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学園生活45
† † † †
「おはよう」
「おはよ。…あれ?真藤とここで会うなんて初めてだよな」
朝。昇降口へ足を踏み入れたと同時に背後から肩を叩かれて振り向くと、いつもと変わらない、とても朝とは思えないほど隙の無い姿の真藤がいた。
ほとんどの奴がまだ寝ぼけた顔をしているなか、真藤のキリッと感はすごく目立つ。
朝はだいたい俺の方が早く来ているせいか、今まで昇降口で遭遇した事はない。
今更だけど、一緒に教室に行くという状況がなんとなく照れくさくて変な気分だ。
「さすがに梅雨が明けると暑いな」
「俺暑いの苦手だから本気で辛い…。真藤の力でなんとかしてくれ。委員長だろ」
「めちゃくちゃ言うなよお前は…」
呆気に取られた様子の真藤に、笑いが込み上げてくる。
ニヤニヤ笑いながら靴を脱いでいると、膝裏に軽く蹴りをくらった。
「委員長が暴力行為していいのかよ」
「天原に限っては問題ない」
「どういう根拠だ、それ…」
ノンフレームの眼鏡の奥で楽しそうに笑みを浮かべる真藤から視線を外して、文句をブチブチ言いながら自分の下駄箱の扉を開けた。
「………」
「…どうした?」
扉を開けたまま動かない俺を、真藤が隣から不審そうに見つめてくる。
それに「うん」とか「あぁ」とか生返事で返しながら、下駄箱の中に入っている数枚の手紙らしき紙切れを掴んで取り出した。
「…告白の手紙…にしては、適当に入れた感じだな…」
眉を寄せて呟く真藤にチラリと視線を投げかけると、「開けてみろ」と警戒心いっぱいの表情で促される。
恐る恐る、折りたたまれた紙の一枚を開くと、そこには…。
「…なんだよ、これ…」
「………」
呆然と目を見開いた俺とは対照的に、真藤は何も言わず苛立ちを堪えるように顔を顰めた。
開いた紙には、太マジックで書きなぐったような乱暴な文字で、
【一般生徒がいい気になるな!上流階級クラスに近づくなんて身のほど知らず!!】
と書かれていた。
その紙をグシャッと握り締めて次の紙を開くと、そこには毛筆の丁寧な文字で、
【編入生だからといって何も知らないでは済まされません。分不相応という言葉を貴方に送ります。下の者が上の人間に近づくなんてもってのほか。これ以上恥を知らぬ行為を続けるなら制裁あり】
とあった。
「…真藤…、これ…」
震えそうになる手を、紙ごとグシャリと握り締めて真藤を見る。そこには、らしくなく舌打ちをしている姿があった。
「どっかの馬鹿が、お前が黒崎と…そして会長とも仲がいい事を妬んだんだろうな。一般生徒だとか下の者だとか…。家柄が全てを左右するこの学園の悪習だ」
「………」
苦々しい顔をしながらも落ち着いた声色の真藤の言葉を聞いているうちに、メモを読んだ最初の衝撃が薄れていく。
そして次に湧き起こったのは、純粋な怒り。
家柄が学校生活になんの関係があるんだ。俺達は単なる学生で、いまだ親に面倒をみてもらっているなんの力もないただのガキなのに。
家の威光を自分の力だと勘違いして、家柄で友達を選ぶなんて愚の骨頂だろ!!
「…っ…ざけるな…!」
紙を握り締めたままの拳を、ダンッ!と下駄箱に叩きつけた。
あまりの怒りに眩暈がする。
「落ち着け、天原。…とりあえず教室に行こう。宮本も来てるだろうから、話をするぞ」
背中にまわされた真藤の暖かい手にポンポンっと軽く叩かれ、少しだけ気持ちが宥められる。
「あぁ…悪い、大丈夫だ…行こう」
詰めた息を吐き出してなんとか気を取りなおし、靴を履き替えてから教室に向かって歩き出した。
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