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Let's go to the beach 11
「芽生くん、ぐっすりですね」
「海ではしゃぎ過ぎたようだな。シャワー浴びてそのまま眠っちまったな」
「えぇ、すごく可愛い寝顔です」
あれから僕が芽生くんをおんぶしている間に、宗吾さんがすごい早業でシェードなどの荷物をまとめてくれ、ビーチのすぐ目の前の宿に戻って来た。芽生くんにシャワーを浴びさせた時は一度起きてくれたが、また夢の中に潜ってしまった。
それにしても和室に布団を敷いて、宗吾さんと一緒に、スヤスヤと寝息を立てる芽生くんを見守るのは、とても不思議な心地だ。
五月までの僕には、こんな光景は全く見えていなかった。一馬の未来には見えても、僕には絶対に望めない世界だったのに。
「瑞樹、さっきの人達とは良い出会いだったな」
「えぇ僕もそう思っていました。あの……宗吾さんは北鎌倉の月影寺ってご存じでしたか」
「いや鎌倉のような風流な所には行ったことが殆どなくてな。申し訳ないが知らなかった」
「実は……僕もです。でもとても感じがよいご住職でいろいろ話を聞いてもらえました。それから新しい友人が出来ました」
「あぁ、あの美しすぎる子だね。確か洋くんと言ったな」
「えぇ、でも彼は華やかな外見とは裏腹にとても真面目そうで……静かな情熱を持っている人のようですね」
「うむ、だがあの外見じゃかなり苦労したろうな」
「……」
このタイミングで……僕も潤との確執を話してしまおうかと思案した。だがそれを自らの口から言うのはやはり気が重く躊躇してしまった。
その時、芽生くんが大きく寝がえりを打った。
「ん……むにゃむにゃ……スイカさん~まって~」
「クスッ可愛い寝言ですね」
「どんな夢だろうな。芽生はまだまだ小さな子供だな。今日はつくづくそう思ったよ。いつも俺と二人でいると生意気な事を言ったり、大人びた振る舞いをするが……今日は四歳の芽生の素のままを見た気がするよ」
「そうですね。泣いたり笑ったり、よく感情を表していましたね」
「それは瑞樹も同じだぞ」
「えっ」
「……君の泣き顔は……かなり切なかった」
「あっ……すいません」
宗吾さんの手が、思わせぶりに僕の髪に触れてきた。指先でそっと耳たぶを辿られ、じっと心の奥底まで覗き込むように見つめられてドキドキしてしまった。
「今日は……何故あんなに泣いた?俺にも話して欲しいよ」
「あっ……」
「無理にはと言わない。でも少しは俺を頼れよ。俺たちは今、付き合っているんだよな?」
「……はい」
芽生くんが眠ったのをいいことに、宗吾さんは僕の躰をきつく抱きしめた。僕は日焼けした肌がヒリヒリと痛く、まだ上着を羽織れる状態でなかったので、上半身裸だった。だから素肌の密着にはかなり動揺してしまった。
そんなことお構いなしに、僕の背中に宗吾さんの大きな手のひらが慎重に触れてきた。
「ここに触れても痛くない?」
「それは……大丈夫ですが」
本当は大丈夫なんかじゃない。素肌に直に触れられ、もうドキドキが止まらない。
「……話してくれないか」
もう一度促されると、今度は言葉がすっと出て来た。
「宗吾さん、実は……僕の弟は四歳の時に交通事故で亡くなってしまいました。さっきはそれを急に思い出して……芽生くんがいなくなったらどうしようと恐怖に震えてしまったわけなんです」
あぁよかった。やっと……ひとつ話せた。まだ僕の全ては話せないけれども、今日僕が一番聞いて欲しかったことを、ちゃんと伝えられた。
「なんと……そうか、そうだったのか。瑞樹……君の弟の名は?」
「え……」
「名前だよ、俺にも教えて」
宗吾さんの言葉に、枯れたはずの涙がまた溢れてしまう。まさかそんな言葉が返ってくるとは、思いもよらぬことだったから。
「あの……夏樹です。ナツキ……と言いました」
「ミズキとナツキか……きっと君とすごく仲が良かったんだろうね」
「そうなんです。僕に懐いて本当に可愛い弟でした」
「そうか、瑞樹……君は寂しい思いをずっと抱えてきたんだな。別れはとても辛かっただろう……」
「宗吾さん……」
「夏樹くんか。俺も会いたかったよ」
「ありがとうございます。もう誰もあの子のことを口に出して呼んでくれないと思っていたので……すごく嬉しいです。あなたに話して……本当に良かった」
「そうか……瑞樹……あぁもうそんなに泣くなよ」
そのまま顎を持ち上げられ、目元に溜まった涙をすっと吸われた。更に宗吾さんの唇が降りて来てキスをされた。
「ん……んんっ」
温かい息吹をすうっと注がれた。躰が痺れるような感覚に陥ってしまう。
「でも……瑞樹がこの世に生きていてくれて、俺は嬉しい」
背中に回っていた彼の手が、突然、僕の胸に触れてきた。
「え……あっあのっ!」
すぐ横には芽生くんがいるんだし、それは駄目だ!慌てて身を捩ったが、力強い手で制されてしまった。
「大丈夫だ。これ以上は何もしないから落ち着いてくれ」
「でっでも……困ります」
僕の心臓は既にドクドクドクと早鐘を打っていた。
「ただ……瑞樹の心に俺が直に触れたいだけだ。君が生きていることを確かめたい」
「そんな……」
次の瞬間、僕の胸全体を包むように触れていた宗吾さんの手のひらが、大きく動いた。
「あっ……あ……」
声が漏れないように、もう一度唇を塞がれてしまう。胸を揉むように動く手に、心が翻弄されていく。
「だ……駄目です、もう……離してください」
「すまない、もう少しだけ。瑞樹の鼓動を俺のこの手のひらでしっかり感じたい。あぁドクドクいっているな……温かい、君の躰は……生きている」
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