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選び選ばれて 4
「パパ……大丈夫?」
「あっああ」
「さっきからぼんやりしてるよ」
「そっそうか」
呼ばれて振り返ると、芽生が退屈そうな顔で立っていた。
「おにいちゃんがいないと、なんだかさみしいね」
「あぁそうだな」
確かに瑞樹がいないと、こんなに静かだったか、こんなに部屋は広かったか
瑞樹と同棲を始めてまだそんなに日も経っていないのに、彼の存在感は日に日に増している。特にこの4日間はスペシャルで、ずっと一緒にいたから猶更そう感じるのだろう。
これはまずいな、顎に手をあて考え込んでしまう。
今頃……瑞樹は大きな仕事を任され奮闘しているだろうに、俺がこんな女々しいことでは情けない。大型連休はカレンダー通り休みだからって、暇を持て余すなんてな。
おいっ宗吾、しっかりしろ!
こういう日こそ父親らしく過ごすべきだろう!
自分の頬をペシッと叩き気合を入れた。
「芽生、今日は何して遊ぶか」
「んっとね、こんどはパパとこれ作りたいなぁ」
「なんだこれ?」
お菓子の空き袋を差し出された。袋には『北海道たまごボーロ』と書いてある。
「あぁこれって芽生が赤ちゃんのころ好きで、よく食べていたよな」
「うん! おばーちゃんが旅行でかってくれて、すごくおいしかったの。パパぁ……コレつくってほしいな」
こういう時の芽生は、どこまでも甘え声だ。この声に最近の俺は滅法弱くなった。
この手のお菓子は買った方が早いと思うが、芽生は絵本のケーキを作った余韻なのか、手作りにこだわっている。
「よしっやってみるか」
「やった! パパかっこいい!」
「そうか、任せておけ!」
ネットで検索すると、すぐに作り方が見つかった。しかも動画で解説つきだ。
「材料は片栗粉と砂糖と卵か、これもシンプルだな」
「うん! ボク大好き!」
卵黄と砂糖を混ぜ、泡だて器でペースト状になるまでよく混ぜる合わせる。そこに片栗粉を加え生地がまとまるまで、練るようにヘラで混ぜていく。
俺、すごくないか。菓子作りまで出来るようになったなんて!
数年前の自分からは考えられない程の変貌だ。
しかしこの感触って何かを思い出すな。
うーむ、なんだっけ?
「パパーボクも丸めるのやりたい」
「おお、じゃあここからはひとりでやってみろ」
オーブンを予熱し、クッキングシートを敷いたトレーに小さく丸めた生地を並べていく。
「パパーこれでいい?」
「うーん、どうだろ。もう少し小さいほうがいいかも」
「えーわからないよ、たとえば?」
「あぁ例えばだな、じゃあ、パパが作ってみるよ」
耳たぶの硬さの生地を摘まみ、指先を器用に使ってコロコロと捏ねていく。
あれ? んんっ! おー!!
これって瑞樹の乳首の柔らかさと似ているな。さっきから何かに似ていると思ったが、そうかそうか。ふむふむ。
一人納得、感心してしまう。
じゃあ大きさは……彼を抱き、彼の胸の尖端に触れた時をイメージしてみればバッチリだな。
……
『あっ宗吾さん、もうそこは弄らないで…!』
瑞樹は胸が弱いようで、触れるだけでもすぐに息を乱してしまう。しつこく触れると乳首が心なしが膨らんで赤みを増し、やがてコリコリと芯を持つ。それを指の腹で捏ね回すと、じっとしていられないようで過敏に震える。
『うっ、う……う』
感じている君の様子を伺いながら潰すように先端の尖りを握りしめると、感じ過ぎるのか……綺麗な涙を流す程になっていた。
『んっ……うっ……う』
艶めいた彼を、そのまま深く抱く。堪らない快感に包まれて──
本当に君は開発し甲斐があるよな。
……
というわけで、粒の大きさは……
「この位か。いや、もうちょっとつぶらで……この位か」
「パパぁぁーストップ!!」
「え?」
「下を見て!」
「うっわ!!」
涎……
「すっすまん」
「もう、パパってばーまた『ハナノシタジケン』だよ。おにいちゃんがかえってきたら、ホウコクしないと! 大ジケンですよーて」
「うわ、それだけは勘弁っ」
そこからは大人しく無心にボーロを丸め続けた。
出来上がり、小さな粒がごろごろしているのを見て、なんか俺みたいだなと苦笑してしまった。
この小さな粒め!
瑞樹がちょっといないだけでへこたれて、菓子の生地に欲情する程のちっぽけな男だ。俺は!
もっと広い心で瑞樹と接していかないと……彼と過ごさないと!
煩悩の塊じゃダメだ!
駄目……
****
「クシュっ」
「大丈夫ですか」
「いえ、急に。すみません」
なんだか今ブルっと悪寒が……
「じゃあ、こちらが新婦様の控室です。今出てこられるので、ブーケチェックをお願いします」
「了解しました」
控室前で待機していると扉が開かれ、世にも美しい女性が出て来た。
サオリさんという売れっ子モデルの彼女は、20歳そこそこで10歳も年上の俳優と電撃結婚するそうだ。
白薔薇のヘア飾りにラウンドブーケ、若い彼女の瑞々しさとマッチして、眩い程のしあわせオーラにあてられそうだ。
「あっフラワーアーティストの葉山さん!」
「本日はおめでとうございます」
何度かホテルで打ち合わせに同席しただけなのに、名前まで憶えてくれるなんて嬉しいな。まだ『フラワーアーティスト』と呼ばれるのは照れくさいけれども、ありがたい事に雑誌に掲載された僕の花を見て指名してくれる人が増えている。
「わざわざ連休中にすみません」
「いえ、仕事ですから。ブーケや髪飾りに不具合はありませんか」
「はい! サオリ面食いなので、葉山さんみたいなイケメンでハンサムな男性にブーケを作ってもらえて、嬉しいです!」
「えっあっ……ありがとうございます」
これから結婚する女性の発言とは思えないが、若さと美貌故の自信なのかな。
「あら、先生って……少し面影が誰かに似ているような」
「あーすみませんね。うちの姫はいつもこんな調子で」
「もう! 似てるってばぁ」
良く分からないが、モデルさんの知り合いの男性に似ているらしい。なんだか芸能人のオーラに飲まれそうでタジタジだ。
「時間だよ」
「はーい」
「お幸せに……いってらっしゃいませ」
深くお辞儀して、花嫁を見送った。
しあわせに──
どんな人にも願わずにいられない。
僕も今、とてもしあわせだから、そう感じるのか。
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