238 / 1651

幸せを呼ぶ 24

「瑞樹、静かにしているんだぞ」  甘い声と熱い視線で、宗吾さんに覗き込まれて……ただコクコクと静かに頷くしかなかった。  こんな状態、至近距離過ぎて……震えてしまうよ。 「可愛いな、震えて」 「あっあの、だって」 「鍵をかけたろう? ドアが急に開くことはないから安心しろ」  いやいや、ドアの向こうには同期と後輩が眠っている状態で、こんな状態は絶対にまずい。なのに……僕も宗吾さんになら何をされてもいいという気持ちが増してしまって、息を呑んで固まっていた。 「瑞樹がこうして欲しいと思ったんだけど、違うならやめるよ」  腰に回された手は這い上がり、僕の背中を支えてきた。僕の上半身はぐっと持ち上げられるような形になって、宗吾さんの胸元と密着していた。  あ……宗吾さんの浴衣の襟元が緩み、素肌が見えている。弾力のある逞しい胸筋が、上下しているのが分かる。直に肌と肌が触れると、ますます妙な期待が高まってしまう。 「嫌か」 「うっ……宗吾さんは意地悪です。……や……めないで……ください」 「よく言えたな」  チュッとおでこにキスをひとつ。それから僕の髪を指先に絡めて遊び出した。 「なっ……何をして?」  「ふぅん……瑞樹の髪って小さな子供みたいに猫っ毛で柔らかいんだな。もともと栗毛色だけど、日に透けるともっと明るくなって綺麗な色だよ」 「そっそうですか」 「うん、芽生のより柔らかいな。あの子は最近俺に似て」 「そっそうでしょうか」 「あぁ将来が色々と心配だ」  こんな状況で芽生くんの名前を出されると居たたまれない。『ごめん……パパとこんなことして!』と心の中で必死に謝ってしまった。 「あっあの……」 「何?」 「もっもう……そろそろ寝ませんか」  こんな風にベッドで宗吾さんに抱きしめられた状態で眠れるか分からないけれども、このままだと、どうにかなってしまいそうなので、無理やりにでも寝るしかない。 「駄目だよ。お休みのキスがまだだろう?」 「あっ……」  今度の口づけは唇に真っすぐ降りて来た。 「んっ……」 「偉いな。今日は酒、飲まなかったんだな」 「何、言って……」 「花のにおいしかしない」 「いつも……そんなことばかり」  一馬にも、いつもこの部屋でそんなことを言われながら抱かれたのを一瞬思い出してしまった。でも、それはもう……自ら上書きする。  僕の方からも積極的に口づけを求めた。 「宗吾さん……」 「瑞樹……」  隣の部屋に聞こえないように、小さな声で交わす愛。  宗吾さんの柔らかい唇が触れれば、温もりを感じる。そのまま舌先でノックされる。 「あっ」  そっと口を開くと、舌が中にやってきて、深い口づけに移っていく。こんなんじゃ興奮して眠れないのに。しかも声……声を出したら絶対に駄目なのに。  「んっ……ん」  深まっていく行為に翻弄され、必死に宗吾さんの広い背中にしがみ付く。 「そうだ。しっかり掴まってろよ」 「ん……」  僕も宗吾さんも長い時間をかけて、たっぷりと口づけのみで愛を交わした。  もしかしたら……宗吾さんも不安だったのかもしれない、僕と同じように。  僕は不安だった。始まったばかりの社会生活。そのスピードについていくのに必死だったし、急に部下が出来て、前より多くの仕事を依頼され、もっとしっかり男らしく上司らしくやっていかないと……そんな気負いで息切れしそうだった。  だからかな、今日は……無性に宗吾さんに甘えたくなっていた。  昨日より今日、今日より明日、僕の宗吾さんへの愛は深まるばかり。 「瑞樹は偉いよ。まだ復帰したばかりなのに頑張っているな。今日飲み屋で君の様子を見てほっとしたよ。君はとても周囲の人に愛されているんだな」  宗吾さんが甘く囁いてくれる。僕の欲しかった言葉で甘やかしてくれる。 「宗吾さん……宗吾さん……僕の宗吾さん」 「そうだよ。俺は瑞樹のものだ」  一段と深い口づけになっていく。  ぬくもりは、熱に変わり、  想いは重なって、弾けそうだ。  もうっ──

ともだちにシェアしよう!