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深まる秋・深まる恋 11

「かっこいい……」  宗吾さんの作務衣姿は、想像以上だった。  男気が匂い立っている。袷の胸元から胸筋が見え隠れして目の遣り場に困ってしまうよ。普段はきっちりとしたスーツ姿で休日もジャケットを着ていることが多いので、この変貌ぶりには思わず言葉を失ってしまった。 「瑞樹? どうかな」 「あっすみません。宗吾さんに凄く似合っています」 「パパ~なんだかドラマの人みたいだね~メイとたたかう?」 「ははっ!」  芽生くんも宗吾さんの変貌ぶりに感動しているようだった。目が憧れでキラキラ輝いて可愛いな。 「へぇ~お前、結構いけてるじゃん」 「サンキュ!瑞樹が喜んでくれたので嬉しいよ」 「本当に……可愛い恋人にメロメロなんだな」 「まぁな」  宗吾さんはオープンな人で物怖じをしない。  そういう所が好きだ。僕になかなか出来ないことを軽々とやってのけるのは、見ていて爽快だ。 「ただいま!」  突然中学生位の若い男の子が部屋に入ってきた。あっ……きっと彼が翠さんの息子の『薙くん』だ。 「あれ? それ俺の服じゃん」 「あっすみません。事情があってお借りしました」 「薙お帰り。まずはお客様にご挨拶を。彼は葉山瑞樹さんだよ」 「へぇ……父さんの知り合いにしては若いよな? えっと高校生?」  えっ!それはないよなぁ。薙くんにまで高校生と言われて恥ずかしい。   「あぁ違うよ……彼は立派な社会人だよ。夏の旅行で知り合ったご家族なんだよ」 「あぁあの海に行った時? へぇ……ご家族? あっオレは薙です」  翠さんに顔はよく似ているが、気質は流さんの方のようだ。  すると薙くんは僕の後ろに隠れていた芽生くんを見つけたようで、ニコっと笑った。 「あれ? 珍しいね。ウチにちびっ子がいるなんて」 「ムッ……ちびっこじゃないもん! メイだもん!」 「メイ? 女の子?」 「ちっ違うもん!」 「ははっ、真っ赤になっておもしろいな。おいで、遊んでやるよ」 「うん! あそぶー!」  人懐っこい芽生くんは若い薙くんに遊んでもらいたくて仕方がないようだ。芽生くんも宗吾さんと同じで積極的だな。すると……芽生くんは将来は宗吾さんみたいになるのかな。宗吾さんみたいにダンディな感じ? いやいや……流石にまだ想像できないや。 「いいぜ。何する?」 「えっとあっちのお庭にいってみたい」 「あの、この子と遊んでもいいですか」 「あぁもちろん」  バタバタと芽生くんと薙くんが出て行き、部屋にはいつの間にか翠さんと宗吾さんだけになっていた。 「さぁ着替えも終わったし、次は君たちが泊まる部屋を案内しよう」  通された部屋は、母屋の一階から渡り廊下で繋がる離れの一室だった。 「ここは以前宿坊として利用していた部屋だから、気兼ねなく使って欲しい」  古い和室だったが、きちんと手入れされて小綺麗だった。 「布団類は今干しているから、あとで届けるよ。とりあえず簡易の布団を敷いたので少し休んで……」 「ありがとうございます。分かりました」 「じゃあ僕は一旦これで。今日は疲れたろう。特に瑞樹くんはまだ傷も痛そうだ。夕食まで横になるといい」  優しい気遣いをされて、またじんわりしてしまった。  夏に出逢った時も感じたことだが……この寺の人たちは素敵だ。それぞれが尊重しあって労りあっているのが心地いい。 「またあとで」  襖が静かに閉まり、今、部屋には宗吾さんと僕だけだ。こういうシチュエーションは、変に胸が高鳴る。僕はいつの間に、こんなにも宗吾さんへの気持ちが溢れているのか。 「さてと、瑞樹は言われた通りにしろ」 「ありがとうございます。じゃあ……少しだけ」  確かにそろそろ横になりたかった。何だろう、この感じ。宗吾さんの傍にいると安心出来るせいか、よく眠たくなる。  すると宗吾さんも一緒に横になったので、驚いてしまった! 「あの? えっと……なんで宗吾さんまで?」 「やることがあるからだよ」 「やること?」  そのまま宗吾さんの顔が迷いなく近づいてきたので目を丸くし固まっていると、右の頬をペロッとなめられた。それから左の唇の横、更には手の甲にも唇が優しく触れられた。  あっそこは……今日僕が擦り傷を負った場所だ。 「はぁ本当に瑞樹は無謀だ。こんなに傷だらけになって。だから今から……以前君がしてくれたように、俺が治療するよ」 「あっ……」  宗吾さんが僕の負担にならないよう最大限の配慮をしながら、躰を労るように抱きしめてくれた。 「改めて告げるが、今日は芽生を助けてくれてありがとう。そして瑞樹が無事で良かった」  また頬を舐められる。 「んっ……くすぐったい」 「そうか」    唇の横や頬を愛おしそうにペロペロと舐められるばかりでは物足りなくなってきた。何だかこれって……キスをじらされているようだ。 「……宗吾さんは……ずるい」 「何がだ? ちゃんと教えて」 「……キスして欲しくなるから、それ」 「えっしていいのか」 「クスッ……宗吾さんはやっぱりズルいですね」  見上げると、彼は照れくさそうに笑っていた。 「傷ついた君にいきなりキスは不謹慎かと思ったが、瑞樹から望むならいいよ!いくらでも!」 「なっ……」  宗吾さんには参った。ただでさえ大人っぽい作務衣姿にクラクラするのに……そんなに優しいキスを届けてくれるなんて。  いつものキスとは少しだけ違う、労りあうようなキスだった。 「瑞樹の唇……濡れてエロいな」  唾液が絡み合う程の長い口づけの後、そっと宗吾さんの指の腹で撫でられた唇は、充分に潤いを取り戻していた。  宗吾さんは僕の水。  潤いの源……今日もそれを実感し感謝する。  宗吾さんが傍にいてくれるなら、僕は変われるかもしれない。  今まで避けて逃げてきた事と、向かい合いたい。

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