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第2話
目の前で放たれた言葉に一瞬面食らった。
昔の俺ならばその場でタコ殴りにしていただろう。いや、コイツの唄を聴く前であれば、瞬殺で息の音を止めるくらいのことはしていた。
なのに、一瞬考えてしまった。
俺がいいなりになるくらいで、この唄が手に入るなら、と。
「……ナニ言ってんだ、オマエ」
掠れた声を出すのが精一杯で、周りを思わず見回すと、ちょっと諦め顔の要の顔が見えた。
「そのままの意味だよ」
さっき俺が余計な一言を言わなければ、彼は円満に加入してくれそうな口調だったのだ。
威張られるのが嫌いだと言う奴の言葉も、カチンときたが俺が折れないだろうなと見透かしての表情にもなんとなく腹がたった。
こんなにも腹がたつのに、口惜しいことにそれでも迷いが生じるくらいには、彼の歌声に魅了されていたのだ。
「……分かった。オマエの言うことを聞いてやる。それでいいのか」
「へえ。余程オレの声を気に入ってたんだ。ちょっと意外だけど、いいよ。バンドに入ってあげる。それと、オレの名前はオマエじゃなくて、斎川 大鐘 、タカネでいいよ」
マイクをスタンドに立てると、俺の顔を覗き込んでから、アンタはと尋ねた。
「三門一雅 だ……」
「ミカド……、呼びにくいね。ミカちゃんでいいかな。いかにもエンペラーとか王様とか言う感じ、似合い過ぎててキモイし」
先にどう呼んで欲しいかか伝えなかった俺にも非があるが、勝手にミカちゃんとかアホな呼び方をされて、思わず口を開きかけると、
「オレに逆らわないでよね?言いなりでしょ」
と指先で唇を押さえされて、言葉を飲み込んだ。
しばらくたてば、そんな約束などすっとんでいくだろうと、俺はタカを括っていたのだ。
「で、ミカちゃん。オレ、久留米から出てきたばっかでさ。ストリートで歌ってホテル代稼いで暮らしてたんだけど、今日からミカちゃんち泊めてね」
にっこりと綺麗な顔で当たり前のように言われて、思わず何でと口から反論の言葉を吐いてしまった。
「スタジオまで付き合ってきたわけだし、これから駅に戻っても、もうゴールデンタイムは終了しちゃってるし」
そう言われた俺は、仕方なく頷くしかなかった。
要は実家ぐらしだし、ドラムの斗哉は会社の独身寮で暮らしていて、一人暮らしなのは俺だけだった。
「分かった……。こっちでバイトとかする気はねえのか」
変なバイトで鉢屋の二の舞は踏みたくはないとは思い、少し心配になって斎川に問いかけた。
「歌でしか稼ぐ気はないよ。それだけ後戻り出来ない真剣な気持ちで上京したわけだからね」
斎川はそう言うと、持って来た荷物を肩に担いだ。
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