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深まる秋・深まる恋 19

「ゆっ幽霊! 」 「オバケだぁ~」  僕は慌てて芽生くんを抱き上げて、自分たちの部屋にすっ飛ぶように戻った。そして眠っている宗吾さんにガシッと抱き着いた。 「そ、宗吾さん! 」 「パパぁー」  芽生くんと一緒にゆさゆさと揺さぶるが……そうだ、宗吾さんは深酒すると本当に起きない人だった。もうっ肝心な時に!少し腹が立ってしまうな。 「ぐぅ……ぐぅ……」 「宗吾さんってば、イビキかいてる場合ですか! 」 「あーもうパパってばぁ、役に立たないな。こういう時こそカッコよくみせなきゃいけないのになぁ。こんなんじゃおにいちゃんにアイソつかされますよー」 「プッ」  芽生くんの言い方が、なんだか妙に大人びていて可笑しかった。もしかして宗吾さんのお母さんのセリフのまんまなのかな。微笑ましい気持ちが勝って、さっき見てしまった仮面の幽霊のことを忘れられそうだ。  でもやっぱり怖かった。古いお寺って本当に出るんだな。でもお寺なのに、どうしてあんな洋風な仮面の幽霊だったのか。あ……もしかしてハロウィンで迷子になったとか。 「お兄ちゃん、こわかったね。でもパパにくっついて眠ればだいじょうぶ。えっと……たぶんメイたちを守ってくれるはず」 「そうだね……たぶんね」  僕と芽生くんは二人で宗吾さんにくっついて眠った。  宗吾さんの心臓の鼓動は規則正しく、まるで子守唄のように安心できる。だから僕達はまるで子猫みたいに逞しい胸に身を寄せた。 ****  なんだか妙に両腕が重い。それに胸も押しつぶされるようだ。  だが悪夢じゃなくて、幸せな夢を見た。 ****  瑞樹と芽生と一緒に、川辺の道を手を繋いで歩いていた。 「パパ、シロツメグサの指輪つくったよ」 「おお、芽生は上手に作れるようになったな」 「これはパパからおにいちゃんにあげて」 「そうか、芽生ありがとうな……瑞樹」  そう呼ぶとしゃがんでいた瑞樹がパッと顔をあげた。その顔は見たことがないほど幸せに満ちていて眩しかった。 「これをあげるよ」 「はい」  瑞樹がそっと左手を俺に向けてさし出すと、彼の薬指にはプラチナのシンプルな指輪が光っていた。 「あっ……こっちは宗吾さんからいただいたのがあるので、右手でいいですか」 「もっもちろんだ!」 ****  そこでパチッと目が覚めた。妙に生生しい夢だったな。でもそうか……俺、瑞樹にプロポーズして受けてもらえたのか。  おうっ、これは絶対に正夢になれ! そう強く願う夢だった。  目を開けると何故か俺の布団に芽生と瑞樹が潜り込み、スヤスヤと眠っていた。俺の両腕にくっついて眠る二人が愛おしかった。えーと、これって両手に花だよな。これは最高だ。人肌の温もりをすぐ傍に感じる。  そうなのか……幸せなんて目に見えないと思っていたが、俺を慕ってくれる大切な人の重みと温かみから、こうやってじんわりと感じることが出来るのか。  もう明け方か。障子が白く光っているな。こんなにも静かな自然光で目覚めるなんて久しぶりだ。都会のマンションは夜中でも電灯が眩しいし、明け方になれば車の音など生活音が響きだすからな。風情があるとは言い難い。  本当にいい朝だ。自然の森ならではの鳥の鳴き声、風の音を耳を澄まして存分に味わった。  ところが、その静寂の中で細切れに届く、小さな声に気づいてしまった。 ── あっ……あ……んっ ──  この声って……もしかしたら。しかも男同士か……でもちっとも不潔な感じはしない。  なんというか猛烈な愛が溢れている。 **** こちらは別途連載しています『深海』季節の番外編。ハロウィン・ハネムーンとリンクしています。

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