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第1話
ウソだ、ろ……。
弦を弾くピックを取り落としそうになるのを、必死で掴んでリズムを弾く。
耳に響く俺たちの音に完全に馴染んで、肌をぞくぞくとザワつかせるような感覚にごくりと喉を鳴らす。
そこには俺たちが求めている【唄】があった。
歌詞は即興で適当なのだろうが、声が理想的すぎて、頭がかち割られるような気がした。
俺は必死にその【唄】を聞きたくて、弦を弾いて掻き鳴らす。
もっと聴きたい。ずっと聴いていたいという欲求に勝てなくて必死に腕を動かす。
スタジオの狭い空間でショボイスピーカーからでははなくて、せめて箱 で大音量で聴きたい。
弾いている俺たちが心地好くて、酔ってしまいそうな、そんな声……だった。
最後のリフが終わると、奴はこれみよがしに俺に振り返ると、勝ち誇ったような表情を浮かべて長い黒髪をファサッと手で払った。
「初めて聴いたけど、結構良い曲。で、ショボイ歌声とか言ってくださったリーダーさん、どうかな?オレの声」
結果などわかり切っているという表情を浮かべる彼に、俺は反論は出なかった。
数週間前にうちのバンド、BEASTのボーカルだった鉢屋は、ドラッグで逮捕された。どうやら割のいいバイトと言われて運び屋をやっていたらしい。
ヤクザにも目をつけられたのもあり、脱退すると言われた。
もうすぐメジャーから声がかかるとも噂された矢先だった。
「……ショボくはなかったよ……。要には断られたって聞いたから……入ってもらえねえのは残念だけど」
駅前で歌っていた彼を、要は聞き惚れてスカウトしたというのだが、BEASTだなんて知らないバンドには入りたくないと、あっさり振られたらしい。だというのに未練タラタラスタジオまで拉致してきたのだ。
ついつい生意気な態度に、俺はショボいボーカルならいらないと息巻いちまった。
昔から喧嘩っぱやいのは悪い癖だ。
一応ガテンだが就職もしている社会人としてはあるまじき言動だったかもしれない。
「んー、このバンド、入ってあげてもいいよ」
上から目線の口調で黒髪のガキが下から俺を見上げるので、思わず睨み返す。
「マジで!!やったじゃん、カズ!!」
要が嬉しそうにガッツポーズをするが、薄笑いを浮かべる奴に俺は思わず胸ぐらを掴み寄せた。
「な、何が狙いだ?」
「良い曲だから歌いたくなっただけだけど……やっぱやめようかな。あ、リーダーさんがオレの言いなりになってくれるならって条件だそうかな。オレ、威張られるの嫌いだから」
奴は俺を挑発するかのように、綺麗な顔で微笑んだ。
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