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恋心……溢れて 13

「瑞樹……機嫌直してくれよ」 「……」    風呂場でがっつき過ぎたのか、それとものぼせてしまったのか、瑞樹は無言だった。  お互いの溜まった熱を放出した後、風呂場で脱力してしまった瑞樹の躰を優しく洗ってやったが、それからずっと黙っているので心配になった。  激しすぎたか、求めすぎたか。それとも疲れてしまったのか。    もう一度パジャマを着せてやり、汗とシャワーですっかり濡れてしまった髪もざっと乾かしてやった。   「ほら、水を飲んで」 「……はい」  素直に水を飲んでくれたので、ホッとした。 「ごめんな」 「あの……」 「おう! 何でも言ってくれ」 「宗吾さん……僕は……実は、その、そんなに……慣れていないんです」  瑞樹が耳たぶを赤くしてまで訴えたのは、そこだった。  ん? 慣れていないって、もしかして浴室でした行為のことか。  そうなんだ、そうだったのかと、ひとりで納得してしまった。 「宗吾さんは、いろんな経験あるかもしれませんが、その……」 「瑞樹、嬉しいよ」 「え? なんだか論点がずれているような」 「ごめん、本当にごめん。そしてありがとう! 」 「ありがとうって……」 「無理させたな。 風呂場でああいう行為は初めてだったのか」  瑞樹の顔は、瞬時に赤くなる。決まり悪そうに目を泳がして……    君は感情がストレートに顔に出やすいんだなと、微笑ましくなる。   「すみません……慣れていないせいか、途中から訳が分からなくなって……なんかもう、宗吾さん激しいし、恥ずしいやらで……困ってしまって」 「いいんだよ。俺こそごめん。でも、すごく可愛かったから止まらなくなって、君に無理させたな」 「まだ……やっぱり……普通にベッドがいいです」 「お、もう次のリクエストか! 」 「もうっ、宗吾さんは本当に……でも、嬉しかったです」  最後にようやく優しい瑞樹スマイルを浮かべてくれたので、ホッとした。  心の中で、もう一度侘びた。  正直言うと……俺も最初はあそこまでするつもりはなかったのだ。  脱衣場でシュークリームを食べた時に見た夢を実現させたくなったのは認めるが、君に触れてしまうと、どうにも止まらなくなって、結局風呂場に連れ込んでしまった。    あーあ……俺ってこんな余裕ない男だったか。  いい年して、がっついて、瑞樹が初心な態度を示せば示すほど、嬉しくなるのは、心の奥底で実は前の彼氏とのことを意識しているのか。  前の男とは……どこまで許した? どこまでした……と確認するような気持ちが、少しもなかったわけじゃない。瑞樹の過去も含めて丸ごと愛したいと誓ったくせに、俺も心が狭い独占欲の強い、ただの男だったのかと情けなくなる。  それほどまでに瑞樹との恋に夢中だ。  瑞樹に愛情を注ぐと、瑞樹は綺麗に咲く。  だから……毎日、毎日、欠かさず与えたくなるんだ。 「お互いもう少し落ち着こうな」 「くすっ、ですね。あの……宗吾さん、もう少し芽生くんの横で眠ってきてもいいですか」 「おう、子供はいくらでも眠れるから羨ましいよ。瑞樹もな」 「……僕は疲れたからですよ」 「やっぱりごめんな」  瑞樹のくせ毛を撫でてやると、くすぐったそうに笑ってくれた。 「なんか子供扱いですね」  時計を見るとまだ朝の7時半だった。お互い体内時計のせいで出勤時と同じ6時には目が覚めてしまったらしいな。今日からゴールデンウィークだ。特に用事があるわけじゃないので、朝寝坊もOKさ。だから快く促してやった。 「おやすみ」  子供にするように額にチュッと優しいキスしてやった。 「……僕は子供じゃありませんよ」 「うーむ、だが昨日の寝顔はかなり、あどけなかったぞ」  その頃には瑞樹はもう冷静さを取り戻し、澄んだ笑顔でいつものように笑ってくれていたので、安堵した。 「もう……では少しだけ、お言葉に甘えさせていただきますね」 「あぁそうするといい。おやすみ」  今度は、ちゃんと唇にキスを一つ。 ****  スヤスヤと眠る芽生くんの横に添い寝する形で布団に潜ると、すぐに芽生くんが甘えるようにくっついてきた。 「ごめんね、ひとりにさせて。そしてありがとう」 「ん……ムニャムニャ」 「ん? 何って言ったの?」 「ムニャ……ムニャ……」  何か言われたような気がして、耳を澄ましハッとした。  そうか、そうだよね。やっぱり……  まだ小さい芽生くんなのに、こちらが泣けてくるほどいつも聞き分けもよくて。  そんな芽生くんに僕が出来ることって何だろう。  そんな事を考えながら、結局二度寝してしまい、起きたらもう10時だった。 「おにいちゃん~おはよう! ボクよりもおねぼうさんだね!」  

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