げた。
「びっくりした、危ないだろ、ん、」
アルコールが回り始めていても、由人とのキスの味はいつもハッキリとわかる。
甘い唾液を舐めたくて舌を這わすと、控えめに口が開き静樹の舌を迎え入れた。
「……んぅ…っ、ん、ん……」
由人を抱くのに何年もかかったが、彼とこうして親密な時間を過ごせるようになってから、気がついたことが沢山ある。
過去に数え切れない程の女性とセックスをしたのに、自分から積極的に動いたことが無いに等しいこと。セックス中の相手の声や仕草に心惹かれたことが無いこと。
(キスだけで気持ちよさそうな声出して…)
ぬるぬると舌を擦り合わせながら、Tシャツから出ていた肩に指を滑らせた。
「ん!……っ、ぁん、」
何度か彼とセックスをして知ったが、彼は男なのに乳首が弱い。女性のそこにすら殆ど触れたことはないのに、由人の小さくて敏感な乳首を愛撫する事は楽しくて仕方なかった。
はだけた肩からそのまま乳首に触れたくなり、力任せにTシャツを下へと引き下げると、生地が破れた音が聞こえた。
「わ!え、ちょっと、静樹!破れちゃっただろ、俺のパジャマ〜」
唇を離した由人から抗議を受けたが、破れたお陰で淡い色をした乳首が見えている。
「俺のお気に入りなのに、っ、うわ!」
文句を言い続ける彼の手を掴み上げさせると、そのまま狭いソファに押し倒して乗りあがった。
露わになった乳首に吸い付くと、由人の抵抗は瞬時に止まり細い腰が静樹の下で跳ね始めた。
「あっ、ま、待って、せーじゅ、」
「ん?気持ちいいだろ?」
「……っん、も、もうっ、」
乳首を指で転がす様に弄り、気持ち良そうに喘ぐ彼を見つめた。
「…気持ちよくねぇ?」
「……き、もちいい、」
恥ずかしそうに答えるその姿に、完全に煽られてしまった。
「由人、来い」
「……へ、」
我慢できずに立ち上がり、彼の手を引いて寝室に向かった。
先月買ったばかりのベッドに向かって由人の背中を押して倒すと、急くようにスウェットの上を脱ぎ落とした。
「えっ、す、するの?」
「ヤる。……抱きたい」
初めて彼と繋がった翌日、仕事がある日は避けたいと言われていた。
静樹にとっても彼の身体は大切で、わかったと約束はしたのだが、どうにも我慢できない夜が訪れる事がある。
抱きたいと言われた彼は、頬を赤くして困った様にしている。
「……あ、明日も仕事だし、その…抜くだけじゃダメ…?」
もじもじと告げるその姿こそが、こちらを煽るということに彼は気がついていないらしい。
静樹は由人の手を取ると、自分の股間に重ねた。
「……由人」
名前を呼んで間近で見つめ、視線だけで甘える。由人にしかした事のない甘え方をすると、彼はそのまま静樹のペニスを生地越しに揉み始めた。
彼に対して欲情している。その確たる証拠を彼に触れさせれば、連動するように彼の瞳もいやらしく溶け始める事を、静樹はもう知っていた。
そっと彼にキスをしてやると、受け入れた証拠のように彼の腕が静樹の首に回される。
キスを繰り返しながら彼の股間に手を伸ばすと、静樹と同じく後戻り出来ない固さがあった。
「……っ、ん、」
「…は、やべ、」
「え、何……?」
自分の手で触れるだけで、とろりとする彼が可愛くて仕方ない。
静樹はもう軽くなってしまった大容量のローションを手に取ると、由人の下半身を裸にした。
早く繋がりたいとどれだけ気が急いても、これだけはしっかりと時間をかけないといけないことは知っている。
「あっ、も、もう、静樹ぅ、」
だが、まだ彼からこうしてねだられないと、挿入して良いものかタイミングの判断はつかない。
無防備に開かせた足の間に入り込み、先走りで濡れる自分のペニスを彼の中に埋めた。
腰を押し付けながら、由人の反応を眺めるのが好きだ。
括れまで中に収めると、苦しげに見える彼の表情が変化していく。自分の施す行為でいやらしく溶ける瞬間を見れることが嬉しくて、思わず半分ほど残した状態で腰を止めた。
「……せ、じゅ、?」
舌足らずな話し方すら愛しくて、静樹の胸がざわついてしまう。
「…すっげえ、エロい……、エロくて可愛い……」
