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さくら色の故郷 34

 芽生に励まされたが、瑞樹の同級生に合わす顔がなくて、出るに出られなかった。俺はこんなに気弱な人間だったかと首を傾げてしまう。 「もうパパってば、ほら~」  芽生に背中を押され観念して一歩踏み出したのに、そこでまた勝手口に人影が見えた。 「おはようございます! 大久保青果です……おーい! 誰もいないのか」  今度は野菜の配達か……確か瑞樹の同級生が牛乳や野菜をペンションに納入に来ると言っていたな。それで盛り上がって飲み会をしたとも…… 「あっはい!」  一度厨房に消えた瑞樹がまた顔を出し、そのまま小走りで勝手口に向かった。  どうやらペンションの手伝いをした時の癖が抜けていないようだな。今回は宿泊客で来ているから、そんなことしなくてもいいのに彼のサービス精神が揺さぶられるのだろう。  気立てがよくフットワークの軽い瑞樹らしい。  そんな彼だから皆に好かれるのだと納得してしまう光景だった。 「おわっなんだ、ミズキじゃねーか」  今度の男はさっきの男よりもさらに大柄な奴だ。そいつに瑞樹がガバっと抱きつかれた。  おいっさっきの指先どころでないスキンシップじゃないか! 「わっオオクボ! よせって、くすぐったいよ! 」  瑞樹が腕の中で藻掻くのもお構いなしに、更にむぎゅっと深く抱きしめられてしまった。  おいおい参ったな。『瑞樹はオレのもんだ! 気安く触るな』と一喝したくなる! しかしこの光景ってどこかで見たような。そうだ広樹との再会シーンだ。  どうやら瑞樹は大男にモテる。  分からんでもないが……駄目だ! もういい加減に離れろ! 「パパぁ……もう、だらしないなぁ」  芽生が俺を差し置いてトコトコ歩いて近づいていく。 「あのぉートントン」  小さな手で、大男のお尻をツンツンしてる。 「ん? なんだ? この子」  パッと手が緩んだので瑞樹が解放された。  瑞樹は、ふぅと深呼吸していた。  同級生は素朴そうな髭もじゃの男で、瑞樹を抱擁した手に性的な意味は微塵もなかったようだが……やっぱりあんなに深く瑞樹を抱きしめるのは、俺だけだと嫉妬してしまう。 「芽生くん!」 「ねぇねぇ、おにいちゃんのおともだち?」 「うん、僕の小学生の時の同級生だよ。野菜を運んできてくれてね」 「そうなんだ。こんにちは! おにいちゃんがおせわになっていましゅ…」 「くすっ」 「わははー可愛いボウズだな」 「もーまた! お坊さんじゃないもん! メイだもん」 「ははは、このチビスケは瑞樹の知り合い?」 「う、うん」  瑞樹はどう答えようか思案しているようだった。  おい宗吾、今出ないでどうする? 全部芽生に持って行かれるぞ。  やっと決心がついた。しかし、いつものようにスマートになれないのは何故だろう。瑞樹に対して……俺は本当にただの嫉妬深い男になってしまう。 「……瑞樹」 「宗吾さん!」  瑞樹がほっとした表情で俺を捉えた。  「宗吾さん、あの、こちらに来て下さい」 「あぁ」 「オオクボ、こちらが僕の大切な……宗吾さんとその息子さんだ」 「え。この人が……その、そうなのか」 「……うん」  いいのか瑞樹……そんな無防備に?  男は瑞樹から何かしらの事情を聴いているのだろうか。値踏みされるように見つめられたので、俺も腹を据えて見つめ返した。  暫しの対峙の後…… 「やべっ」  どういう反応をされるかと思ったら、突然俺のことを見ていた大男が頬を赤く染めた。  ん? なんだ? ちょっとキモイ……  この反応……昨夜、風呂場でセイからも浴びたような。 「いやぁ~あんたメチャいい躰してますね。脱いだら凄そうだ。それに顔も精悍でメチャカッコいいっす!」 「は?」 