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原っぱピクニック 1

 目覚ましの音で、すっと目覚めた。 「んっ……もう朝か。久しぶりにぐっすりと眠れたし……いい夢を見ていたような気がする。」  今日は滝沢さんと芽生くんと、僕達が出会った公園にピクニックに行く約束の日だ。でも時計を見るとまだ時間がかなりあったので、布団にもう一度潜り込み、昨日のことを思い返すことにした。  スズランが揺れるチャペルでの光景……印象的だったな。花嫁のブーケや髪飾り、花婿の胸元にもスズランの花が五月の薫風を受けて優しく揺れていた。どこもかしこもすべてが幸せな色に包まれていた。  参列者からも、優しい気持ちになれるお花のデコレーションだという賞賛の声が聞こえ、気恥ずかしかったが、充実した気持ちになれた。フラワーデザイナーとしてはまだまだ未熟なのは自分が一番分かっている。でも今の僕に出来る精一杯のことは出来た。  この初心を忘れずにやっていきたい。  僕が誰かの結婚式を見守るのは、一馬の時以来だ。でもあの時とは全く違う気持ちだった。  一馬の結婚を陰からひっそりと見守り、見送った僕はもう過去だ。  一馬を恨みたい気持ちも、あいつを引き留めて縋りたい気持ちも……全部整理していた。だから一馬の幸せを切に願ったのは本当だ。あの時の僕に出来ることがそれしかなかった。恨んでも何も解消しない、自分を苦しめるだけだということを身をもって感じていた。  でも……昨日はもっと違う別次元の達成感と希望が溢れていた。  僕もいつかスズランの花咲く野原で……滝沢さんと芽生くんと並んでみたい。  自然と淡い色の夢を描いていた。そしてそんな未来予想を出来るようになった自分が嬉しかった。もう朧気だが、起きる直前まで見ていた夢の内容も同じだった。 **** 「おべんと、おべんと、ウレシイなー」  朝からハイテンションな芽生が、キッチンの周りを行ったり来たりしている。 「おーご機嫌だな。そうか、そんなに嬉しいか」  目を細めて問うと、芽生は更に嬉しそうな顔になった。 「だって、ひさしぶりにお兄ちゃんにあえるんだもん!」 「ははっそうだな。芽生も瑞樹のことがすごく好きなんだな」 「うん!おにいちゃんはママみたいに優しいし、キレイー」  お?いい事いうな。瑞樹はとても綺麗だ。それは外見だけじゃなく中身もな! 「分かる!でも料理はパパの方が上手だろ?」 「うーん、そうだなぁ、お兄ちゃんの作ったご飯ってどんな味かな。きっと上手だんだろうなぁ、ねーパパ食べてみたいね」  んんっ……それはどうかな?  瑞樹自ら料理は一番の苦手だと言っていたし、瑞樹のお兄さんの口ぶりからも伺える。だがそう言われると、俺も食べてみたくなるな。愛妻弁当って奴か。そう思うと途端にワクワクした気持ちで一杯になる。俺も小さな子供みたいに瑞樹のことを考えるとワクワクしてくる。 「パパも食べてみたいな(期待はしていないが、興味がある!)」 「そうだ!いいこと考えた!今度うちにきてもらおうよ!それでご飯をつくってもらって、一緒にお風呂に入って、また僕の部屋で一緒に寝るんだ~」  芽生の空想はどんどん膨らむ。子供の夢は果てしない。  しかし瑞樹と一緒に風呂だと?  ううう……なんかそれって芽生にとっては最高に美味しいフルコースだが、俺にとっては。悶々と苦しむ羽目になりそうだ。瑞樹に触れたくて触れられなくて、悶え苦しみトイレに駆け込む情けない自分の姿が浮かんで、頭をブンブンっと振った。  瑞樹とはまだキス止まりだ。  瑞樹の兄さんにも誓った通り、俺は瑞樹の気持ちが前の彼から完全に離れ昇華出来るまで気長に待つつもりだ。即物的には抱かない。こんなに性的な我慢をするのはいつぶりだ。望めば女でも男でも幾らでも抱ける立場で生きてきた昔の傲慢な俺を、蹴飛ばしてやりたい。ふたりきりの車中でキスした日、以前の俺だったらそのままホテルの直行していただろうな。  瑞樹は野に咲く花のような人だ。  車のタイヤで下敷きになんてしたくない。  優しく寄り添っていきたい人だから。 「芽生はいいな」  思わず息子に妬いている事実をぽろりと漏らしてしまうと、芽生は幼い顔を少し困ったように曇らせた。 「んーもうパパってば。あっもしかしてやきもち?分かったよぉ。おいにちゃんが寝た次の日は布団にいれてあげる」 「はぁ?それ、どういう意味だ?」 「だってこの前のパパ、クンクンして楽しそうだったよーワンちゃんみたいなパパにメイまた会いたいよ!」  あぁあれか、芽生のベッドシーツに鼻を擦りつけるようにして、瑞樹の残り香を堪能した変態な俺の姿が、今度は浮かんできた。  うげっ……ほんともう駄目だ。  芽生と話していると、瑞樹に対していかに自分がおかしな行動に出ているかを思い知らされる。 「メイはね、カッコいい昔のパパよりも、今の方がスキー!」

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