感じたことを素直に言葉にすると、由人の下半身がビクビクと小刻みに揺れた。
「ガン見はヤダって…っ、は、やく、中、シて……」
「我慢できないのか?エロいな」
「えっ、エロくさせたのは静樹でしょ、……っ、あ、っん、」
「……そうか、」
ただ気持ちいいだけじゃない、幸せに満たされるこの感覚は、そこから来ているのかもしれない。
セックスが幸せな行為だと教えてくれたのは紛れもなく彼だ。静樹はベッドで揺さぶられる彼を堪能しつつ、今夜も幸せな快感に落ちていった。
テーブルに肘をついていた由人は、出されたコーヒーのカップを見つめたまま昨夜の余韻に浸っていた。
なぉん。と鳴き声が聞こえて我に返ると、テーブルの上に母の愛猫が乗っていた。
「あっ、こら、テーブルには乗るなってば」
真っ黒な身体を捕まえて床に下ろすと、母がキッチンで洗い物をしながら声を出した。
「それで?今日はなんなの。また喧嘩?」
「え、あ〜、違うよ。……喧嘩…とかじゃなくて、」
セックスの後、夜中に目を覚ました由人は手に違和感を感じて目を覚ました。それを思い出すと顔がにやけてしまう。
「……何よ、ニヤニヤして」
「へへ、聞いてよ、母ちゃん!静樹さ、もしかしたら…俺の為に指輪とか買おうとしてくれるっぽいんだ」
寝たふりをしていたが、由人の左手になにか紐のようなものが巻かれていた。
「……は?ぽいってなに?」
「なんかさ、寝てる俺の指のサイズを測ってたんだよ。……俺、指輪とか貰うの初めてだし、すげぇ嬉しい…!」
自分の指を弄りながらそう話していると、濡れた手をタオルで拭きながら母が由人の向かいに座った。
「それは結婚するって事かしら」
「………けっ、…は?」
「もし静樹君がそういうつもりであんたに指輪を贈るつもりなら、その前にこっちにもきちんと挨拶に来てもらわないとダメじゃない?」
「…母ちゃん、何言ってるんだよ。俺、男だよ?」
「分かってるわよ。私が生んだのはあんた一人だもの」
「なら結婚は出来ないって知ってるよな?」
季節は春の終わり。この季節は精神的に良くない季節だっただろうか。それとも、長らく海外出張で不在の父が恋しくて不安定になっているだけなのだろうか。
「だけど事実婚てやつでしょ。きっと、静樹君はそのつもりよ」
「た、多分違うってば!あれだよ、やっと身も心も繋がったからその記念みたいな感じなんだって、って……」
慌てて口が滑ってしまった由人は、してはいけない発言をした事に気がついたが、既に手遅れだった。
「………なら尚更じゃない。丁度いいわ。来週お父さんが一時帰国するから、静樹君と二人できちんと報告しに来なさい。いいわね」
由人が静樹と何かある度に駆け込んできても、こんな風に言われたことは無かった。初めて見せられる母の真剣な申し出に、由人は拒絶出来なかった。
夕方、帰宅ラッシュの電車から降りた静樹は、ホームで新鮮な空気を吸い込んだ。
乗車率の高い車内に押し込まれていると、暑さを感じるようになったな、と鞄から定期を出し改札に向かっていると、目の前に飛び出してきた女性に足を止められた。
「あ、あの、」
同世代だろう女性の目を見た瞬間、またか。と考えた。
よくここでお見かけしていて。聞き飽きた言葉にだるくなり、「悪いけど」と女性を避けて足を進めた。
いつもならそんな静樹の冷たい態度にそこで終わりになるのだが、今日の女性はめげずに追いかけてきた。
「あ、あのっ、少しだけでいいので、」
「時間の無駄だから」
顔も見ずにそう告げると、さすがに諦めたらしく、改札を出たあとはついてこなかった。
(鬱陶しい)
電車でよく見かけていて好意を持ちました。学生の頃から何度も聞かされたそれは、今でも静樹が理解できないものだ。
見かけていたから、と言うのは、外見が好みだということなのだろう。それは分からなくもないが、そこにそれほどの熱量が生まれるものだろうか。
(まぁ、俺も…。アイツに初めて会った日はやたら可愛いからって相手してたけどな)
初対面の静樹を前に無防備に泣いていた由人は、今よりも幼い雰囲気があった。
(……あれ、俺もあの女達と変わらないのか?)
