12 / 13

第2話

「灰簾、大人をからかうな」  いつからだろう。最初は変なやつだとしか思っていなかった。いつのまにか、いつも触れたいなと思うようになって。  実際に触れたら大人になるまで待てと、あなたが言うから。 「からかってません。この唇にキス、したいです、琥珀」 「……キスするのは、仲間じゃないぞ」  腕の中の彼はまだ抵抗を見せている。 「仲間じゃなくて、いいです。俺の……恋人になってください」 「俺は、いつ死ぬかわからないし。おまえのためには生きられない。やることがあるし」  そう、あなたは溺れたひとりを助けるために戦っている。 「知ってます。だけど俺は、あなたのために生きます。あなたのために生きるのを、許してください」  俺はそっと手をとって、彼の指先に口づけた。 「……おかしいな。仲間を見つけたはずだったのに……」 「俺とあなたが他人である以上、すべてあなたの思惑どおりにはいかないんですよ」 「生意気め……」  俺はいつまでも許されないのに焦れて、その黙らない唇に口づけた。生意気なのは、あなたの方。 「かい、れ……ん……っ」  舌で丁寧に奥まで触れて、俺は琥珀に口づけした。小さな抵抗も、こぼれた吐息も愛おしい。  やがて、腕の中の愛しいひとは抵抗をやめて、俺の口づけに応え始めた。  顔を赤らめてキスに溺れる彼を見ると、本当は俺の恋人になることも嫌じゃないって、そう思ってくれているんじゃないかと思えてくる。 「あ、ん、好きです、琥珀……こはく」  俺は欲情して、彼の首筋にもキスを落とした。 「ねえ、抱いて……」 「灰簾……」  濡れた瞳の琥珀が、俺の左頰を撫でた。彼はよくこうやって、俺の頰に残る昔の傷痕をなぞる。 「おまえは、いつまでも俺のかわいい……弟だよ。そんな目では見られない……」  身体はもう抵抗していないのに、相変わらず言葉だけは生意気だ。  俺は琥珀のシャツのボタンを外して、さらに下に口づけた。 「俺はあなたの弟じゃない。あなたが俺を抱かないなら、俺があなたを抱きますよ」 「……ん、はっ……そういう問題じゃな、い……っ……」  俺が首筋から順に臍の下までキスを落としていくと、琥珀は腰を跳ね返らせながら抵抗の言葉を口にした。 「俺にとっては、そういう問題ですよ。いい加減諦めて、俺を受け入れてください。大好きなんです」  服の上から、彼の下半身に唇を触れさせた。彼だって、本当はそうしたいって、彼の身体はそう言うのに。 「灰簾……んっ、俺は、おまえを、幸せにはしないよ……」 「そんなの、いりませんよ。わかってるでしょう」  そっと、解放させた彼の下半身に口づけた。びくりと跳ねて、俺から離れようとするそれを押さえて、口に含む。 「かいれ……っ」  これを俺の中に収めたい。そう思うと、俺の腰も自然に動いてしまう。 「もう、いいでしょう……?」  硬くなった彼自身に口づけて、俺は聞いた。 「灰簾……っ」  俺はそっと、彼の上に腰を落とす。 「ん……ッ」  中に入ってくる彼の感覚に、全身がゾクゾクしておかしくなりそうだ。 「琥珀、琥珀、こはく……うっ」  いつも自分で慰めている指とは違う圧迫感で苦しかったが、俺は体を反らせて腰を上下した。琥珀も苦しそうに眉をひそめている。  あなたにも、俺でおかしくなってほしい。 「ね、琥珀、俺をぐちゃぐちゃに犯して。お願い……」  俺は苦しさとどこかで目覚めはじめた快感に涙を流しながら琥珀に訴えた。視線が重なる。 「んんっ」  突然頭が引き寄せられて、深いキスをされた。呼吸ができない。  どのくらいそうしていただろう。やっと唇が離れると、濡れた眼差しの琥珀が言った。碧玉が不穏な色を帯びている。 「灰簾……、後悔しても遅いんだぞ」 「望むところで、すっ」  言った瞬間に上下を入れ替えられる。俺はうつ伏せに押し倒された。 「ああ……っ、こ、琥珀……ぅんっ!」  体位が変わって下半身は抜けてしまったが、腰だけを持ち上げられるとすぐに強く貫かれる。何度も彼の腰が俺の尻にぶつかった。  強く犯されている。このひとに激しく犯されていると思うと、今すぐ射精してしまいそうなくらいものすごい幸福感が背筋を駆け抜ける。 「あ、あ、ああ、ああんッ、いくッ、いきますッ」  イク前に申告してしまうのは、子供のころにしつけられていたころの癖だ。下半身がぶるぶると震え出して止まらない。  琥珀は小さく笑って俺のそれを優しく握った。 「おまえから誘ってきたんだ。もうちょっと我慢してみろよ」 「はぁ……んっ、無理、むりですっ」  多分俺は、淫乱だから。  昔、金持ちに飼われていたときにそう仕込まれたんだと思うけど。正直気持ちいいことに我慢なんかできやしない。好きなひととはいくらだって快楽に溺れていたい。一応このひとが大人になるまではひとりで我慢しろって言うから、これまでは頑張ってそれを聞いてきたけど。 「ああんっ」  我慢しきれなくて、俺のものが琥珀の手を汚した。それでも琥珀の腕は俺の腰を離さずに、何度も何度も突いてきた。一度達したあとの快感は敏感だ。俺は隣の部屋のことも忘れて声を限りに悲鳴を上げ続ける。  休む暇もなくまたのぼりつめるが、まだ解放はされない。俺はそのことに安堵した。  このひとには何もかも忘れて、俺にだけ夢中になってほしい。ずっとは無理でも、せめて今夜だけ。俺のことは愛せなくても、せめて俺の身体だけでも愛して、その形を覚えていて。 「琥珀、琥珀、琥珀、こはく……ッ」  その夜、俺たちは時間を忘れて、二頭の獣みたいにひたすらお互いを貪りあった。

ともだちにシェアしよう!