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第3話

歌でしか稼ぐつもりはないと言い切った斎川の言葉にガンッと頭を殴られたような気分がした。 俺は高校卒業して、すぐに建設業に就職してある程度の生活基盤を作った上で、バンド活動をしている。 ある意味逃げ道を作っているのと一緒だ。 才能があるのはひと握りの奴らだと、どこかで駄目だった場合の生き方も残していた。 かといって、フリーターじゃ駄目だ。とてもじゃないが金が足りない。 スタジオを借りるのも箱を用意するのも金がかかりすぎる。 最近、やっと箱代くらいのチケが売れるようになってきたのに、鉢屋の件できっとダダ下がりになるだろう。 「まあ、宿くらい貸してやれって。タカネのあの歌なら……釣りは出るだろ」 ぽんぽんと要は希望に満ち溢れた笑顔を向ける。 俺はアンプからベースのコードのジャックを引き抜いて頷くと片付けを始めた。 斎川に才能があるのはよく分かった。 俺らの曲はあの声を活かしてやれるのか。 覚悟のある斎川の言葉に、俺は自分の中途半端な覚悟のなさを突きつけられた気がして拳を握りしめた。 「結構駅から歩くんだな」 俺の後ろを歩きながら、斎川は疲れただの文句を言っている。 とはいえ、ヤツのアコギと自分のベースも担いでいる俺のが百倍疲れている。 言いなりになる約束はまだまだ有効なようで、メンバーと別れて開口一番、荷物運びを命じられた。 肉体労働は、俺にとっては本分なのだが、一日働いてスタジオに駆け込んで練習をして疲れ切った体には、死人に鞭を打つ所業である。 「駅チカに住めるほどの稼ぎはねえし、大体車移動だからな」 「車でスタジオ来ればいいのに」 「駅前の駐車場バカ高いんだよ」 「え、1日500円くらいじゃないの」 「1時間1800円すんぞ、アホ」 どうやら斎川は本当におノボリさんなのか、コッチの物価をしらないようだ。 なんとか自分のアパートにたどり着くと、鉄骨の階段を登っていく。 「わ、都会にもこんなボロいとこあるんだ。うえ、マジでヤバくない」 「金はねえからな。ホテルのようにはいかねえぞ。部屋も狭いし」 イヤならホテルに行けという態度を出して、部屋の鍵をあける。 狭いといっても、築30年の物件で2DKはあるので、斎川1人くらいを泊めても問題はない。 「入れよ」 玄関に入ると、斎川はお邪魔しますと意外に良い態度で頭をさげて靴を脱いで中に入ってきた。 「ウチは悪いが禁煙だからな」 「吸わないよ。まだ未成年だし。何より喉に悪いじゃない」 「未成年!?おい、いくつだよ」 部屋の中をグルッと見回して、斎川はふうんと呟く。 「あー、19。外はボロいけど中は意外に綺麗でカッコイイ部屋だな。ミカちゃん、髭生やしてるし、掃除とかしそうにないのに」 「髭面に酷い偏見やめろ」 ため息をついてお気に入りのソファーを指さしてどうぞと座るように促した。

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