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Let's go to the beach 18

「あの……そろそろ戻りましょうか」  洋くんと波の音を聞いていたらしんみりしてしまい、部屋に入ることを提案した。思い出に耽る時間は貴重だが、浸りすぎると戻って来られなくなる。お互いに十分それを知っていた。 「そうですね。あの……瑞樹くん……ぜひまた俺と会って下さい」 「えぇ、もちろん」 「良かった。連絡待っています。おやすみなさい」 「おやすみなさい」    別れ際にまた熱心に誘われた。  最初は洋くんみたいな美しい人が、何故僕を友人として切望するのか理解できなかったが、今なら分かるよ。君も産みの親を亡くすという同じ悲しみを背負って生きて来た人だった。そしてその悲しみから這い出し、今を生きる人だから……僕たちは似ている。  そっと窓を閉めて客室に戻ると、芽生くんはスヤスヤと寝息を立て、宗吾さんもぐっすり眠っていた。  よく冷房の効いた部屋は寒い位で、久しぶりに母を思い出したせいで人恋しい気持ちに支配されてしまっていた。   (宗吾さん……あなたの隣で眠っても?)   つい宗吾さんの隣に潜り込んでしまった。我ながら大胆なことを? と思ったが、彼はぐっすり眠っているのだから問題ないだろう。 (宗吾さんお邪魔しますね。わぁ……温かい)  宗吾さんの体温に包まれるのが心地よかった。それに久しぶりに人肌を直に感じて、泣けてくる。優しい温もりに誘われ……亡くなった父、更にはきっぱり別れた一馬のことまで思い出す始末だ。  なぁ一馬……僕が南国育ちのおおらかな人柄のお前に惹かれ、抱かれたのは……もしかしたら人肌が恋しかったからなのか。  しかし……一馬がいなくなったからって、すぐに宗吾さんの人肌を求めるなんて軽率だろうか。思わず自問自答してしまった。    いや…… 宗吾さんは一馬の代わりではない。  なのに今日の僕は変だ。きっと昔を一気に思い出し過ぎたせいだ。芽生くんが迷子になり弟の夏樹を……波の音に誘われ母を……更には宗吾さんの体温から一馬や父までを。  宗吾さんに申し訳ない!  やはり傍で眠るなんて無理だ!  僕が図々しすぎた。 「宗吾さん……ごめんなさい」  宗吾さんの布団から抜け出ようとすると、反対にぐっと抱き寄せられてしまった。 「えっ!」 「瑞樹……どうした、何故謝る?」 「あっ……起きて?」 「君のほうから潜り込んで来てくれて嬉しかったのに」 「……ごめんなさい」 「ほらまた謝る。それは君らしいが、君の悪い癖だ」  優しく耳元で囁かれ、申し訳ない気持ちでますます一杯になった。 「でも、だって……僕は宗吾さんの温もりに……その……あいつのことを思い出してしまって最低なんです」 「瑞樹……」 「いつまでも吹っ切れない自分がもどかしくて……本当にあなたと付き合っている自覚が足りないし、資格すらないのかも……こんな自分が嫌になって……」 「はぁ……瑞樹は馬鹿だな」  僕の話を聞いた宗吾さんに、また抱きしめられてしまった。  もっと強く、もっとぴったりと…… 「な……何で呆れないんですか。こんな僕の我が儘に、宗吾さんはいつも優しすぎます……これ以上あなたを振り回したくないのに」 「おいおい瑞樹。勝手に全部一人で決めるな。完結させるな」 「ですが……」  なんだか話しているうちに、躰が熱くなってしまった。僕の躰は宗吾さんにしっかり抱きしめられ密着していた。宗吾さんの逞しい躰が力強くて心地良すぎる。  布団の中で宗吾さんの熱を感じ、彼への愛がどんどん膨らんでいくのを感じていた。 「瑞樹の一番近い所にいるのは俺だ。それが叶うなら何でもいいんだよ」 「そんな……何でもって」 「なんだろうな、この感情。俺は瑞樹の欲しい人になりたいんだ。だからその都度変化する」 「……宗吾さんは優しすぎます」 「いや違う。俺はそんな人間じゃなかった。だが……瑞樹が優しいから、優しくなれるんだ」  胸が切ない程、震えた。  意固地な生き方をしてきた僕だけれど、宗吾さんにこんなにも愛され……大切にされて幸せだ。 「宗吾さん……あなたが好きです」  目をそっと閉じると、すぐに優しいキスをされた。宗吾さんの熱がじわっと伝わってきて、もうこのまま抱かれてしまいたい衝動に駆られたが…… 「んっ……おにいちゃん……どこぉ……」 「ごっごめん。ちゃんとここにいるよ」    芽生くんの寝言で一気に現実に引き戻されてしまったが、愛しいと思った。 「やばかったな。一瞬芽生のこと忘れていた」 「僕もです。すいません」 「いくら幼い芽生でも、そう何度もご魔化せないから、気をつけような」 「ハイ……」 「くくっ……だが制約があると余計に燃えるな」 「え?」     顔を見合わせて苦笑してしまった。 「なぁ……聞いてくれ。瑞樹との恋って不思議だ。いい言葉が浮かばないがとにかく大切なんだ。それから……いずれ俺の母に会わせてもいいか。お袋は理解があるから大丈夫だから」 「そんな……僕は何も出来ていないのに」 「瑞樹もちゃんとお兄さんに紹介してくれたじゃないか」 「でも……それとこれとは別です」 「俺は真剣だよ。もう瑞樹としか付き合いたくない」  欲しかった言葉が、流れ星みたいに降ってきた。  だから慌てて僕も願った。 (僕もあなたにしか……もう抱かれたくない) 「宗吾さんだけです。僕も」  恋に落ちる。Fall in love …… 一馬が去り、ひとり残された僕は、もう独りではない。  宗吾さんが傍にいてくれる。ずっと……離れずに。 「もう……お願い……僕を……置いて行かないで」 「分かっているよ。俺は瑞樹を絶対に手放さない。君にずっと惚れ続ける」  夏はまもなく終わるが、僕たちの恋は……やってくる秋も冬も……季節を跨いで繋がっていくだろう。  旅行に来て良かった。  この旅で僕とあなたの恋は、また一歩近づいた。 『 Let's go to the beach』了 ~ご挨拶~  ようやく 『 Let's go to the beach』が終わりました。楽しい番外編的にしようと思ったのですが、シリアス色濃くなってしまいました。瑞樹の過去が切なくて、書けば書くほど、宗吾さんに溺愛されて欲しいと願ってしまいます。 正直なところ、二人の躰の関係はまだジレジレですが、心はどんどん近づいてもうぴったりな程ですね。季節も変わり秋・冬……そしてまた五月……『幸せな復讐』の時間軸に沿って進んでいきます。いつもリアクションで応援ありがとうございます♡これからもどうぞよろしくお願いいたします。  それから『重なる月』の方も読んでくださってありがとうございます。何しろ1200話近くある話なので、はじまりも展開もかなりゆっくりです。かなり切ない話になり、そのあとドバっと浮上していきます。よろしければ秋の読書のお供に♡『重なる月』の主人公の洋と、こちらの瑞樹はタイプは違えども親友になりそうな予感です。

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