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選び選ばれて 5
チャペルでの挙式が無事に終わると、華やかに着飾った列席者が次々に出て来た。
僕はフラワーシャワーのためにチャペル前に待機し、花を列席者に配る介添役の背後に立ち様子を見守っていた。
すると中から現れた一人の若い青年に、目が釘付けになってしまった。
「えっ……洋くん?」
いや違うか。洋くんよりは若いよな……でもすごく似ている。
顔の造りやパーツが本当にそっくりなので驚いてしまった。世の中にこんなに似ている人がいるのだろうか。幻かと思って何度か目を擦ってしまう程だ。
「やぁまた会いましたね」
「あっ鷹野さん」
「さっきから何を見ているんですか」
「あの人って……」
「ん? あぁ」
僕の視線を辿った彼は、洋くんに似た彼を見つけ、あぁといった様子で目を細め頷いた。
とても愛おしそうな表情を一瞬だけ浮かべたので、僕の方がドキっとしてしまう。
「彼は有名なモデルですよ。知っていますか」
「すみません。僕、疎くて……」
「さっきから思っていたんですけど、葉山さんは少し彼に似ていますね」
「え? 僕は一般人だし、モデルの彼とは全然似ていませんよ」
「うーん雰囲気かな。俯いた時の感じが似ているかも。どっちかというとヨウの方ですが」
ん? 今、『ヨウ』って言った?
以前、僕はやはり月影寺の人たちに少しだけ洋くんに雰囲気が似ているといわれた。うつむいた時の感じとか。まさか……そんな偶然はあるはずがないと思いつつも、気になってしまう。
だが今は仕事中だ。
もっと詳しく聞きたい気持ちをぐっと我慢して、仕事に徹した。
「おっと、お互い仕事中ですよね。また披露宴会場で」
「はい!」
鷹野さんと別れると、また違う視線を感じたので振り向くと、今度はモデルの彼が僕をじっと見つめていた。
僕というよりは鷹野さんを見ているのかな。何故だろう?
****
披露宴会場でも再び鷹野さんと会ったので、軽く会釈した。
なんだか彼とはとことん縁がありそうだ。鷹野さんの配置が、たまたま僕と重なるだけだろうが。
ボディガードか……格好いい仕事だと思う。
いやいや僕の宗吾さんの方がもっと……
うー駄目だ……また邪念が。
****
新婦さんのお色直しのブーケやヘア飾りの確認も終わり、今日の僕の仕事は、ほぼ終わったも同然だ。
披露宴のお開きまであと少し……ずっと集中モードで保っているのも疲れ、立っているのが辛くなってきた。
まずいな……貧血を起こしそうだ。
そっと会場を外れスタッフ控室近くの壁にもたれて、ため息を一つ漏らしてしまった。
「ふぅ……何となく仕事の終わりが見えてくると、家が恋しくなってくるものだな」
思わず呟いたのは、少しの弱音。
家が恋しい。
僕がこんな気持ちになるなんて、いつぶりだろう。
大沼で暮らしていた頃は、放課後はセイたちとよく野原で遊んだ。でも夕方になると急に家が恋しくなって家路を急いだものだ。家が近づくと美味しそうな料理の匂いが漂っていて、ほっとすると同時にますます気持ちが急いた。
家が恋しいというより家族が恋しく……家族の中でもお母さんに会いたかったのかもしれない。
玄関を開けると、エプロンをしたお母さんの笑顔が待っている。そう思うと、早く、早く会いたくて、どんどん駆け足になった。
『ただいま!』
『ミズキ、おかえり! 今日はあなたの大好きなホワイトシチューを作っているのよ~』
『わぁ牛乳たっぷりの?』
『もちろんよ、木下牧場のね』
『楽しみだな』
お母さんの何気ない会話、何気ない仕草が、子供心にも無性に愛おしくて、愛おしいと同時に消えちゃったら嫌だなぁという不安を覚えていた。
あれは予感だったのか……幼い頃から切ない郷愁にかられていたのは。
あんなに早く皆と別れることになるなんて、信じられなかった。
駄目だ。気分が落ち込むと体調もどんどん悪くなり、フラッと軽い眩暈を覚えた。
