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幸せを呼ぶ 20
「ただいまー!」
芽生くんを迎えに行った後、今日は上がらずに宗吾さんのマンションに戻った。
玄関を開けるなり、芽生くんの元気な声。
『ただいま』か……いいね。もうすぐここが僕の家になる。そう思うと感慨深かった。
「ほら、瑞樹も遠慮しないで早く入れ」
「あっハイ」
「おにーちゃん早くおやつにしようよ。メイ、お腹ペコペコ!」
「そうだね」
それぞれ手を洗い宗吾さんが部屋で着替えている間に、僕は芽生くんの部屋で着替えを手伝ってあげた。芽生くんはまだ春休み中なので、宗吾さんのお母さんの家にずっと預けられているそうだ。
僕の仕事が始まってしまったので、昨日までのように日中遊んであげられないのが残念だな。春休みは沢山一緒に遊べて楽しかったよ。お絵描きも公園も、お買い物も色んなことを一緒にしたね。
にしても今日は泥だらけだで、ソックスが真っ黒だ。これは早く洗濯した方がいいな。手のひらに収まる小さなソックスに、思わず笑みが漏れてしまう。
こんな風にふたりの日常に、僕も自然と加わっていく。
「おにーちゃん」
「何?」
「きょうはおばーちゃんと公園にいったよ」
「そうなんだ!」
「おにーちゃんがすきそうな所みつけたから、日曜日にいけるかなぁ?」
「うん、いいよ」
「やった! デートのお誘いだよ」
「デート?」
可愛いお誘いだね。僕を慕って僕に甘えてくれるのが、砂糖菓子にみたいに甘くて嬉しい!
「おっと、ふたりで抜け駆けか。そのデートは俺も行くぞ」
「ぷぷっパパ、そんなにあせらないのー」
「ほら瑞樹も着替えろ。スーツのままでは堅苦しいだろう」
宗吾さんがスウェットの上下をポンっと渡してくれた。
「えっ……でも」
「そのスーツは下ろし立てだろう。とりあえず今日は俺の部屋着を貸してやるから、ほら」
「はっハイ」
「そうだ、今度は下着も貸してやろうか」
「宗吾さん~っ」
もうっ宗吾さんは!
でも……素直に着替えることにした。
「いい感じだな。そろそろ引っ越しの準備もスタートしよう。少しずつここに荷物持ってきていいぞ。一気には大変だろう」
「あっ……はい」
「なぁ遠慮するなよ。気に入っていた物はちゃんと躊躇わずに持ってこい」
「……でも、それは」
「いいから。あのマグカップさ、綺麗だったよ。それにしてもやっぱ大きいか、俺のじゃ」
悔しいことに借りたはスウェットは、僕にはダボダボで手は甲まで隠れてしまうし……胸元も開き過ぎだ。
宗吾さんと僕……こんなに体格差があるのか。同じ男として少し悔しい!
するとスッと宗吾さんが僕の前に立ち塞がるので、なんだろう? と見上げると、ヒョイと胸元を掴まれ、中を思いっきり覗き込まれた。
「えっ!」
「なんだ? 惜しい。肌着、着ているのか」
「えっええ……」
「今度見せてな」
って……悪戯気に笑う様子に、脱力してしまうよ。
リビングから可愛い声がする。
「パパ、おにーちゃん。早く早く」
「ほら、もう行きましょう! 」
「あぁ。俺たちいつになったら甘い時間になるんだ? 」
「クスッ、それは今からですよ」
さっき持たせてもらった菓子箱を開けると、美味しそうな、こんがりパリッとした皮のシュークリームが4つ綺麗に並んでいた。
「わぁ~大きなシュークリーム」
「へぇ旨そうだな。ん? 珍しくチョコクリームか」
「今日アレンジメントをお届けした洋菓子やさんのです。とても美味しそうですよね」
宗吾さんがじーっと僕を見つめるので、不思議に思った。
「どうしました? あっもしかしてチョコは嫌いですか」
「大好きだよ。しかしなぁ……今年は付き合っているのにバレンタインもホワイトデーもなかったな」
「あっ……」
そうだった。大沼のペンションで働いていた時は、毎日重労働過ぎて吹っ飛んでしまって……必然的にホワイトデーも何もなしだった。
「すっすみません」
「ん? いや、俺の方から贈るべきだったなと後悔してるんだよ。何を謝る」
「だって僕の方こそ」
「えぇーおにーちゃんとパパは交換しなかったの?」
すかさず芽生くんが話題に参入だ。
「ん、忘れてしまったんだ」
「ダメだな。メイはちゃんとコータくんと交換したよ」
「なぬっ?」
「パパにも話したよーおばーちゃんと作ったの、忘れちゃったの。もうパパは忘れんぼだな。そうだメイいいこと考えたよ」
芽生くんってやるな。僕見習わないと駄目かも?
「このシュークリームチョコ味だからちょうどいいよ。これをコウカンしたらいいよ」
「そうだな」
「……いただきものですが」
「まぁいいじゃないか。一つ余るから、それは仲良く二人で分けような」
****
「瑞樹、ほらじっとして」
「宗吾さんっ──もう、もう許して下さい」
俺の服を着た瑞樹を洗面所に連れ込みドアを閉めた。
そのまま壁に押し付け、上着をたくし上げて持たせた。
「ここ持ってろ」
ギリギリの所で、淡い色をしたふたつの果実が見え隠れしている。
そこにシュークリームのチョコクリームを指にたっぷり取って、塗ってやる。
「えっ!」
瑞樹はびっくりし……固まっている。
その驚いた顔も、最高に可愛いんだよな。
そしてそれを俺の舌でぺろりと舐め取ってやると、瑞樹の躰が熱く燃え滾った。
俺の舌先で過敏に反応する躰が愛おしくて、止まらなくなる。
「い……やっ」
「もっと塗ってやろう」
「んっんんっ……」
もっともっと……
「チョコより甘いな、瑞樹のここ」
「やっ……! 」
****
「もっと食べますか、宗吾さん」
「あっ? あぁ」
ハッと妄想の世界から正気に戻れば、瑞樹がシュークリームを差し出してくれていた。
その横で芽生がジドっとした目つきで俺を見ていた。
「おにーちゃん、大変大変っ! パパね、またすっごく変な顔してたよー」
「くすっ、パパはチョコが好きみたいだね」
「違う! チョコじゃなくて瑞樹が好きなんだ」
「そっ宗吾さんっ、芽生くんの前でそんなことばかり言わないでください。もう……恥ずかしいです。さっきから」
さっきの妄想の瑞樹のように、恥ずかしそうに顔を赤くするもんだから、首元まで朱色に染まって、ますますそそられる。
あぁ食べたい──
あとがき(不要な方はスルー)
****
志生帆海です。
バレンタインのお話書けなかったので、ちょっと今日はサービス多めの瑞樹でした!
いつも読んでくださり、沢山のリアクションもありがとうございます。
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