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エピローグ
「綿貫が奢ってくれるなんて言うから、どんな裏があるのかと思ってびびったー」
衣笠は緑色に透き通るグラスの結露をコースターに落としながら笑う。
「お前こそ!
いきなり『ゴメン』なんて言うから、何があったのかと思った」
俺はやっぱりメロンクリームソーダにしておけばよかったかなと少し後悔しながら、アイスコーヒーフロートを啜る。
「ゴメン! だって、お前の秘密の場所、勝手に教えちゃまずかったかな、って心配になったんだよ」
「いいよ、俺だって元々先輩に教わったんだし。秘密ってほどでもないだろ」
「……それが、そのお客さん達のアップした動画っていうのを開いてみたんだ。そしたら」
衣笠は取り出したスマートフォンで動画サイトを見せてきた。
「この人達?」
「そうなんだ。アクセス数、見てみて」
目を疑った。つい数時間前の公開で、すでに10万件のアクセス数を稼いでいる。『温泉最高!フォローしてくれるみんなと一緒に来たかったな』なんてコメント付きの動画に、リアルタイムでイイねが増え続けている。
過去の旅行記動画の再生回数を見て、絶句した。
「もしかして、これって……」
「な?」
「ここの温泉街、世界中の人が見てるってこと? で、聖地巡礼みたいに押し寄せるってこと?」
「言うな綿貫。みなまで言うな」
「エンディングで全員で喋ってたの、あの岩場だよな、あそこもルートに入っちゃうってこと?」
衣笠の沈黙が全てを物語っている。この夏、あの静かだった高速道路の下を目掛けて観光客が移動する。タクシーの運転手さんには何が起きたのかわからないままだろう。
これじゃあ去年みたいに呑気に日焼けしに行けないな。
俺は目の前の衣笠をチラ見した。
すっかり大学生らしくなって、去年の危なっかしいところはもう見えない。にょきにょき身長伸ばしやがって! くそっ。
目線に気づいた衣笠が、こっちを見て笑う。アイスが溶けた分甘みを増したグラスの中とリンクしているような甘ったるい笑い方で。
「だからゴメンってば。帰りの自転車、乗らないで押してやるから許して?」
――いや、今日は意地でも乗せて帰ってやる!
<おしまい>
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