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選び選ばれて 6

「葉山、お疲れさん」 「リーダー!」 「大丈夫か。途中、具合が少し悪そうだったが……」 「あっ」  さっき途中で抜けたのを見られていたのかと思うと、気恥ずかしくなり俯いてしまった。 「すみません。体調管理不足です。長い休みをいただいたのにカッコ悪いです」 「いや、今日はオレでも疲れたからな。それにしても規模が大きすぎる結婚式だったな」 「……フォローありがとうございます」 「さぁ君は明日も仕事だろう。しっかり休んで来い」 「はい!」 「よし、じゃあ今日はもう帰っていいぞ」 「お疲れ様でした」  スタッフ控室に行くと、また鷹野くんと会った。彼も仕事が終わったらしい。 「葉山さんも終わりですか。さっきはすみません。話の途中で」 「いえいえ」 「もう体調は大丈夫?」 「お陰様で、なんとか」 「よかった。余計なことをしたかと。でも洋の友達なんて偶然、まだ信じられないな。もしかして月影寺に遊びに行ったことも?」 「ええ、秋にお邪魔して……」  あのハロウィンの強烈な仮装大会の事を思い出したら、口元が勝手に綻んでしまった。 「あれ? 笑うとヨウよりもむしろ……」 「え?」 「あっいえ何でも……あの強烈な兄さんたちとも仲良くなったみたいだな」 「あっはい!」  早く……洋くんだけでなく、翠さんや流さん、丈さん、薙くんとも話したいな。  この1年を通して……僕を取り巻く環境は大きく変わり、新しい出会いが多かった。  一馬との別れは辛かったが『別れがあれば出会いもある』……そう、今となってはしみじみと思う。 「こんな偶然滅多にないから嬉しくて。あのっ洋には俺からも話していいですか」 「いいですよ。僕からも連絡してみます」 「ぜひ! あっ呼び止めてすいません」 「いえお疲れ様です」  鷹野くんとはホテルのスタッフ出入り口で別れた。  本当に爽やかなスポーツマンタイプだな。僕とあまり年齢は変わらないかな。  きっとまた会える。会ってみたい人だ。  さぁ僕も家に帰ろう!  でも……どうしても待ちきれなくて電話をかけてしまった。  宗吾さんのスマホではなく、固定電話に。  僕がかけてみたかった。帰る家があるって感じがするから── 「もしもし」 「もちもちぃ……」  宗吾さんが出ると思っていたら突然あどけない声が耳に届き、驚いたのと同時に癒された。芽生くんの声って癒し効果抜群だな。 「芽生くん?」 「やっぱりおにいちゃんだー」  普段は勝手に電話に出るのはダメと言われているが……僕の番号が表示されているから、大丈夫だったんだね。 「おにいちゃん、もうすぐかえってくるの?」 「うん、あと40分くらいかな」 「わーたのしみだよ。ずっと待ってたよ。あとであそんでね」 「もちろんだよ」  電話の向こうで、宗吾さんの声がする。 『メイーそろそろ交代してくれ~瑞樹今どこだって?』 『パパーおちついてよ、もうっさっきのこと言っちゃうよ』  ん? さっきのことってなんだろう? 気になる── 「芽生くん、パパにも代わってもらえるかな?」 「もちろんだよー」 「瑞樹?」 「はい、宗吾さん」 「お疲れさん」 「ありがとうございます」 「頑張ったな、今どこだ?」 「ホテルを出たばかりです。このまま真っすぐ帰ります。何か買っていくものはありますか」 「いや、それよりも早く会いたい」  ストレートな言葉にドキっとする。  それは僕もです。僕もあなたに早く会いたいです。四日間一緒にいたせいか、離れて過ごすのが変な感じでした。  とは……流石にホテルの前で口に出せなかった。でも宗吾さんには以心伝心で伝わったのか、甘い返事をもらえた。 「会いたいよ……だから、気を付けて帰っておいで。待っているよ」 「はい、では」  たったこれだけのことだったが、電話を切った後もずっとしあわせな余韻に包まれていた。  函館大沼旅行に一緒に行けて良かった。  お陰で宗吾さんと芽生くんとの距離がますます近づいた気がする。  今の僕には、ちゃんと帰る家がある。  そして僕の帰りを楽しみにしてくれる家族がいる。  それが嬉しくて堪らない。 ****  瑞樹、少し疲れた声をしていたな。  無理もないか。始発近い電車で出かけて、ずっと立ちっ放しだったろう。昼食は支給されたと思うが、ちゃんと食べていないんじゃないか。瑞樹のことだからろくに食べずに動き回って……奮闘していたのだろう。  もう18時か。腹空かせているよな。すぐに食べられるように準備しておこう。  今日は疲れた躰でも食べやすいようにマグロのねぎま鍋を用意した。たっぷりの長ねぎに軽く焦げ目をつけ、出汁の中でマグロと一緒に煮る。鍋のシメは蕎麦だ。日本酒でも少し嗜むか。君と飲む酒は美味しいだろう。  そうだ。1日身体を動かしたから汗をかいているに違いない。風呂が先がいいか。よしっ風呂も洗っておこう。  いつも一緒に働きに出ていたので……今日みたいに俺だけずっと家にいて、瑞樹の帰りを待つのは新鮮だ。  こんな風に愛する人の帰宅を、心待ちにするなんて……  ふと玲子のことが過ぎった。アイツも俺が帰宅すると夕食を作って風呂も沸かして待っていてくれたな。俺は当たり前のように振舞って感謝もせずに悪いことした。だが蘇る感情はそこまでだった。すまん。 「パパ。まちきれないよ。おにいちゃんのことを迎えにいこうよ。駅まで」 「お! そうだな。 きっと疲れて帰ってくるだろうから車で行こう。あっ……しまった!さっき料理をしながら、うっかりビール飲んでしまったなぁ」  まったく俺はいつも自分のことばかりだ。 「パパ、あるいていこうよ。きっとあえるよ」 「そうか。そうだな!」  どうせ家にいても暇だ。  散歩がてら途中まで迎えに行こう。  駅から俺の家までは1本道だ。  会いたいなら、会おう。  待てないなら、迎えに行こう。  瑞樹に関しては、どこまでも……感情に素直に動けるよ!    

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