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想い寄せ合って 5
観覧車から降りると、まだ時間が十五分程残っていた。僅か一時間がこんなにも愛おしく充実していると感じるのは、いつぶりだろうか。
「瑞樹。もう大丈夫か」
「あっハイ」
いやいや……まだ少し動揺しているな。
瑞樹と初めて、想いを寄せ合ったキスをした。
朝したのや観覧車に乗ってすぐのものとは別格だった。
俺からの欲情に負けた一方的なものでもなく、瑞樹からの心を誤魔化すようなキスでもなく、瑞樹と俺の心が歩み寄った瞬間だった。
柄にもなく、まるでファーストキスをしたかのように新鮮で胸が高鳴る味わいに酔って……本当にやばかった。なんとか自制した下半身の辛いこと。
「じゃあ、もう一つだけいいか。おすすめの乗り物があるんだ」
「何ですか」
「あれに乗ったことあるか」
指さす方向には、パラシュートのような形のアトラクションがあった。中心のポールを軸に上昇すれば野球ドームを遥かに見下ろす高さになるので、気持ち良さそうだ。
「いえ……」
「ふぅん……なんだ瑞樹は思ったより乗り物に乗ってないな」
「あっその……アイツは高所恐怖症で、観覧車のゴンドラがやっとで……あぁ……こんなこと……」
語尾が小さくなっていく瑞樹が可哀そうなのに、しどろもどろになっていく姿が可愛いとニヤついてしまう。
あーこれは典型的なあれだな。
好きな子にちょっかいを出す気分って奴か。
俺も意地が悪い。
瑞樹を知れば知るほど、瑞樹と俺にとっての『初めて』がもっともっと欲しくなってしまうなんて。恋は人を貪欲にするとは、よく言ったものだ。
「いいんだよ。ならパラシュートは初めてだな。さぁ急ごう!」
「あっ待ってください」
アトラクションは空いていたので、待ち時間なしで乗ることが出来た。
「さぁおいで」
「はい」
アトラクションの対象年齢は五歳以上なので、以前芽生と来た時はまだ小さくて乗れなかったから俺自身も初めてだ。俺と瑞樹は肩を寄せ合って、白いバスケットのような網状のカゴに納まった。
「では出発ですー!」
係員の明るい掛け声と同時に、パラシュート型のゴンドラは真っすぐに一気に上昇していく。
「わぁ!」
「おぉ!これはなかなか」
上昇した先には、広い都会の景色が広がっていた。そしてクラクラするような高さから、見た目以上の速さで一気に急降下していく。
「わわっ……滝沢さんっこれ結構来ますね。僕、膝がガクガクします」
気が付けば瑞樹の指先が、俺の上着の端をちょこんと掴んでいた。
もっとしっかり掴めばいいのに……
でもそんな控えめな所も瑞樹らしく、俺の口元は自然と綻んでしまう。
瑞樹といると優しい気持ちになれる。
幸せな気持ちになれる。
おっと、どうやらもう一度上昇するようだ。
一度地上に降りた後、もう一度上昇を始める。
半分位浮上した所で、俺は大胆にも瑞樹の腰に手を回して抱き寄せた。想像より細い腰に薄い肩だ。こんな身体で悲しみを背負ってきたのかと思うと切なさが募る。
「あの……」
「こうしていれば怖くないだろう?」
「……ええ」
瑞樹の優しい明るい栗色の髪が風に靡いて、キラキラ光っている。
梅雨入り前の爽やかな日差しが、ふわっと俺たちを包んでいる。
「確かに怖くないです。上昇して行くのって爽快な気分になりますね」
俺に腰を抱かれても、瑞樹はもう逃げない。
俺の気持ちを素直に受け止めてくれる。
真摯な態度で、俺に向き合ってくれる瑞樹のことをどんどん好きになる。
芽吹いた植物が太陽に向かってグングン成長するように
俺たちの恋もこのまま真っすぐ伸びていけばいい。
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