294 / 1741

さくら色の故郷 21

「美里ちゃん……大丈夫?」  地元のハンバーガーショップで、まさか元カレと遭遇するとは流石に驚いてしまったわ。 「あっ……うん。ちょっとびっくりしちゃって」 「……高校時代に付き合っていた彼と再会するのは、複雑? 俺はちょっと複雑だったが」 「ごめんね。でももう本当に何でもないから。……未練もないし……そもそも私から振ったのよ」 「えっ美里ちゃんから? それ意外だな。確か高校時代は、葉山にベタ惚れだったよな」  「うわっ恥ずかしい。今更、そんな昔の話しないでよ」  確かに高校のクラスメイトの瑞樹くんにかなり憧れていたわよ。    整った清楚な顔の、物腰の柔らかな彼に憧れて、後夜祭で告白したのも私だし、強引に付き合ってもらったようなものだもん。でも…… 「んーどうだろ? 今となってはあまり実感ないなぁ、彼……雲の上のような存在で……掴みどころなかったし」 「それ分かるよ。一年間同じクラスだったが、自分から存在を消すような大人しい奴だったぜ。美形だからモテていたし、話しかければそつなく返してくれるから、感じは悪くなかったけどな」 「……だよね」    本当を言うと……私から一方的に振ってしまったことに少しの後悔と罪悪感を持っていた。 『瑞樹くん……ごめん。別れよう』  電話で切り出した突然の別れの言葉に、彼は絶句していた。 『美里ちゃん……どうして?』 『だって、あなた全然函館に帰って来てくれないし……あなたからは連絡も全然くれないし、なんか私ばかりで疲れちゃったのよ』 『それは……ごめん、そんなつもりでは』 『とにかく、もう無理だから別れて』  自分勝手な一方的な別れだった。彼の事情も何も聴かずに……  2年程付き合ったけれども、自分の事はほとんど語らない人だったのよね。  突然の大学からの東京行きだって、何も相談してくれなかったし。  唯一、彼の実家が花屋だと分かっていたので、別れてから、たまに店の前を通ると自分から振ったくせについ足を止めてしまった。  花屋はよくある昔からの古めかしい店構えで、いつも彼のお兄さんらしき人が店番をしていた。  確かお兄さんの話をしていたから、この人かな。なーんだ! 瑞樹くんとは全然似てないのね。少しでも面影があればと思ったのに残念……  なんて、思っていたなぁ。  それにしても驚いた。まさかその彼が突然函館に現れて、小さなお子さんとオムライスを仲良く分け合ている光景を目の当たりにするなんて。  とても幸せそうだった。    私は彼にあんな笑顔浮かべてもらうこと……出来なかったなぁ。  それにしても、えっと……周りにいた人は誰だろう?   年配の女性二人に、年上の男性に年下の男性……謎のメンバーだったけれども……まぁいいか。  瑞樹くんのあんなに晴れやかな笑顔を見せつけられたら、私までスッキリした!  未練はないと答えたけれどもね……やっぱり気になっていたの。  だって彼は…… 「あのさぁ……やっぱさぁ……葉山が美里ちゃんのファーストキスの相手?」 「うわっ! もう、はずいこと聞かないでよぉ!」  その通りだわ。  あの夏……重ねた唇の柔らかさを思い出す。  瑞樹くんとのキスは……花の香りがするような淡いものだった。  これは内緒ね。   ****  昼食後は実家に一旦戻った。 「そろそろ移動するか」 「あっこの後の予定は……本当に大沼に? 」 「あぁ大沼だ、墓参りに行こう」  宗吾さんに言われて、ドキっとした。    冬に叶わなかった事……  宗吾さんのお母さんと芽生くんと共にお墓参りをする。  それを叶えてくれるつもりだ。  嬉しい。せっかくここまで来たのだから皆で行きたかった。 「瑞樹、私たちはお店もあるし、この前お墓参りさせてもらったので、この先は4人で行ってらっしゃい」 「お母さん……」 「もう、そんな顔しないの、ほらこれを持っていきなさい」  お母さんが渡してくれたのは赤いカーネーションだった。 「あなたのお母さんにお供えしてあげて」 「えっ……でも確か亡くなった人には白いカーネーションだと」 「いいのよ。瑞樹は、きっと白じゃなくて赤いカーネーションをお供えしたいと思ったの。違う?」  びっくりした。お母さんには何でもお見通しだ。  生きている時……僕が母にカーネーションを贈った記憶はない。  朝……赤いカーネーションの花束を、函館の母と宗吾さんのお母さんに贈った時、ふと込み上げた寂しさをちゃんと汲んでくれていた。 「ありがとう。お母さんが作ってくれたこれを、お供えしてくるよ」 「お願いね。この前も報告したけど『瑞樹はとってもいい子に成長しました。そしてますます幸せになっています』って、報告してきてね」  赤いカーネーションの意味は『母への愛』だ。   「瑞樹、そういえばアメリカでは、亡くなった母親を偲んで母の日を過ごす習慣があったぞ」  宗吾さんが優しく僕の肩に手を置いてくれる。そのぬくもりが心地よい。 「母の日に母を偲ぶ? 」 「あぁ母の日には子どもが墓前に集まって鮮やかな花を手向けて、ピクニック気分で賑やかに過ごす習慣があると、以前出張で行った時に教えてもらった。まさに今日はそれだな」 「……はい」 「瑞樹くん、宗吾の言う通りだわ。残された息子が幸せに元気に過ごしている姿を見せることで、亡くなったお母様も安心するでしょうね。何よりの贈り物よ。ぜひ私もご一緒させてね」  まだ少し母の日には早いが、まさにそれだ。  大沼で僕がしたかったのは、僕が幸せな姿を墓前で見せる事だ。  優しい想いが集まっている、ここには…… 「みんなが僕のことを考えてくれて……幸せです……本当にありがとうございます」 あとがき (不要な方はスルーで) **** こんにちは。志生帆 海です! いつもリアクションで、創作の応援をありがとうございます。すごく励みになっています。 都内は本当に緊迫しており外に出る事も殆どしていないので、気が滅入りそうになっているので、読者様の優しさに救われています。 せめて創作の中では、彼らと共にいろんな場所に移動して、旅を楽しみ、会話を楽しみ過ごしたいです。これからも、よろしければお付き合いくださいませ。  

ともだちにシェアしよう!