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深まる秋・深まる恋 1

 再び目覚めると、宗吾さんの顔が近過ぎて驚いてしまった。  あっそうか、僕……冷静に考えると昨日からの醜態に震えてしまう。だがその一方で宗吾さんが僕を抱きしめたまま、すやすやと眠っている姿にほっとした。  あんなことがあっても……彼は僕を嫌いになっていない。ずっと抱きしめてくれていた。それが嬉しくて。   「ん……瑞樹……どこだ?」  宗吾さんが僕を探すように、逞しい腕に力を入れた。 「あっ宗吾さんおはようございます」 「えっと……あれ? 俺、どうしてここに? 」 「えっ! 昨夜のこと覚えていないのですか」 「瑞樹の看病しながら、この部屋でうつらうつらしたのは覚えているが、俺、まさか勝手に君の布団に?」 「いや……同意でしたよ」  そこまで話すと、宗吾さんは怪訝な表情のあと、何かを思い出したような素振りをし、悔しそうに唸った。 「うぉ……くそぉ……あぁぁ」 「どっどうしたんですか」 「瑞樹といい雰囲気だったような。すごく美味しい所だったような……俺……まさか」 「くすっ」 「あっその笑いはやっぱり? ねっ……寝落ちしたとか」 「ハイ、まぁ。それより熱、下がったみたいです。昨日はご迷惑をお掛けしました」 「はぁぁ……不覚だ。おっと謝るなよ、病気になるのは仕方が無いだろう。昨日はしっかり俺を頼ってくれて嬉しかったぞ」  宗吾さんに髪を優しく撫でられる。その手が心地良くてつい目を閉じてしまった。 「こらっ、そんな表情をするなよ。病み上がりの君に手を出したくなる」  そう言いながら宗吾さんは大きく伸びをしてベッドから降りた。それから僕のおでこに触れて熱がないか確かめてくれた。 「本当だ。熱、すっかり下がって良かったな。今、風呂をいれてやるからゆっくり浸って来い」  風呂から上がると、宗吾さんが消化に良さそうな雑炊を用意してくれていた。食欲をそそる匂いで腹がグウッと鳴ってしまい、恥ずかしかった。 「ククッ可愛い音だな。昨日はろくに食べてないだろう。体調が悪い時に居酒屋の安い酒を飲むなよ。恐らく気持ち悪くなったのは、そのせいだな」 「あっあの、本当に粗相してしまい、すみません」 「大丈夫、俺は芽生もいるし、そういうのには慣れているよ。それに瑞樹の世話なら喜んでやるさ」 広樹兄さんも僕にはどこまでも優しかったが、宗吾さんはその上をいく。 「宗吾さんは……僕を甘やかし過ぎですよ」 「そうかな」  宗吾さんが明るく笑えば、僕の気持ちも上昇する。やはり彼は、僕にとって『心の灯火』のような人だと実感してしまう。    **** 「宗吾さん? あの、道が違うようですが」 「まだ芽生を迎えに行くには時間があるから、寄りたい所があってな。付き合ってくれるか」 「ハイ、それはもちろんいいですが」  朝食の後少し寛がせてもらい、それから車に乗せてもらった。宗吾さんは今日は芽生くんとお母さんと出かける用事があるので、病み上がりの僕は真っ直ぐ自宅に送ってもらう手筈だった。  ところが僕の家とは逆方向に車は走っていく。行き先が気になってしまう。 「あの……どこへ行くつもりですか」 「うーん、それは着くまで内緒だ」  だが途中で気がついてしまった。この道路を真っ直ぐ進むと……そこには。 「……まさか」 「そうだよ。瑞樹が昨日行きたかった場所だ」 「何故それを知って……」 「勝手にごめんな。昨日君の汚れたスーツを洗う時に、胸ポケットに入っていた葉書を見てしまった」 「僕の通った大学の男子寮……ですね」 「今日みたいだな。取り壊すの」 「……ハイ」 「見たかったのだろう?」  それはそうだが……宗吾さんを付き合わせるのは申し訳ない。 「俺も見たいよ。そこだって瑞樹の育った家だろう」 「でも……」    確かにそうだが、僕が一馬と愛を育んだ場所でもある。昨日までの僕だったら宗吾さんには見せたくないと思っただろう。ところが一晩高熱にうなされた躰は、まるで何かが抜け落ちたように頑なだった力が抜けていた。 「俺には見せたくなかった?」 「いえ、宗吾さんが隣にいてくれて良かったです。だから昨日でなく今日で良かったと思います」 「そうか」  男子寮は既に足場が組まれ、シートで覆われた中で大型の重機が動いていた。    久しぶりに見る景色。四年間住んだ寮。  上京し仲間と過ごした時間も懐かしい。 「瑞樹の部屋はどこだった?」 「……二階の右から二つ目です」 「そうか」  もう近づけない。どんどん……壊れていく。  ひとりで見るには惨い光景だったかもしれない。  しかし僕のすぐ隣には、宗吾さんがいてくれる。  宗吾さんはコートに隠れるようにさりげなく、僕と手を繋いでくれた。 「しっかり見ておけ」 「……ハイ」 **** 志生帆海です。今日はまずは前回からの流れでした。 『心の灯火』は少し重たく切ない展開でしたので『深まる秋・深まる恋』は、 楽しく明るく行きたいなと思います。よろしくお願いします♡   

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