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学園生活46
「おはよ~!2人で来るなんて珍し………、どうしたの?」
教室に入った俺達に気付いて、いつも通りに元気に話しかけてきた薫の言葉が途中から怪訝そうなものに変わった。
そして、その視線が俺の手に握られた紙に向けられる。
「……なに、それ」
…薫…、目付きと声が怖いよ…。
俺も人の事は言えないけど、とりあえずさっきよりは落ち着いた。
持っていた紙を机の上に置いて椅子に座り、「見てもいい?」と聞いてきた薫に頷き返す。
真剣な顔のまま紙を開いて中身を見た瞬間、薫の目付きが一気に鋭いものに変わった。
「……誰だ…、こんなふざけた真似をする奴は」
いつものノホホンとした雰囲気が一瞬にして殺気立つ。何故か声も低い。
…お前…、もしかしてこっちが本性?
あまりに男前な雰囲気に呆気に取られて見ていると、その視線に気付いたのか突然いつものホワホワっとした雰囲気に戻る薫。
「…え~…っと、こういう事するのってよくないよね。陰湿だよ」
確かにこういう行為は陰湿だし対策も考えたいけど、…なんか薫の本性の方が気になってきたよ俺は…。
今更「エヘ」とか微笑んでも遅いって。
「や、やだな~深君。人を疑うような目で見ないでよ」
「宮本、そこまでハッキリ本性を出したら、今更取り繕っても無理。無駄」
俺が口を開く前に、真藤が生温い笑みを浮かべながら言い切った。
その言い方だと、真藤は薫の本性を知っていたって事だよな?
どういう事か問い詰めようと薫の顔を見ると、本人は焦ったようにウロウロと視線をさ迷わせたあげく、誤魔化すように机の上に置いてある紙を手に掴んだ。
あまりに勢いよく掴みすぎたのか、グシャっと音がする。
「そ、そんな事よりも、今はこっちの件をなんとかするのが先でしょ!」
「まぁ、そうだな…」
薫が握り締めている紙を見て、確かに…と頷いた。
椅子に座っている俺。自分の席に着いて椅子ごとこっちを向いて座っている薫。俺の横に立つ真藤。
3人で無言のままジーッと紙を見つめていると、そこに新たな人物の声が割りこんできた。
「お前ら3人揃ってなに暗い顔してんだよ、似合わないぞー」
笑いながら話しかけてきたのは、クラスの中でもムードメーカー的存在の前嶋芳明 だった。
オレンジブラウンに染めた天パーの髪をワックスで適当に散らした髪形は、どこにいても目に飛び込んでくる鮮やかさ。
背は平均並みにあるはずなのに、吊り上った猫目のせいか、どうにもこうにもやんちゃ小僧の雰囲気が拭えない。
以前、体育の授業のバレーボールで同じチームになった事があってからは、何かと話をする機会が多くなっている。
真藤の隣に立って好奇心に瞳を輝かしている前嶋に対して、何故か半眼になってしまっている薫が冷たい一言を放った。
「前嶋君には関係ない」
「うわ、薫ちゃん冷たっ!」
手に持った紙の中身が見えないようにさり気なく向きを変えながら言った薫に、目を見開いておどけた調子で答える前嶋。
でもすぐ真顔に戻ると、薫の手にある紙を視線で指し、
「それってもしかして、黒い内容のラブレター?…宛先は…、天原とか」
曖昧な口調の割には、図星すぎる言葉を言い放った。
その言葉に驚いたのは俺だけじゃない。
真藤は鋭い目付きで前嶋を見るし、薫に至っては「もしかしてお前…」なんて、またブラック薫を出現させている。
そんな俺達を見た前嶋は、ギョッとしたように一歩後退って全力で両手を左右に振りだした。
「待て待て待て待て!俺じゃないって!ってか、そうじゃなくて!」
顔を引き攣らせながら必死に否定している。
それを、ジトーっと細めた眼差しで怪しげに見る俺以外の二人。
…ちょっと不憫になってきた…。
「2人とも、前嶋を苛めるのはよせよ。…前嶋も、こいつ等のこの態度ワザとだから大丈夫だよ」
途端に、真藤と薫はバレたか…とばかりに笑って肩を竦め、前嶋は脱力したように一気に肩を落とす。
「…ッフ…」
対照的な姿に笑いが…。
「…天原…、のん気に笑ってる場合じゃないだろ、お前は…」
呆れたように呟く真藤に、ハッと我に返った。そうだよ、笑っている場合じゃない。
おまけに、気がつけばさっきから話題がズレまくっている。
「前嶋、お前何か知ってるのか?」
真剣な口調で真藤が問いかけると、前嶋もさっきまでのふざけた調子から一転して、真面目な表情で俺達3人に視線を巡らせた。
「あぁ、知ってる。何かを知ってるっていう曖昧なもんじゃなくて、犯人を知ってる」
「「「…は…?」」」
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