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Let's go to the beach 12

 瑞樹の背中を擦って優しく促すと、ようやく重たい口開いてくれた。  だがそれは想像以上に悲しく切ない、瑞樹の過去だった。  そうか……大切な弟さんをわずか四歳で亡くしてしまったのか。何度か瑞樹も話題にしていたよな。タコさんウインナーが好きだったという弟さんは、もうこの世にいなかったのか。  そんなことも知らずに俺は呑気に芽生の面倒を頼んだりして、その都度、瑞樹に悲しい過去を思い出させていたのではと心配になる。  悪いことをしてしまった。我慢強い瑞樹は、なかなか本当のことを言わない。それは付き合い出してから、徐々に分かってきたことだった。だからもっともっと……俺は瑞樹のことを注意深く見守ってやりたい……そう心に強く誓った。  君が言えないならば、俺が察する。  しかし四歳といえば今の芽生と同い年じゃないか。可愛い盛りだったろうに……そのタイミングで兄弟を失うことの喪失感は、計り知れない。  瑞樹のことだから、優しい兄だったのだろう。そう思うと、俺も瑞樹の弟の名を無性に呼んでやりたくなった。 「瑞樹……君の弟の名は?」 「え……」 「名前だよ、俺にも教えて」  瑞樹はそんなこと聞かれると思っていなかったのか、ひどく驚いていた。 「あの……夏樹です。ナツキ……と言いました」 「夏樹くんか。ナツキ……俺も会いたかったよ」  そう呼び掛けると瑞樹がまた泣いてしまった。本当に……君の涙は胸にグサグサと刺さるよ。もう一人で泣かせたくない。  同時にこの世に瑞樹が生きていること、俺と出逢ってつきあっていることがとても嬉しいのに、もしも瑞樹がいなくなったらと不安な気持ちに押し潰されそうになってしまった。  だから瑞樹の涙を吸い取った後、その胸に触れたくなった。 「瑞樹がこの世に生きていてくれて、俺は嬉しい」  瑞樹……君の鼓動を感じたい。心臓に触れさせてほしい。触れないと安心できない。この幸せが幻でないと証明して欲しくて、俺は戸惑う瑞樹を制して強引に瑞樹の胸に手のひらをあてた。  目を閉じてじっと耳を澄ますと、規則正しい鼓動が聞こえてきた。かなり早いのは瑞樹が緊張しているからなのか。 「え……あっあのっ!困ります」 「大丈夫だ。これ以上は何もしないから落ち着いてくれ」  しかし……そうは言ったものの……やましい気持ちはなかったはずなのに、ムラムラと沸き起こって来る節操のない気持ちが、俺を侵食してくる。  マズイ。ヤバイ。もう手を離さないと……この欲情に全部もっていかれる!  吸いつくような絹肌。綺麗な色の乳首のコリっとした感触を、手のひらで感じてしまったら……もう…… 「うっ……」  俺の手は大きく勝手に蠢いて、瑞樹の清楚な平らな胸を一度だけ大きく揉み込んでしまった。 「あうっ……」  瑞樹の口から熱い吐息がハァ……っと色香を纏いながら漏れ出した。  その声……なんともいえない程、艶っぽい。  っとその瞬間、芽生がぱっちりと目を開けたー! 「ん……あれ?パパとおいにちゃん……なにしてんの?」 「あっああ……えっと」  俺の手は、バッチリ瑞樹の胸を揉み込んでいたわけで……  見られちゃったぞ。おいっヤバイよな。  瑞樹は顔を真っ赤にして……口をパクパクさせている。  あぁ可哀そうに……また涙目になっている。ここは瑞樹を守ってやるのが、俺の役目だ。 「……うむ……えっと……心臓マッサージの練習……かな?」  かなり苦しい言い訳をすると、芽生は納得したように大きく頷いた。 「それしってるー!おぼれちゃった人にチュウするんだよね」 「パパとおにいちゃんもチュウのれんしゅうしたの?ねぇしてみて~スースーハーハーってするんだよぉ」  キス?いやいや……さっきしたけど、芽生に見せるわけにはいかないよな。 「え……えっと、そうだ。大風呂に行こう!芽生、風呂に行くぞ」  もう駄目だ。  話題を変えるのがベストだろう!!  俺は強引に芽生の手を繋いで、廊下をズンズンと歩いた。   「そ、宗吾さん待ってください!」  瑞樹も浴衣を羽織りながら、真っ赤な顔で追いかけてくる。  はぁどうも子育てしながらの恋愛というのは、何が起きるか先が読めないな。    スリリングだ。今までと違った意味でのスリリング。  だが悪くない。芽生も含めた姿が今の俺なのだから。

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