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Let's go to the beach 5

 何というか……まるで艶やかな花のような人だ。  あぁ……まずい、僕は初対面の人をじろじろ見過ぎだ。男性に対して花のようだとか失礼だったかな。でもとにかく目が離せなくなる程の美貌だった。 「すいませんっ……」  慌てて不躾な視線を送ったことを詫びると、彼はそんなことは気にしていないようで、気さくに「水着が同じだね」と話しかけてくれたのでホッとした。でもこんな綺麗な人と同じものを着ているなんて照れくさい。 「あ……これは頂きもので」 「あぁ俺もですよ」  わぁ……そうなんだ。やっぱり彼女と選んだのかな。こんな美形の青年のことだから彼女もすごい美人だろうな……などと、あれこれ考えているうちに会話が途切れてしまったので、僕はロッカーに脱いだTシャツを入れ、日焼け用のローションを黙々と塗り始めた。  日焼けに慣れていない肌だから、何も塗らないのは危険だろう。このローションは『肌に負担なく手早く小麦色に焼ける』と書いてあったので楽しみだ。きっと菅野みたいにこんがり焼けるはず。小麦色の肌になった自分を想像すると、不思議な気分だった。  あれ?背中に痛い程の視線を感じるが、何だろう?  振り返るとさっきの青年がじっと僕を見ていた。 「あの……僕に何か」 「あぁすいません。それって何を塗っているのですか」 「あぁこれですか。実は日焼けしてみたくて。綺麗に日焼け出来るローションを買ってみたんですよ」 「へぇそんなのがあるんですね。いいな……」  憧れのこもった熱い視線を浴びた。もしかして日焼けに興味があるのかな……彼の肌も僕と同じく真っ白なままだった。 「よかったらコレ使います?」 「えっいいんですか」 「えぇ、僕は海には滅多に来ないし、使いきれないから、どうぞ!」  彼は研ぎ澄まされた美貌なのに、微笑むとあどけない幼さがあった。そんな所が可愛らしくて初対面なのにもっと話してみたいと思った。もしかして僕に通じるものを持っているのかな……不思議だ、見ず知らずの他人に、こんな気分になるなんて。 「実は俺も日焼けしてみたいと思って」 「あぁ分かります。やっぱり男なら憧れますよね。小麦色の肌って逞しく見えるし!」 「ですよね!」  綺麗で華奢な躰つきの青年には、白い肌のままが似合うと思ったけれども、日焼けに憧れる気持ちは僕にも痛い程よく分かる。だからすっかり意気投合してしまった。 「どうぞ使ってください」 「ありがとう!ではお借りしますね」  彼は着ていたTシャツを豪快に脱ぎ捨て、ローションを上半身や足、腕、顔に塗り出した。 「あれ……あっ零れちゃった。あれ?足りない……」  んん?外見はとても繊細そうなのに、ローションの塗り方が雑過ぎだろう。背中……全然塗れてないし……僕が手伝った方がいいのかな。あんなにムラに塗ったら、まだらに焼けてしまうのに……あぁもう、心配で目が離せない。 「あの……よかったら背中に塗りましょうか」 「えっいいんですか……助かります!」  彼のことを何故か放って置けなくてお節介kaと思ったが提案すると喜ばれたので、ほっとした。  うわっ顔も美しい上に、きめ細やかな絹肌で背中の曲線もとても綺麗だ。  例えると百合の花……いや、純白のオーニソガラムに近いかな。つい人を草花に当てはめてしまうのは僕の職業柄の癖だ。  背中にまんべんなく塗ってあげると、心から喜ばれた。 「どうでしょう?塗り残したところはないと思うのですが」 「ありがとうございます!俺もあなたの背中に塗ってあげますよ」 「えっでも」 「自分じゃ無理だから、遠慮しないてください」 「……すいません」    今度は彼が僕の背中に塗ってくれるそうだ。有難くお願いしたけど一抹の不安が。なんというかさっきから手つきが危なっかしい。ローションを少しずつ伸ばすから途中で足りなくなるし、足しすぎて背中からドロっと床に落ちていく。うわわ……不安だ。もしかして失礼だけれども、顔に似合わず超不器用なのかな。  そんなことをしていると突然ロッカーの入り口から男性の険しい声がした。 「洋、一体何をしている?遅いぞ」 「あっ丈……何って、その……」  彼はいたずらが見つかった子供みたいにビクッとした。会話からどうやら親しい連れのようだ。   「ありがとうございます。もう僕の方は大丈夫ですから行ってください」 「すいません。ローション貸してくださってありがとうございます」 「いえいえ、上手く焼けるといいですね」 「お互いに!」  何だかもっと話してみたくて、後ろ髪を引かれる思いだった。  迎えに来た男性と並ぶ彼の様子を見ると、お似合いだなと自然に思ってしまった。って……もしかしてそういう関係とか。僕って考えが飛躍しすぎかな。でも彼が僕と同じ立場だったら、ますますいい友人になれそうだ。 「瑞樹どうした?百面相してるぞ」 「あっ宗吾さん、すいません」 「おにーちゃん~おそいから、パパがすごく心配していたんだよ。おむかえにきたよー」 「そうだぞ。あんまり遅いから焦った。何かあったらどうするんだ。あまり一人になるな」 「すいません。ここでとても綺麗な人に会って、少し話していたんですよ」 「え……綺麗な人?」  心の赴くままに答えたら、宗吾さんがそのまま固まってしまった。そこでやっと自分の発言の生む誤解に気が付いた。 「あっ違うんです!綺麗な人って男性です」 「綺麗な男性?うーん、俺には瑞樹が一番キレイだよ。さぁ早く行こう。それにしてもその姿……ラッシュガード着せたくなるな。せめてさっきのTシャツを……」 「クスッ大丈夫ですよ。宗吾さんが傍にいるんだから」    男なのにそういう心配をされるのは不本意だけど、前科があるから素直に受け入れた。それに宗吾さんに心配されるのは嫌じゃない。むしろ嬉しい。 「うーん、だがなぁ一番俺が危険かもしれないぞ」 「何言って……」  宗吾さんが甘い言葉と共に、僕の背中に手を回してきた。その手の平の熱に僕の方だってドキっとする。だって宗吾さんもTシャツを脱いでいたから、筋肉の盛り上がった逞しい上半身が近すぎて…… 「あれ?瑞樹の背中ベトベトだ。もしかして何か塗った?」 「あ……日焼け用のローションをちょっと」 「えっ日焼けしたかったの?」  宗吾さんは意外そうな顔をしていた。 「はい……僕だって少しは逞しくなりたいと……」 「へぇ逞しい瑞樹か……」    あっ……嫌がられるかな。不安が過ってしまった。日焼けはきっと……宗吾さんの好みじゃない。 「うん、それも悪くないな。だって俺しか見たことないだろう。そんな瑞樹の姿はさ!」  豪快に笑う宗吾さんの笑顔が明るくて、つられて僕も笑った。 「はい。宗吾さんと一緒に日焼けしてみたいです。その……僕の初めて……だから」

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