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分かり合えること 10

「瑞樹!!」 「瑞樹!!」  次の瞬間、背中に凄い痛みを感じ、同時に兄さんと滝沢さんの声が重なった。 「くっ……」  兄さんのパンチ強すぎだ。  その場に崩れ落ちていく僕の躰を、滝沢さんが正面からガシっと抱きとめてくれた。滝沢さんの大きな手のひらが僕の素肌にぴたっと直接触れた。腰のあたりをしっかり両手でホールドされた艶めかしい感触に、感電したかのように腰が震えてしまった。  あっ……僕……今、何も身に着けてない!  その時になって自分が今どんな状態で二人の前に飛び出したのか悟り、羞恥で震えることになった。 「はっ離して下さい!」 「あっあぁ……」  滝沢さんも真っ裸で飛び出してきた僕に唖然としているようで、焦った様子でぱっと手をぱっと離してくれた。 「うっ……」  兄さんの手が命中した肩も痛くて、そのまま床に蹲った。  は……恥ずかしい。男同士とはいえ、彼は……僕が恋愛の相手として意識する相手なんだ。そんな人に……こんなカタチで裸体を晒してしまった。 「みっ瑞樹!馬鹿!そんなカッコで出てくるなんて!早くこれをっ」  すると兄さんが慌ててベッドからブランケットを持ってきてくれたので、急いで躰にグルグルと巻き付けた。受け取る時に兄さんの顔をチラッと見ると、目のやり場に困ったように目元を朱色に染めていた。  兄さんは開放的な姿で家をうろつくから、裸は見慣れていたし……男同士、小さい頃には何度も風呂にも入った仲なんだ。でも兄さんにそんな反応されると……ますます気まずくなるよ。  僕は女じゃあるまいし同性に裸を見られたこと位、笑って済ませばいいのに……それが出来ないから、沈黙が異様に重たくなってしまった。  やがて兄さんがコホンっと咳ばらいをして、場を仕切り出した。 「瑞樹、殴って……ごめん。肩を痛めなかったか。全く間に入るなんて無茶して……」 「……大丈夫だよ」  本当はまだ鈍痛が続いていたが、兄さんには余計な心配かけたくなかった。 「とにかく一体これはどういうことなのか、ちゃんと説明してくれよ。まずこいつは瑞樹の……その、元カレなのか。この部屋にお前をひとり置いていった同居人だった奴なんだろう?」 「えっ……」 「えっ?」  今度は僕と滝沢さんの声が重なる。  その前に何で兄さんが同居人と説明していた一馬との関係を『元カレ』と言うのか……それって僕が男性と付き合っていたことを知っているってことになるのか。激しく動揺してしまう。  東京に出て来た僕には男の恋人がいて、ずっとこの部屋で抱かれていたこと……兄さんには知られたくなかった。余計な心配かけたくなかったのに。 「あっ……うっ……」  必死に何か言い訳をしようにも声が紡げない。怯えた眼差しを恐る恐る向けると、兄さん少しも怒っていなかったのが意外だった。更に困ったように笑ってくれた。 「あーもう瑞樹……そんなに不安そうな顔をするな。俺はいつもお前を守って理解してやったろう。大丈夫だ、大丈夫だから少し落ち着け」 「ごめん……なさい」 「馬鹿……こんな時でも謝るなんて!お前は本当に……お人好しな馬鹿だよ。でも最高に可愛い奴」  兄さんがグイっと僕の後頭部に手を回し、胸元に抱き寄せてくれた。昔から僕が泣きそうになると、その広い胸で涙を拭いてくれた。でも……今、滝沢さんの前でそれをされるのは、ちょっと戸惑ってしまう。 「にっ兄さん!」 「瑞樹……俺にもこの状況を説明して欲しい」  滝沢さんの低い声が背後から聞こえたので、兄さんの胸から慌てて離れた。   「すいません。滝沢さん……この人は僕の兄なんです。兄さん……この人は僕が今……好きな人なんです」 「え!!」 「え!!」  今度は二人が顔を見合わせて、愕然としていた。 「じゃあ……こいつは瑞樹の元カレじゃなかったのか!」  二人の言葉が重なって、どうやら誤解は解けたようだが……一難去ってまた一難か。 「瑞樹にお兄さんがいたなんて知らなかった。空港で抱き合ったと聞いたし……随分兄弟仲がいいんだな」 「瑞樹……お前の恋人が男だってのも兄さんには衝撃だったが、新しい恋人がもう出来て、家にまで訪ねて来る仲だなんて……ちょっとショックだった」  ふたりに妬むように呟かれて、板挟みだ。  兄さんも滝沢さんも大切な人だ。種類は違っても、僕にとってかけがえのない人。 「ごめんなさい……二人とも……ごめんなさい」  また謝ってしまう。どちらにも申し訳なくて謝ることしか出来なかった。  すると兄さんと滝沢さんは互いに顔を見合わせ、肩を竦め合った。 「いいよ、瑞樹……」 「あぁもう謝るな」  また重なっていく。優しい許しの言葉が……兄さんも滝沢さんもいい人すぎる。 「あんた何歳?」 「瑞樹より5歳上の31歳だ」 「なんだ、俺もだ」 「なんだタメかよ」 「そうみたいんだな。ちょっとビールでも飲むか。弁当食う所だったんだ」 「おぅ」  もともと肝っ玉の据わっている兄だから、前向きにこの状況を受け入れようと努力してくれる気持ちを感じられて、ただただ嬉しかった。  滝沢さんが何故今日ここに来てくれたのか。さっき空港で……とか、分からないことばかりだ。でもこの二人が仲直りしてくれたようなので、今はそっとしておこう。 「あーとのかく瑞樹は何か着て来い!そんな恰好じゃ、また風邪ひくぞ!」 「あっ」  兄さんに言われて……自分がまだ真っ裸にブランケットを纏った姿なことに気が付いた。 「……刺激的過ぎる……ヤバイ」  滝沢さんもボソッと変なことを呟くし……  二人の視線がとにかく変に熱く感じて……僕は慌てて脱衣場へと逃げ込んだ。

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