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心の灯火 7

 宗吾さんは優しすぎる。どうして僕にそんなに優しく出来るのだろうか。  僕は自分に自信がないから、どうしても戸惑ってしまう。結局……まだ宗吾さんと僕は躰を重ねていない。付き合いだして半年経っても……キス程度しかしていない。  なのに……それでもこんなに愛してもらえるのか。果たして本当にいいのだろうか。このまま彼に甘えても。  一馬とは早い段階で躰を繋いでしまったこともあり、会えば最後まで行為に及ぶのが当たり前となっていた。お互いに若かったのもあるが、それが普通だと思っていた。  そんな僕がどうして宗吾さんとの関係をもう一歩深く踏み出せないのか。それは本当は僕自身が一番分かっていることだった。  怖いから──  だって……人の心は分からないじゃないか。一寸先は闇とはよくいったものだ。あんなに愛しあっていたはずの一馬だって……僕を置いて行ったように、宗吾さんだってもしかしたら心変わりして、いつか目の前からいなくなってしまうかもしれない。  彼は違う。彼は大丈夫だと信じているのに、心のどこかで疑ってしまうのは僕の悪い癖だ。  躰をつなげてしまうと、別れる時辛くなる。  一馬の時に嫌という程味わった。明日結婚する一馬に抱かれながら、躰の中に一馬の熱をしっかりと感じながら……儚くむなしい想いが込み上げて来たのが今でも忘れられない。僕の躰の中には未だに一馬の残滓が残っているようで……たまに躰の内側から切なく疼く。    本当の僕は酷い人間で……そして本当はとても……弱い。  長い間……僕に関わる人とは、当たり障りなくやってきた。八方美人だと言われたこともあった。だが……本当は置いて行かれるのが怖い、ただの憶病な男なんだ。  10歳で両親と弟を亡くしてから、人に嫌われるのが極端に怖くなった。潤の時のように嫌われてしまったら、またどんな災いが降りかかってくるか分からないから。  あぁ……何だか今日は駄目だな。もう思考回路がぐちゃぐちゃだ。好きな人の前で吐くなんて……大失態だ。更には熱まで出して……迷惑ばかりかけて情けない。 「瑞樹……今はあれこれ考えなくていい。俺たちは今、これで自然だろう。さぁ今日はもう眠れよ」 「宗吾さん……何から何まですみません。本当はいろいろ予定を立てていたのでは」 「うーん、それはそうだが。まぁ次の楽しみにするよ。さぁ横になれ」 「……はい」 「おやすみ瑞樹。夜中に辛くなったら、すぐ呼べよ」 「……ありがとうございます……おやすみなさい」  宗吾さんは電気を消して部屋から出て行ってしまった。  ここは客間なのかな。芽生くんのベッドでも宗吾さんの寝室でもない場所にいることに、今更ながら気がついた。 「おやすみ」と声をかけてもらえる幸せ。 「おやすみ」と言い合える存在。  それは傷ついた僕の心を、少し癒してくれた。    ふぅ……それにしても熱を出すなんて久しぶりだ。躰が想像以上にキツイ。僕にはずっと風邪をひいて家族に迷惑をかける暇はなかったから……  本当にどうかしている。宗吾さんと出逢ってから僕は弱くなった。いや弱い部分を出せるようになったのか。  そんなことを考えているうちに、いつの間にか眠りに落ちていた。   ****  客間のドアを閉め、部屋から出た。  ハァ……参った。  思わず髪をクシャっと掻きむしった。それにしても発熱した瑞樹は想像以上に色っぽかった。あーもう……具合が悪い相手に不謹慎過ぎるよな。と自分を殴りたい気分になった。 『即物的に躰を重ねて始めるのは、もうやめた』そんな偉そうな事を言ったが、撤回したい気分だ。  先日……瑞樹が前の彼氏と会うと聞いてから、実は気が気でなかった。あんなに愛し合っていた二人が再会したら一体どうなるのかと、心配で溜まらなかった。  瑞樹もちゃんと俺の気持ちを察し、『迎えに来て欲しい』と可愛い事を言ってくれたので、俺の方もそれなりに準備万端だった。  もしかしたら……今夜何かが起こるのか。  そんな淡い気持ちも膨らんで、芽生には悪いが実家に泊まってもらい、瑞樹を迎えに行った後のことを想像し、興奮したのは認めよう。でも……熱を出し苦しむ瑞樹を見て、そんな事ばかり考えていた自分を抹殺したくなったよ。  シャワーを浴びてから、やはり瑞樹の様子が心配になり、氷枕と水を持って部屋をノックした。ところが返事はなく呻き声のようなものが聞こえたので、慌てて部屋に入った。 「ん……ううっ……」 「瑞樹? おい大丈夫か」 「や……もう……イヤダ……」 「どうした?」  彼は酷く魘されていた。怖い夢でもみたのかと思い、芽生にしてやるように優しく抱きしめてやった。瑞樹の呼吸は荒かった。身体も熱を帯びて苦しそうだった。 「あっ……えっ宗吾さん? 駄目です!風邪がうつってしまう」  正気に戻った瑞樹は、俺に抱きしめられていることに驚き、逃げようとした。 「大丈夫だよ。芽生が熱を出した時はいつもこうしているから」 「でっでも……僕は……子供じゃないのに」 「病気の時くらい、もっと甘えろ」 「……ですが」 「寒いのか」 「……少し」  まだ熱が上がるのか、瑞樹の薄い躰は小さく震えていた。  このまま……熱を出し切れよ!  もう……前の彼への残り火のような熱も……全部出し切っちまえよ。  俺が全部その後のことは受け止めてやるから。 「来い、温めてやる」      

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