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深まる秋・深まる恋 17
「瑞樹、眠れないのか」
「えぇ、今日はあまりに可笑しかったので、まだ興奮しているみたいです」
「俺もだよ」
うーむ、ここまでは最高にいい雰囲気だが、俺と瑞樹の間には目を爛々とさせた芽生がいるんだよなぁ。
まぁウサギのスリーパーを着たまま小さなお布団に潜り込んでいる様子は、あどけなくて可愛いもんだ。もう少し男の子らしくなって欲しいが、幼稚園児の今だけの特権のような時間だから、これはこれでいいのかもしれない。
それにしても今日は流石にそろそろ眠ってくれないと、大人の時間にならないぞ。
「パパ~ 芽生もぜんぜんねむくないよ」
「ははは……もう真夜中だぞ。早く寝なさい」
「だってパパもおじさんたちもおもしろすぎて……それにあのお菓子のことがきになるんだもん」
怪しげな仮装ファッションショーが終わった後、寺の離れと茶室へ、行燈を持ちながら「Trick or Treat!」しに行った。芽生は抱えきれない程のお菓子の詰め合わせをもらって大喜びだった。枕元に並べたお菓子の山を早く開けたそうにウズウズしている。
「お菓子は明日だ。虫歯になるぞ。さぁもういい加減に眠らないと怖いお化けが来るぞー」
「え……おばけ……こっ、こわいよ~おにいちゃん~」
俺がわざと怖い声で告げると、芽生は自分の布団からピュッと抜け出して、瑞樹の布団に潜り込んでしまった。
あっ……待て……我が息子よ。相変わらずなんとも羨ましい&大胆な行動に出るな。さらに芽生は瑞樹の胸元に顔を埋めてクンクンと匂いを嗅いでいる。
「わっ! 芽生くんどうしたの? くっ……くすぐったいよ」
「だって~ おにいちゃんって、何だかいい匂いがするんだもん」
「そうかなぁ」
「うん!そうだよ!」
分かる!ブンブンっと首を俺まで縦に振ってしまう。
「おにーちゃん、今日はここで眠ってもいい? パパがヘンなこというからこわくなっちゃった」
「うん、いいよ。ふふっ今日の芽生くんはウサギさんだからモコモコだね」
「じゃあメイを抱っこしてもいいよー」
「そうなの? じゃあギュッとしようかな」
瑞樹が芽生のことを布団の中で抱っこする。
瑞樹も芽生も幸せそうな表情を浮かべているのが薄明りの中でも感じられ、俺も連動するようにほっこりした気持ちになった。
やっぱり幸せって連鎖するようだな。
家族や恋人の幸せは、自分の幸せと等しいのだ。
「うん……あったかい。メイ……なんだか急にねむたくなってきちゃった」
「そうだね。おやすみ……芽生くん」
「むにゃむにゃ……おや……すみ」
瑞樹が寝かしつけてくれている間……俺は芽生が羨ましいと思う気持ちと、息子を可愛がってもらえる感謝の気持ちとの葛藤で苦しんでしまった。
優しい瑞樹だから誰にでも平等に優しい。それが瑞樹らしい良い所なのに……もっともっと俺を……俺だけを見て欲しくなる。こんな欲深い事を言っては駄目か。我が子にも嫉妬するなんてな。
布団の中で悶々としていると、瑞樹が話しかけてくれた。
「あの……宗吾さん……もう寝てしまいましたか」
「いや、まだ起きているよ」
「よかった。少し話をしても? 」
「もちろんだ」」
「この寺の方は皆さん面白いですね。住職に副住職。お医者様と立派な職業なのに……あんなことをするなんて驚きました」
「あぁ、みんな楽しそうだったな」
「合宿に来たみたいですね。僕……そういう経験があまりないので本当に面白かったです」
「そうか……それにしても瑞樹のナース姿……とても良かったよ」
「あっ、それは言わないでくださいよ。あんなビリビリに破けた衣装……恥ずかしかったです」
瑞樹はとても照れくさそうな様子だった。ビリビリに破けた衣装からチラチラと見える素肌が強烈に色っぽかったというのは、口に出さないでおいた。またヘンタイ扱いされてしまうだろう。
「僕としては宗吾さんのナース姿をちゃんと見たかったです」
「あれは無理だろ。何しろ着た途端、ボタンが吹っ飛んだからな」
「でしょうね……宗吾さんはいつもはジムに行ったりしているんですか。さっきそんな話をしてましたよね」
「あぁ前は行っていたが最近は暇がなくてな。それに芽生を抱っこしたり、家事をしているから躰を十分動かしているので、もう不要かな」
離婚前……日曜日の午前中はジムに行くのが日課だった。子供や奥さんよりも優先させていたとは言えなかった。
「今でも十分逞しいですよ。羨ましいな……あの、僕も通ったらそんな風になるのでしょうか」
「え? いやいや……瑞樹はそのままでいいぞ」
「そうでしょうか。なんだか丈さんも流さんも皆さんいい体格なので、実は少し羨ましくなってしまって」
「瑞樹はそのままがいい。お願いだから、ありのままでいてくれ」
「……はい。あっそういえば医師の白衣姿はどうでした? 僕もカッコよく見えましたか」
瑞樹だって男だ。可愛い、綺麗だという形容詞よりも、逞しくカッコいいに憧れる気持ちも分かるよ。
「そうだな。注射して欲しくなった。こう……ひと思いにブスッっと突き刺して欲しくなったよ」
「えぇっーそれは僕には無理ですよ。逆は……って……あれ……僕、また」
瑞樹はあからさまに驚いて、そのあと猛烈に照れていた。
「はははっ!瑞樹。まさかとは思うが……今、俺に対して変な妄想をしてないよな」
「そっ宗吾さんじゃあるまいし、しっしていません! もう寝ます!」
瑞樹は普段はとても清楚なのに、頭の中の妄想は結構俺に負けない程、ヘンタイな時がある。だが、そんなギャップがあるのも、やっぱり可愛くて溜まらん。
結局好きなで大事にしたい人とは、何をしても何を話しても楽しい。一緒にいられるだけで幸せが滲み出てくるものだと言うことが、よく分かった。
秋の深まりと共に瑞樹への想いもますます深まっていくのを、しみじみと感じる夜だった。
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