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尊重しあえる関係 11

   滝沢さんが広告代理店に勤めているのは知っていたが、働く姿をこの目で見るのは初めてなので、新鮮な光景だった。  滝沢さんって働いている時はすごく大人っぽいんだな。芽生くんに見せる父親の顔とも僕に向ける顔とも違って、ぐっとクールな印象だ。テキパキとカメラマンに指示を出し、どんどん仕事をこなしていく様子を垣間見て感心してしまった。  同時に凛々しく仕事をこなす姿に、同じ男として憧れにも似た気持ちが湧いてしまうよ。彼は決断力に優れた『出来る男』なのだろう。僕にはない強さが魅力的だ。  それにしてもカメラチェックする真剣な眼差し、ドキッとするな。あんな風に熱く見つめられたら女性ならすぐに靡いてしまうに違いない。  滝沢さんカッコイイから……なんか心配だ。  あ……僕、今……嫉妬しているのか。  今、彼は真面目に仕事をしているのに不謹慎だと反省した。  結局一時間以上待っただろうか。でも仕事をこなす滝沢さんの姿を見るのに夢中だったので、時間なんて少しも気にならなかった。 「あっ終わったみたいだ」  滝沢さんがカメラマンの人と別れたのを確認してから背中をポンっと叩くと、彼は僕を見て驚いた後、嬉しそうな笑顔を浮かべてくれた。  よかった……怒っていない。  そのまま家まで送ってくれるというので素直に彼の車に乗った。この誘いは僕も滝沢さんと二人きりになりたかったので嬉しいものだった。 「瑞樹、ここは俺の気に入ってる場所なんだ」  途中で夕日が綺麗な公園に立ち寄った。そこは高台にあり車に乗ったまま正面にオレンジ色に染まる大地と日没を拝める雄大なスポットだった。 「わぁ……これは絶景ですね。雄大な景色は故郷を思い出します」  見渡せば辺りにずらっと同じような車が並んでいた。そうか……ここはデートコースなのか。あっ今僕……もしかしてさりげなくデートをしているのかと思うと恥ずかしくなった。  一馬と僕は東京では車を所有していなかったので、会社帰りにスーツのまま車で移動するのは新鮮だった。だからなのか僕は妙にハイテンションになってしまい、滝沢さんから渡された紅茶のラベルのバラについてのうんちくをベラベラと語ってしまった。  僕はいつの間にか自然と滝沢さんと付き合い出している。  でも……あまりに自然に進んでいく新しい恋というのものに、まだ時々抱かなくてもいい罪悪感を抱いてしまうのは何故だろうな。そんな僕の心なんて滝沢さんにはお見通しなのか、会話が途切れた瞬間に顎を掴まれてしまった。  もしかしてキスを……? 「夕日が眩しいな」  そんな一言もニクイほど男らしい声で言うんだから困ってしまう。だから僕もそっと瞼を閉じて彼を受け入れる姿勢を取ると、唇に温かいものが触れた。軽い口づけの後、滝沢さんに問われた。 「瑞樹に少し深いキスをしても?」 「あっはい……」  その言葉に応じるように口を半開きにすると、舌先がグイっと強引に入って来たのでびっくりした。今まで滝沢さんとは紳士的なキスしか知らないから、こんな力強い口づけは初めてで動揺してしまう。慌てて首を振ったが、顎をしっかり固定されている上にもう片方の手で後頭部をホールドされてしまい、動けなくなった。 「はうっ……んっ……あっ」  嵐のように情熱的なキスを受け続けた。唾液が唇の端から漏れてしまう程に…… 「あっ……もう……離して」  逃れ逃れお願いしても、今日は聞いてもらえない。  さっきまで紳士的だったのに……  少し不安になってしまう。でも滝沢さんとのキスが嫌なわけじゃない。むしろ気持ち良さにもっていかれてしまう。でも……急に降って来た激しいキスに頭がついていかない。 「なんで……こんな……」 「さっき驚かせた罰だ」 「えっ……」  

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