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第3話

「悪い、大丈夫だったか? 理性ぶっ飛んだ……」  空が白み始めたころ。長い俺の髪を弄びながら彼は俺の顔を覗き込んできた。 「大丈夫、慣れてますから」  琥珀の表情が暗くなる。 「俺は、……あいつらと同じだな」  自嘲する響きを声に乗せて、彼は言った。誰のことを言っているかは俺にもわかる。 「そんなこと……、ないです。俺は、あなたが好きだから。ずっと、こうできる日を待ってたんですよ」 「だけど、俺はおまえが俺を好きでいてくれるほどにおまえだけを愛せない。俺は、舟に乗っていたらおまえ以外のひとを救うかも」  わかっている。このひとには、俺よりも大切なものがある。 「俺は、あなたに見捨てられても構わないです、琥珀……」  そっと琥珀に身を寄せながら、俺は囁いた。だって、最初から知っていたことだから。  それでも俺は何度でも、あなただけを選ぶ。誰を犠牲にしてでも。 「俺の一番は決まっています。あなたもいいかげん、一番大切なもの以外は冷酷に切り捨てる覚悟を決めたらどうですか……」  抱き寄せられて、俺の左頰の傷痕に小さくキスが落ちてきた。 「そんな、簡単に言うな。俺は、おまえも見捨てたくない……」  そう言われると、少し嬉しい。  だけどその甘さがこのひとの命取りになる。そのときはこのひとが悩まなくていいように、俺は先に自分の息の根を止めてあげなくてはいけないんだって。  なんとなくそのとき、俺にはそんな予感がした。 舟に乗る/終

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