こんな風になる事は滅多にないのに、数カ月のブランクが体力をすり減らしていたのかもしれない。
すると僕の横にスッと人が立って、さりげなく支えてくれ、もたれさせてくれた。
「えっ?」
「大丈夫? 俺にもたれて」
「あ……すみません」
見上げると、ボディガードの鷹野さんが冷たいペットボトルを渡してくれた。
「俺も今は休憩時間なので気にしないで。あーやっぱ、なんか顔色悪いな。水分取った方がいいよ。今日結構暑いので脱水症状には気を付けて」
「すみません。プロ意識に欠けますよね。こんな場所で大事な仕事中に、ぼんやりしてしまって」
「そんなことないですよ。葉山さんは今日はかなり早朝から準備していましたよね。それにずっとひとりで奮闘していたし……だから、疲れが出て当然ですよ」
「ありがとうございます。じゃあ、いただきます」
太陽のような明るい笑顔に励まされて、ホッとした。少しだけ支えになってもらい水分を取ると、だいぶ具合も落ち着いてきた。
おかしいな。今日の僕は初対面の人に警戒もなく甘えすぎだ。
「あーやっぱ……貧血を起こしそうになる所も似ているな」
「あの、さっきから僕が誰かに似ているって言っていますよね?」
「あぁ実は俺の幼馴染のヨウって奴に葉山さん少しだけ似た所があって。なんだか放っておけなくて……こっちの勝手な事情なのにすみません」
「あの……幼馴染のヨウさんて、もしかして張矢 洋《ハリヤ ヨウ》さんでは?」
「え!!」
僕は洋くんと雰囲気が少し似ていると言われていたので……言葉がまたひっかかる。我慢できずに思い切って聞いてみると…、鷹野さんも驚いていた。
もしかして当たり?
「えっえっ! びっくりしたな。もしかして葉山さんって、洋の知り合いなんですか」
「えぇ実は昨年……葉山の海で月影寺の皆さんと仲良くなって」
「うわっ!そうなんですね。月影寺メンバーも知って? うわぁ……いやああ奇遇過ぎるな」
腑に落ちるとは、このことだ。
洋くんとの出会いは僕の人生において縁深い事だったから、こんな偶然がまた起きるのも受け入れられる。
「洋くんは、僕の大切な友人です」
「洋の友達? それっすごくな。葉山さんみたいな人が洋の友達になってくれるなんて……自分のことのように嬉しいぜっ!」
なんだかテンションが上がった鷹野さんにバンバンと背中を叩かれ、ムギュっとハグされた。
「うわっ……!」
「あっ!」
僕の驚きの声と同時に、鷹野さんも変な声をあげた。
視線は、僕でなく遠くを見つめ……
化粧室に行くのだろうか、披露宴会場からひとり出て来たあのモデル男の子と目があった。
「まずいな。葉山さん、また改めて! 今度は洋の所で会いたいですね。その時詳しい事話しますので、今日はこれで。すみません! 」
慌てて僕は引き離され、鷹野さんは足早に彼の元に駆け寄った。
何だかこの状況って……
僕……悪いことしたかな。
何か事情がありそうなので、僕も了解の意味を込めて一礼した。
生きていると……
続く縁と続かない縁があることに気づく。
きっと彼らとの縁は続く──
そんな予感に包まれていた。
これはいい縁だ。
だから楽しみだ。
6月になったら北鎌倉に行こう!
宗吾さんと芽生くんを誘って、遊びに行きたい。
きっと紫陽花が綺麗だろう。
こんな風に先へ先へと……
未来を楽しみにできる事が、今、とても嬉しい。
あとがき(不要な方はスルーで)
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今日は『重なる月』と、ちょこっとリンクさせてみました。
安志もあちらではいろいろ活躍しております♪
この話……『重なる月』の方で、このモデルの彼視点で書いてみたいです。
プチ嫉妬かも?(未読の方にはネタばれになりますのでモデルの名前は伏せました)
そろそろ卵ボーロを作っている宗吾さんの元へ、瑞樹を帰さないと!ですね。
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