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帰郷 20
朝、目覚めて仰天した。だって僕は宗吾さんにすっぽりと抱きしめられて眠っていたから。
えっと……あっ昨日……まさか、あのまま寝ちゃったのか。うわっ! スーツ着ていないし、いつの間に部屋着になっている。
自分が仕出かしたことに驚愕してしまう。それに潤は何処だ?
あぁ何だか頭がこんがらがってしまう。
とっ……とにかく起きないと!
宗吾さんの腕が僕の躰にしっかり巻き付いているので、なんとか抜け出ようと必死にモゾモゾしていると、彼が目覚めてしまった。
「瑞樹、おはよう」
「あっあの、すみません」
「おいおい、朝一番の挨拶がそれ?」
「ですが、僕……」
「可愛かったよ」
宗吾さんはとても機嫌が良さそうに僕の額にキスをしてきた。それだけでも恥ずかしくなってしまう。
「あっ駄目ですって……」
「なんで? 」
「だって……風呂に入っていないし、汗かいたし」
「くくっ、なーんだ、もういつもの瑞樹だな」
「え? どういう意味ですか」
「昨日の瑞樹は機嫌が良くて大胆だったよ、自分から積極的に着替えてさ」
「えぇ!?」
参ったな……そんなこと、全然覚えていない。
僕は宗吾さんがいると駄目だ。どうも気が緩みすぎてしまう。いつもなら泥酔しないのに……あっという間に酔ってしまうし、客人がいるのにさっさと眠ってしまうし油断しすぎろだろう。
「それでいいんだよ」
ほら、僕の心の中だって全部見透かされてしまう。
「それより教えて欲しいな。どうしてあんなに機嫌が良かった? 」
「それはその……あっ潤……僕の弟はどうしましたか」
「あぁとっくに帰ったよ。後は俺に任せるって言って」
「潤がそんなことを? 」
「瑞樹には他にも弟がいたのだな」
「あっはい……すみません。まだ言えてなかったのに、昨日はちゃんと察して下さって助かりました」
あのタイミングで宗吾さんが潤のことを弟だって見抜いてくれたから、潤もすっかり気を許してくれた。本当に良かった。僕が潤のことをまだ話せていなかったと知ったら、短気な潤のことだからきっと酷く怒っただろう。
そう思うとひやりとする。同時に僕の宗吾さんは本当にカッコいい。宗吾さんといると物事がうまく回っていく。本当にすごい人だ。パワーを持っている。僕にはなかった物事を突き破ってでも進むような力強さ。ずっと欲しかった力を。
昨夜は……そうだ。思いがけず潤と宗吾さんと3人で飲む機会が持て、潤と普通の兄弟みたいに話せたことが何もかも嬉しく楽しくて、いつになく機嫌が良くなったのは覚えている。
「広樹に似た顔だから気づけて良かったよ。あれでよかった? 彼ともしかして以前はあまりうまくいってなかったのか」
「え……」
そんなことはないと言わないといけないのに、宗吾さんの瞳を見ていると嘘はつけない。
「……実は弟が苦手だったんです。それで実家にもあまり帰れなくて」
「そうか……成程な。で、昨日はどうだった?」
宗吾さんが穏やかな声で促してくれる。
「潤はいい方向に変わっていました。なのに僕は以前のままの潤を想定してずっと避けて怖がって……宗吾さん、人って変わるものですね」
「あぁそうだよ。俺も変われたように……いい人やいい物と出逢い、大切にしたいと願った瞬間から変わっていけるんじゃないか。まだまだこの歳になってもな」
「僕……潤に悪いことをしました」
「いや。そもそもアイツ何をした? もしかして瑞樹を怖がらせるようなことをしたんじゃないか。だとしたら原因をつくった方も悪いのだから気にするな」
「そのことは……もういいんです。もう忘れます」
本当にそういう気持ちになっていた。あの頃は確かに辛かったし不快だった。でも今宗吾さんに愛されている僕なら、それを許せる。もう……前に進んでいきたいから、許すことで修復できるのなら、僕はそれを選ぶ。
潤とも家族なんだ。僕を迎え入れてくれた大切な家族だから。
「瑞樹? 本当に大丈夫なのか。いつでも何でも話せよ」
「あの……僕、月曜日に潤と一緒に帰郷しようと思います。そういえば昨日潤に初めて小遣い渡せました。飛行機に一緒に乗りたくて」
「そうか、やっと瑞樹の口から『帰郷』と聞けたな」
「あ……あの、やっぱり僕の故郷は函館なんですね」
「今度俺も連れて行ってくれるか、早く見て見たいよ」
「きっとすぐに叶いますよ! 」
「可愛いことを」
今度は素直に宗吾さんからのキスを受け入れた。柔らかで温かな唇をぴったりと重ねられると、心がポカポカになった。そのままギュッと腰に手を回され抱きしめられると、変な気分になってしまう。
「んっ……ん。好きです。宗吾さんが傍にいてくれると、僕はどんどん変わっていけます。いい方向に……今まで進めなかった道へと」
「おいおい、あまりくっつくなよ」
「でも宗吾さんが抱きしめるから」
「昨日から我慢しまくりなんだ。俺を修行僧にでもするつもりか」
「そんな……あっ」
確かに。僕の躰を抱きしめる宗吾さんの下半身に意識を移すと猛烈に恥ずかしくなってしまう。硬くて熱いモノは僕も同じだ。
「ん……」
彼の肩に手を回して目を瞑った。
彼の重みを、彼の熱を感じたくて。
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