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深まる秋・深まる恋 18

 とても楽しい気分で、深い眠りに落ちた。    胸に抱く芽生くんの温もりが心地良いし、今日はとにかく沢山笑った。眠る直前まで笑っていたので、心も躰もポカポカになっていた。  シロツメグサの咲く季節の別れは辛かったが、そこからの出逢いが導いてくれたものへの感謝の気持ちで一杯だ。  僕は深い眠りと共に、いつになく幸せな夢も見た。 ****  新緑の緑が溢れる川辺の道を、芽生くんと宗吾さんと三人で手を繋いで歩いていた。 「あっお兄ちゃん、ここにもシロツメグサが咲いているよ」 「本当だね」 「ちょっと寄り道してもいい? 」 「もちろんだよ」  芽生くんが器用にシロツメグサを編み始めたので、僕もしゃがんでその様子を眺めた。クリーム色の花がまとまり一つになっていく様子が面白くて、じっと見入ってしまった。  するとそこに突然強い風が吹き抜けていった。 「うわっすごい風だね。あれ……僕……」  僕の躰はその風に吹き上げられるように浮上し、いつの間にか青空に浮かんでいる白い雲の上にいた。 「お兄ちゃん!」  その声にハッとした。これは僕の大切な弟……夏樹の声だ。 「お兄ちゃん、今日は沢山笑っていたね。ここまで聞こえてきたよ。だからパパもママも喜んでいたよ。どんなカタチでもいい。お兄ちゃんが幸せになってくれたら嬉しいって言っていたよ」 「え……本当に? お父さんとお母さんも、ここにいるの? 」 「うん、もちろんだよ。お兄ちゃん……ごめんね。僕がパパとママを独り占めしちゃって」 「そんな……いいんだよ。夏樹がひとりじゃなくてよかった」 「でも、おにいちゃんも、もうひとりじゃないよね」 「あぁ……そうだよ」 **** 「お兄ちゃん……お兄ちゃん……れちゃうよ……おきて」 「えっ!」  ガバっと起きると、芽生くんが僕を呼んでいた。  あっ……さっきのは夢か。まるですぐ傍に夏樹がやってきているみたいで、まだ心臓がドキドキしている。それにしてもあんなにもハッキリした夢を見るなんて初めてかもしれない。驚いたな。 「おにーちゃん、ねぼけてるの?」 「あっごめん。どうしたの? 怖い夢でも見た? 」 「ちがくて、おしっこいきたいの」 「あぁそうか。じゃあ一緒に行こうね」 「うん!」  芽生くんと手を繋いで、廊下に出てみると真っ暗で怖かった。 「お……お兄ちゃん、こわいよ。まっくらだね」 「う、うん。ちょっと待って。灯りをもってくるね」  さっき使った手持ちの提灯を灯すが、その灯りがゆらゆら揺れてかえって不気味だった。 「い、いこうか」 「おにいちゃんも震えているよ。パパを起こす?」  うーん、宗吾さんはグーグー爆睡中で、とてもすぐには起きそうもない。 「いや、大丈夫だよ。僕がついているからね」 「う、うん」  本音を言うと、こういうおどろおどろしいシーンは苦手だ。足早にトイレを見つけ用を足さて、足早に戻るしかない。  二人で身を寄せ合って……何とかトイレには辿り着いた。 「芽生くん、もう終わった? 早く戻ろう」 「うん……おにいちゃん、何だかこわいね。お化けがでそう」  再びゆらゆら揺れる灯りを頼りに、廊下を歩く。  すると前方に男性が歩いているのに気が付いた。 「ひっ……」  僕の息をつめた悲鳴にその男性が振り返ると、タキシード姿に仮面をつけていた。ということは、さっきタキシードの仮装をした翠さん?  でも何でこんな時間に……こんな場所に?  何だか変だ……提灯を持つ手の震えが強くなる。  芽生くんも僕にしがみついてくるし…… 「おっおにいちゃん、あれ……だれ?」 「す……翠さんじゃないのかな」 「でも……二人いるよ」 「え……嘘? わっわぁぁぁー」

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