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花の行先 1
「瑞樹、身体きつくないか」
目覚めてすぐに、まだ僕を抱きしめたままの宗吾さんに耳元で囁かれたので、赤面してしまった。
昨夜の僕……少し、いやかなり酔った。ずいぶん酒が過ぎて、痴態を演じてしまった。
「うっ……大丈夫です……たぶん」
途中から酔いも回り、僕の方から積極的に求めてしまったのは、ちゃんと覚えていた。
あぁぁ……恥ずかしい。穴があったら入りたい。
「よかったよ。昨日の君、すごく可愛かった」
「もう……いちいち言わないでくださいよ」
「なぁもう一度呼んでくれないか。アレを」
「えっ……」
『宗くん』と僕に呼ばれるのが、最近の宗吾さんのお気に入りだ。
昨日は勢いで確かに呼んだかもしれない。でも朝の明るい陽射しの中、そんな風に甘えた呼び方は到底出来ない。照れくさくて、話を逸らしてしまう。
「あの……もう、起きないと!」
「なんだ? もう、いつもの瑞樹だな。また酔わすぞ」
「くすっ……あの、昨日は僕も、その……」
「うん?」
「……よかったです」
「瑞樹……」
宗吾さんが嬉しそうに僕に抱きついてくる。なんだかその様子が可愛かったりもして……今なら自然と口に出せそうだ。
「瑞樹、おはよう」
「……そ……うくん、おはようございます」
あぁぁ結局彼の望むことを言ってしまう。僕はもう宗吾さん仕様になっているのかな。
「お・は・よ・う」
甘く微笑みあい、唇を軽く重ねて朝の挨拶。
それからコツンと額を合わせて、今日を始めよう!
****
今日は5月5日の子供の日。いよいよ芽生くんの誕生日当日だ。
去年はまだ宗吾さんと出逢って間もなかったので、誕生日を祝いあうような関係ではなかった。だからとても新鮮な気分だ。
芽生くんの誕生日は、自分の誕生日以上に嬉しいし、楽しい!
好きな人の血を分けた息子がいる。
一緒に暮らしている。
それってすごいことだ。男同士の恋愛だ。僕らの間に子供なんて生まれない。どんなに望んでも叶わない事だから。僕が女性になって子供を産みたいとか、そういう夢物語ではない。
大切な人の大切な存在が……すぐ傍にいることに対して、感謝の気持ちで一杯になるんだ。
「瑞樹、じゃあ朝食の支度するから、芽生を頼む」
「はい!」
手早く着替え身支度を整え、子供部屋を覗く。
「芽生くん、おはよう!」
「ん……ムニャムニャ……」
「そろそろ起きないと」
「うーん、おにいちゃん?」
「そうだよ」
「……だっこぉ」
「あれ? ひとつおにいちゃんになったのに?」
「うん……きょうはおたんじょうびだから、トクベツ」
「ふふっいいよ。おいで」
まだまだ小さな芽生くんは、僕でも抱っこできる。
芽生くんが両手を伸ばしてくるので、そのまま抱きしめて抱っこしてあげる。僕のシャツをギュッと握る小さな手が可愛くて、胸の奥がキュンっとする。
本当に愛しい仕草だ。君は僕にとって大事な存在だ。
「パパーおはよう」
「芽生、誕生日だな。おめでとう!あれ? もう瑞樹に甘えているのか」
「だって、おにいちゃんのこと大好きだもん!」
「まぁその気持ちは分かる」
宗吾さんが腕組してウンウンと頷くと、芽生くんも真似をしてウンウンと頷く。
似たもの親子だなぁ……
こんなに僕だけモテていいのかな? とくすぐったい気持ちになる。
朝食のあと、僕は昨日会社から持ち帰ったアイリスでアレンジメントを作ることにした。
「おにいちゃん、おとなりでみてもいい?」
「もちろんだよ」
「おー瑞樹、本職発揮だな」
「はい! 頑張ります!」
花材はアイリスをメインに、クレチマスやリューココリネ、アリウムギガンチュームなどの初夏らしいパープル×グリーンの花色配色にした。
「今日は芽生くんの兜の横に飾りたいから、和モダンなアレンジにしてみるね」
「ワモダン?」
「うん、そう。えっとね……日本っぽいかんじといえば分かるかな」
「あーおばあちゃんちみたいなの」
「そうそう」
今日は、思い切って生け花の作法も取り入れてみよう。
アイリスの真っすぐに伸びた直線ラインはキリリとしたモダンな雰囲気を生み出してくれる。それぞれの花材をバランス良く配置して、1輪1輪引き立てていく。
「うわぁキレイー」
「流石だな、瑞樹。なんだか今回のは新しいスタイルだな」
「そうですか。嬉しいです」
「あぁ君にはいつもハッとさせられるよ」
目の肥えた宗吾さんに認めてもらえ、頭をわしゃわしゃと撫でられると、心がくすぐったくなった。
芽生くんの誕生日は、ランチパーティーにしようと宗吾さんと事前に相談していた。夜は興奮して眠れなくなってしまうし、子供の誕生日は明るいうちがいいと。
宗吾さんは、せっせとハンバーグの仕込みをしていた。
「そうだ、瑞樹。誕生日ケーキを買って来てくれないか」
「あっはい。いいですよ。どこで買えば?」
「この店のケーキが芽生は好きなんだ」
洋菓子屋のショップカードを渡された。僕の家とは反対方向で、ここから宗吾さんの実家に行く道の角を曲がった所だった。
「わかりました。では行ってきますね」
「おぉ任せたよ。悪いな」
「おにーちゃん、いっしょにいこうか」
「うーん、そうだね。でも……今日はサプライズだから、お留守番でいいかな」
「わかった!」
「芽生くんが喜ぶのを買ってくるね」
「わーい! たのしみにしてるね」
家族のために何かが出来るって……素敵なことだ。
一緒に暮らすようになって、ひとりでは感じなかったことに、毎日気づかせてもらえる。
芽生くんの成長は、そのまま僕と宗吾さんの恋の歴史になるだろう!
ひとつ大きくなる芽生くんのお祝いを出来ることが、僕の喜びだ。
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