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選び選ばれて 10

 寝間着の隙間から宗吾さんの指が侵入し、今度は直接、胸の尖りを的確に見つけられ、やわやわと指先で捏ねられてしまった。 「あっ!」 「まだ、やわらかいな」 「もうっ……駄目ですっ」  そこは宗吾さんがいつも沢山弄るせいで、すっかり弱くなってしまった。  少し触れられるだけでもコリコリと芯を持って、膨らんでいくような危うい感じで困惑してしまう。どうして……こんなになった? 「少し硬くなったな。やっぱりこの感触とこの大きさだな」 「やっ……」  さっき摘まんだ卵ボーロの大きさが脳裏に浮かび、いよいよ恥ずかしくて死にそうだ! 「もう、宗吾さんは……変ですっ」 「ははっどうとでも」  チュッチュッと啄むようなキスを受け、そのまま平らな胸を揉まれる。  こんな風に愛撫されるのは……女性にするのと同じ事をされているという自覚はある。でもとても気持ちいい。宗吾さんの手が気持ちいいからだ。  毎回……男としての矜持がどうしても揺らいでしまうのは、中に出されたものが内股から滴り落ちる時だが、こんな風に胸を弄られるのは、実は結構好きなのかもしれない。  なんて絶対に口に出せない!(宗吾さんが喜ぶだけだから!) 「んっ……もうやめて──」 「じゃあ、瑞樹も自分で触ってみろ」  僕の胸の尖りを自分で触るようにと、宗吾さんの手が誘導する。 「あっ!」  本当に大きさが卵ボーロのような気がして恥ずかしい。いつの間に、こんなぷっくりと膨れていたのか。それに自分で自分の胸を弄るなんて、僕も相当……変だ! 「ふっ可愛いな。自分で触って感じているのか」 「ちっ違います!」 「しっ静かに」  真横に芽生くんが寝ている状態で、こんなの無理だ。 「うっ」    声を押さえると、反動で涙がほろりと溢れた。 「ううっ……」 「あっすまん。泣かせるつもりじゃ」 「もうっ酷いです。僕のここ、どうしてくれるんですか。こんなにしたのは宗吾さんですよ」 「俺が君を変えた?」 「前は……こんな風に感じなかったです」 「じゃあ、俺が開発したのか」 「うっ」  なんだこの会話……そう告げると宗吾さんは機嫌良さそうに微笑んだ。  どうして僕は宗吾さんになら何をされても許せてしまうのか。  でも今日は少しの悪戯心が芽生えてしまった。 「宗吾さん、教えてくれてありがとうございます。よーく分かったので、今度は実践させて下さい!」 「えっ」  形勢逆転だ!  僕が宗吾さんの胸にぴたりと触れてみる。 「わっ! なっ何だ? 」  それから、僕と違って逞しい胸板に埋もれる小さな粒を掘り起こすように、指先で弄ると、宗吾さんがくすぐったそうに身を捩った。 「駄目ですよ。ちゃんと捏ねさせてください」 「うわっ! よせっって、よせ~っ!」  宗吾さんが大笑いした拍子に、芽生くんがムクりと起きてしまった。  まっまずい! えっとこの場合は…… 「ん……どうしたのぉ? パパぁ、おにいちゃん……なにしてるの」 「わっ芽生くん! あのね……えっと、パパをやつけているんだよ」  むっ無理があるかな。 「なにそれーおもしろそう! どうするの?」 「ここをこちょこちょするんだよ」 「ワハハっ! よせよせ!」  二人がかりで宗吾さんの胸元を沢山くすぐった。 「ワー!!ヤメロォー!」  結局そのまま泣き笑いし、最後は笑い疲れて、3人で川の字で眠ることになった。 「おにいちゃんーボク……目がさめちゃった。なかなか、ねむれないよ」 「困ったね……そうだ! 羊を数えるといいよ」 「ひつじ?」 「羊が一匹、羊が二匹って数えると、退屈で眠くなってくるよ」 「ふーん、でも、ひつじはメイみたいだから、卵ボーロをかぞえる!」 「え?」 「小さくてコロコロ、いっぱいだもんね。卵ボーロが1つ~卵ボーロが2つ、あっそうだ。パパはヨダレをたらして、コネコネしていたよ」  なるほど!これが二人の秘密か。 「もうー宗吾さんっ、小さな子供の前でやめてくださいよ!」 「わっ悪かった」  その日は、3人で大量の卵ボーロを作る夢をみた。  僕は宗吾さんサイズの小粒なものを、宗吾さんは僕のサイズを忠実にせっせと再現してた。  夢の中でも、やっぱり宗吾さんは変だった。  きっと夢を見ながら……僕は笑っていたに違いない。 **** 「じゃあ、行ってきます」 「おお、気をつけてな」 「はい。正午にお店の入り口ですね」 「そう、今日は昼に一度会えるから嬉しいよ」  朝、駅でそんな会話で別れ、もう昼休みだ。  僕は今日は内勤で、来週の結婚式に向けて会場花のデザインを決め発注したりと忙しかった。そして昼は駅前の家電量販店で宗吾さんと待ち合わせをしている。  明日が芽生くんの誕生日なので、プレゼントを一緒に買う約束をしていた。  芽生くんの希望は今はやりの携帯型のゲーム機で、幼稚園でも流行っているらしい。やっぱりイマドキの子供って進んでいるな。 「瑞樹は小さな頃、何をもらった?」 「……僕の家は厳しくてゲーム機を買ってもらえなくて、いつも友達が楽しそうにやるのを隣で眺めていましたよ。それでも広樹兄さんが就職した初任給で僕に買ってくれて……あぁ懐かしいです」 「ムムッやるなぁ……広樹は」 「でももう友達と集まってやるような年齢でもなかったので、兄さんを誘ってよく一緒に遊びました」 「うううう、羨ましいぞ。それ! タイムマシーンがあったら学ランの瑞樹に会いに行く!」 「いよいよ危ない宗吾さん登場ですか」 「おい!」 「くすっ」  改めて思い出せば……お母さんに隠れてこっそり夜中に遊んだり楽しかったな。人並みの事はほとんど経験させてもらっていたと、改めて兄さんに感謝する。  大沼時代はもっと前なので、何をもらったか思い出せない。でもひとつだけ覚えているのは、10歳の誕生日にもらった花の図鑑。大沼にも四季折々の花が咲く。その花の名を知りたくて強請ったのだ。僕の引き取り先が函館の花屋だったのも何かの縁かな。  そうだ! 芽生くんにも本を贈りたい。 「宗吾さん、本屋にも寄ってもいいですか」 「おう、もちろん」  今でもベストセラーの花図鑑は改訂を重ね、販売されていた。  芽生くんにこの本を贈ろう。今はまだ難しいかもしれないが、いつか花について一緒に語れるといい。 「瑞樹、ありがとうな。芽生の心が豊かになる贈り物を選んでくれて嬉しいよ。俺はこんな親馬鹿なものしか選べないのに」 「それはそれでお父さんらしいですよ。僕の図鑑……喜んでもらえるでしょうか」 「もちろんだよ」  家族の誕生日を祝う。  僕たちのだけの記念日が、またやってくる。  

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