悶々と考えているうちに自宅に辿り着いていたが、恋人の顔を見た途端それまでの事は吹っ飛んでしまった。
「…どうした」
「………お、おかえり……」
テレビもつけずにソファの上で膝を抱いて座っていた彼は、力のない笑顔で静樹を迎えた。
「あ、俺…夕飯の買い物忘れてた!」
「いいよ、着替えるし焼き鳥行かねぇ?」
「……い、行きたい!」
「用意しろよ」
子供の様に素直に頷いた由人を見て、焼き鳥で笑顔になるくらいなら大したことは無いのかと考えた。
時々彼と訪れる焼き鳥屋は、個人経営の店だが美味くて人気がある。
週末の夜は満席で諦めるのが常だが、平日の夕方だと言うこともあって、開店直後の店内は空いていた。
静樹はカウンターとは反対側にある壁際の席に座り、由人と生ビールで乾杯をした。
「うっま!」
「生ビールで機嫌が直る程度のことか?」
出されていたお通しの漬物を口に放り込んでそう言うと、由人は生ビールのジョッキを置いた。
「……仕事?」
「んん、えっと……。俺、今日さ。読みたくなった本を取りに実家に行ったんだ」
実家。という言葉に静樹もゆっくりとジョッキをテーブルに置いた。
「それで…あの、なんて言うか、ちょっと……の、惚気たんだ。母ちゃんに」
「…………あ?」
「俺、静樹と……え、っち、出来たのも嬉しかったし…、その、すごく優しくしてくれるし、し、幸せだったから…。母ちゃん、いつも心配してくれてるし、楽しくやってるよって言う報告っていうか、そんな話しをしてたんだ」
仲良し親子だということは嫌という程知っていたが、どういう流れでそんな話になるのだろう。
「そ、……そしたらその……。ら、来週父ちゃんが一時帰国するから……」
「あぁ、お前のとこのおじさん台湾に行ってたんだっけ」
てっきり、父親が帰国している間は実家に帰ると聞かされるのかと思っていた静樹は、由人から聞かされた話に箸を落としてしまった。
「……静樹に……、ちゃんと挨拶に来て欲しいって……」
割り箸は勢い良く転がり床に落ちてしまった。
タイミングよく店員が通りがかりに拾い、新しい割り箸をくれたが、向かいに座る彼から目が離せなかった。
「…挨拶……とは、」
「や、お、おかしいよな、そんなのさ。男同志なのに別に結婚する訳でもないし、」
反応した心臓がどんと揺れたような気がした。
昨夜、平日にしては張り切りすぎたセックスの後、ぐっすりと眠る由人の指に細長く切った紙をまきつけて指のサイズを測ったのだ。
指輪を作って贈ろうと思ったのは、静樹なりのケジメをつけるため。彼とこの先の人生も共に生きたいと告げる為だ。
無意識に結婚というイメージを持っていただけに、何故このタイミングで由人の母がそんな話をしてきたのかと驚いた。
「母ちゃんには俺から話しておくし、静樹は気にしなくていいから、」
それが本音ならば、話さなかったはずだ。口にしたということは、由人もそれを望んでいるという事だろう。
そう捉えた静樹は、ジョッキに伸ばされた由人の手を掴んだ。
「行く」
「……え?」
「来週。お前の両親に、挨拶に行く」
自分なりのケジメをつけるのならば、指輪を渡すだけではなく完璧なものにしたい。
覚悟を持って言葉にしたのに、静樹の心臓は口から出てしまいそうなほど大きく揺れていた。
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