「あーいやいやいや、こっちの話で」  瑞樹をつかまえてゴニョゴニョ言っている、といっても全部筒抜けだが。 「瑞樹、すげーな」 「なっ何が」 「彼、男らしいオーラ全開で、オレ、惚れちまった」 「ばっ馬鹿!」  俺がこの髭もじゃの大男に惚れられた?   背筋がブルっとしてしまった。 ****  「じゃあ、セイ、ありがとう!」  木下牧場までセイのバンで送ってもらった。夕方の飛行機まで時間がたっぷりあるので、これから大沼をゆっくり観光する予定だ。  まずは午前中は牧場で過ごし、ランチはとっておきの場所を予約している。その後大沼湖畔をサイクリングして名物のお団子をおやつに食べてと楽しい予定が満載だ。 「おー瑞樹とそのご一行様、待っていたよ」 「キノシタよろしくな。こちらは宗吾さんと宗吾さんのお母さんと息子の芽生くんだよ」  大沼で過ごした時、セイとキノシタとオオクボで飲む機会があった。その時に皆も察したのだろうか。僕が誰を待ち……誰の元に帰りたがっているのか。  直接、男性と付き合っているとは話していない。(セイには後にバレるが)だが通じていたようだ。だから僕も隠さない。恥じることではないし、この3人はずっと僕のことを心配し、僕の幸せを願っていてくれていたから信頼している。 「瑞樹と小学校の同級生の木下です。よろしくお願いします。って宗吾さんって、いやー噂通りもの凄く格好いいですね。さっきオオクボが騒いでいたの分かるな」  うっまただ。ここに来て宗吾さんモテすぎないか。  しかも僕と全くタイプの違う大柄な男たちに……いやいや彼らはもう結婚して子供もいる身だし、そんなはずないのだが。  キノシタにも「宗吾さんって惚れちまいそうなほどかっこいいな」とささやかれたし、焦ってきた。  宗吾さんは確かにカッコいい。ちょっと変な時もあるけれども、決めるときはビシッと決めるから文句なしだ!    『駄目だ。宗吾さんはもう僕のものだ!』と声を大にして言いたい気分だった。  僕にこんな独占欲があるなんて、知らなかった。函館と大沼……故郷で過ごすうちに、僕の心にも欲が芽生えてしまったのか。  宗吾さんに囁かれる。 「瑞樹。もしかし妬いてくれた?」 「えっ」 「さっきから拗ねた顔してる」 「していません!」 「ふっ、俺が嫉妬する気持ちが分かっただろう?」  宗吾さんが甘く微笑む。もう……ズルい、そんな顔。 「……ですね」 「俺は瑞樹のものだよ。そして瑞樹は俺もの。あっ束縛とかじゃなくて、心の話な」 「はい……でもやっぱりずるいです」 「ん?」 「そうごさんのその逞しい躰が羨ましいです。僕も憧れます」 「ははっ俺って男にモテるんだな。知らなかったよ」 「もう!」  そんな会話をこっそりしていると、キノシタに授業中に喋る子供みたいに怒られた。 「おーい。乳しぼりのやり方、ちゃんと聞いておけよ。そこの熱々なお二人さん!」  こんな会話を宗吾さんと出来るなんて。  また一歩関係が深まったようだ。  もう僕は解き放たれている。  心がどんどん軽くなっている。  見上げれば青空。  白い雲がぽっかりと浮かんで流れていく。  目にも眩しい牧草地に僕たちはしっかり立ち、肩を寄せ合って笑っている。 あとがき(不要な方はスルーで) **** いつも創作の応援をありがとうございます! 本当に沢山の方に支えられているなとじーんとしてしまいました。 そして、ものすごくやる気に繋がっております。 これからも私の萌えを注ぎ込み、皆さまにもほろり……くすっとしていただけるような心温まる物語をお届けしたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

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