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実らせたい想い 10

「もしもし母さん?」 「まぁ宗吾なの? 国際電話をかけてくるなんて、あなた随分マメになったわね」 「……俺は元々そうですよ」 「でもどうしたの? わざわざNYから……きっと何か聞きたいことがあるのね」 「へぇ……やっぱり母さんには敵わないな。察しがいい」 「実は私も、宗吾にちょうど話したいことがあったの」 何だ? 嫌な予感がするな。聞く前から話があったなんて。 「もしかして運動会で何か変わったことでも?」 「まぁ何故分かるの。運動会に実は玲子さんに来てもらったのよ。もしかして……知っていたの?」  へっ? 玲子だって? 何故今更……寝耳に水で驚いてしまった。  よりによって瑞樹が来るタイミングで……玲子に声をかけてしまったのか!  あぁしまった。何てことだよ! 「母さんっそんな勝手なことを!」 「ごめんなさい。私も芽生が喜ぶかと思ってしてしまったけれども……後悔しているのよ。宗吾は運動会に大切な恋人を呼んでいたのね」  へっ……  今度は目が点になる。  驚く事ばかりで言葉に詰まる。 「うっ……ここここ……恋人って、何でそれを……?」 「芽生が言っていたのよ。芽生もとてもその方に懐いているみたいね。そんなこと知らなかったので、玲子さんを呼んだから、ややっこしくなったみたい……ごめんなさいね」 「ということは……やはり瑞樹と玲子は会ってしまったのですか、くそっ」 「瑞樹くんというね。あなたの大切な人」 「あっええ、そうです。葉山瑞樹という青年です。母さんにも今度会わせようと思っていたのですが……」    うぉぉ……照れくさいぞ。こんな形で突然紹介するつもりはなかったのに。    葉山の海で次は母親に紹介すると約束したのに、あれから仕事がお互いに多忙で落ち着いた休みも取れず……まだ叶わなかった。だからニューヨークから帰国したら、すぐにでも連れて行くつもりだった。  瑞樹と三週間も離れているのは、正直長かった。  離れている時間が長ければ長い程……もう離れたくない。ずっと傍にいたい人だと強く思えた。一生を俺に預けて欲しいと願う人だと確信していた。  なのに愛おしい瑞樹を、俺の過去が苦しめていたとは。  俺は最低だ!  全部俺のせいだ!  母のせいではない……俺の昔の……いい加減な行いの結果だ。 「何だかねぇ……玲子さんが、彼に何かしそうで……心配なのよ」 「母さん、それ同感だ!俺が今すぐ飛んで帰りたいが、そうもいかない。頼む!一度玲子の様子を見に行ってくれないか。まさかとは思うとが、瑞樹と接触していないといいが。あぁ不安だ。あいつはカッとなると、そういうことを仕出かす可能性がある」 「実はねぇ……私も気がかりなのよ。芽生が瑞樹くんのフルネームを玲子さんに教えてしまったのようで、とても心配しているの。だから見てくるわ」  なんて卑怯なことを。幼い芽生からどんな手口で聞き出したのか。  可哀想な芽生……さぞかしうしろめたい気持ちで苦しんだろう。  芽生も瑞樹も深く傷ついたに違いない。  感情的なやりとりや行動は、何も産み出さない。  ただひたすらに……傷つけあうだけなのに。  瑞樹……  君が苦しんでいるのを、すぐに気がついてやれなくて……すまない。  運動会以来ずっと元気がなく、無理をしているのは知っていたのに。  恋人失格だな……いや、まだ間に合うはずだ!  絶対瑞樹を失いたくない。  そう思う気持ちがある限り諦めない!  

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