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学園生活44

†  †  †  † 「秋、今朝本当に何かするつもりだっただろ?」 「気のせい気のせい」 昼休み。 廊下ですれ違った秋を捉まえて、今朝の出来事を問い詰めた。 朝はバタバタしていて文句を言う事もできなかったけど、ここで会ったが運の尽き。逃がしはしない。 本人は、何の事?と惚けているけど、絶対にあれは俺の勘違いじゃない。 今朝俺が寝坊しそうになった時、いま目の前にいるこの男は、昨夜の言葉通りに寝てる俺を襲おうとしたんだ。 『おはよう』 『…ん…』 『ん…じゃないよ、もう起きないと遅刻するよ』 『…ん、起き…た』 『嘘だろ、絶対。…起きないならいいけどね』 『……?……う、わ…っ!どこ触ってるんだよお前は!!』 そこで一気に目が覚めたのは言うまでもない。 タオルケット越しとはいえ、どこを触られたかは絶対に口に出したくない。 「絶対に気のせいじゃない!…お前、本性現したら変態って問題ありだぞ」 「誰が変態だって?」 「秋。…痛っ…!なんだよ、本当の事だろ!?」 笑顔の秋に容赦ない力で手首を掴まれた。 全力かよ!めちゃくちゃ痛い! 掴まれた腕を取り戻そうと必死に引っ張ろうとしたその時、俺達の横を通りすぎる他の生徒の視線が、何気なくチラチラとこっちを見ている事に気がついた。 そうか…、秋…か…。 こういうやりとりを公の場でしない方がいいという事は、なんとなくわかっている。 でも、いくら引っ張っても秋が腕を離してくれない。 …それならこのまま秋ごと引き摺って移動してやる! 視線は痛いし、何を考えているのか秋は腕を離してくれないし。自棄になった俺は問答無用で腕をグイグイと引っ張ってその場から歩き出した。 side:北原 「春香(はるか)!次の授業の課題見せて!」 昼休み。 特に行くあてもなくフラフラと廊下を歩いていた北原春香は、背後から誰かに呼びとめられて振り向いた。 足早に近づいてきたのは、校内でもそこその人気があるクラスメイトの市川悟(いちかわさとる)君。 その姿を見て、以前、市川君と仲の良い友人に言われた言葉を思い出した。 『市川って絶対に北原のこと好きだと思うよ』 それが本当の事なのかいまだにわからないし、僕にとっては別にたいした事じゃないからどうでもいい。 とりあえず、嫌いじゃないから微笑んでおく。 「うん、終わってるからいいよ。それじゃあ教室に戻ろう」 「やった!サンキュ。助かる」 満面の笑みで本当に嬉しそうに言う市川君と肩を並べて、教室に向かって歩き出した。 「なぁなぁ、春香っていつも勉強どこでやってんの?」 「ん?普通に寮の部屋でやってるよ」 「偉いよな~。俺なんて寮に戻ったら一気にやる気なくすわ」 情けなさそうに言う姿が、ヘロンと耳が下がった犬みたいで可愛い。 結構人気あるし家柄も悪くはないし、付き合っておいて損はないかな。 溜息を吐いている姿を横目に見て笑いながら歩き進めていると、今歩いている廊下と交差するもう一つの廊下の途中に、とある人物の姿を発見して歩みを止めた。 …黒崎君…。 その姿を見るだけで嬉しい気持ちになる。自然と顔が緩んでしまう。 けれど、今日はそんな気持ちになれない。黒崎君の横に、誰かいる。 それも、凄く仲が良さそうに…。 「…春香…?」 市川君から怪訝そうな声をかけられてハッと我に返った。 気付けば、いつの間にか眉間にシワを寄せている自分がいる。 慌てて市川君に笑顔を向けようとしたけれど、その瞬間、黒崎君と一緒にいる人物の顔が視界に入って、…口元が歪んだ。 「…またあの人…。なんで…」 黒崎君に手首を掴まれて、まるで周りに見せ付けるかのように親しげに話しているのは、同じ二年の天原深。 寮の同室ってだけでも許せないのに、校舎内でも黒崎君を1人占めするなんて信じられない。 黒崎君が優しいからって調子に乗ってるんだ。 ただの一般生徒の癖に!黒崎君につり合ってないって自覚しなよっ! おまけに、鷹宮会長にまで手を出してるみたいだし。きっと、あの綺麗な顔で誑かしてるんだっ。なんで皆それがわからないの!? そう叫び出したいのを堪えて、唇を噛み締めた。 僕はどうすればいい?どうすれば、黒崎君と鷹宮会長からアイツを引き離せるの? 湧き起こるどす黒い感情のままに二人の姿を見ていると、黒崎君に掴まれた腕をそのままに歩き出す天原深の様子が視界に入った。 楽しそうなあの顔。 …………許せない…。 目の前から去っていく二人の後ろ姿を見ていられなくなって、立ち止まっていたその場から逆方向に向かって走り出した。 「ちょ…待てよ。春香?!」 後ろから市川君の声が聞こえたけど、そんな事に構う気分じゃない。 …早くなんとかしないと…、黒崎君がアイツに騙されちゃう! 頭の中は、どうやって2人を引き離すか、ただそれだけが駆け巡っていた。 side:北原end

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