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夏便り 20
オレだけの瑞樹の写真が、欲しい!
ワクワクした気持ちで待っていると、すぐに着信があった。
端正な日本庭園を背景に、夏の日差しを浴びた瑞樹が照れくさそうに映っている。
「わっ! スゲーカワイイ!」
あれ? でもこれ……自撮りかと思ったら違うな。
ははん、宗吾さんが撮ってくれたんだな。
函館では、いつも悩みを抱えていた(原因はオレだ)瑞樹だったから、こんな風に心を許した屈託のない笑顔は最高だ。
瑞樹、幸せそうで何よりだ!
オレもやっと素直に……瑞樹の幸せを願えるようになった。
写真と一緒にメッセージも届いた。
『潤、頑張れ! 今度、宗吾さんのご実家の庭の手入れをアドバイスして欲しい。改めて電話するよ』
うぉぉ! 瑞樹がオレを頼ってくれた。その事にジーンとした。
『兄さん写真ありがとう。元気そうで幸せそうで、安心した!』
『ありがとう。潤の写真も格好良かったよ。日焼けして逞しくなったね』
和やかなメッセージをやりとりをしながら盛大にニヤけていると、同僚に馬鹿にされた。
「潤~ 彼女かよ? ニヤけすぎ」
「違うよ。兄さんさ」
「ははっ、ブラコンか」
「そう!ブラコンだ」
函館の兄貴の気持ちが、今になって分かるよ。
瑞樹の……『打てば響く優しさ』が心地いい。
どうして昔は、それを鬱陶しく思ってしまったんだろうな。
失いそうになって気づくなんて……本当にギリギリの所だった。
瑞樹には、こんな風に甘えれば良かったんだな。
今更ながら、しみじみと思う。
間違った関係を長く続けトドメをさしてしまったオレだけど、優しい心を開いて、もう一度受け入れてくれてありがとうな。
瑞樹、いや、兄さん……感謝している──
****
「それじゃ母さん、また来るから」
「庭の手入れがあるので、定期的に通わせてもらいますね」
「おばーちゃん、またあそぼうね」
楽しいお盆休みだった。
まるで俺が子供の頃に過ごした夏休みを凝縮したような、濃密な時間だった。浴衣に花火、スイカにビニールプールに水風船。おねしょのおまけまでついて楽しかったな。
瑞樹を連れて実家に泊まったのは、実に新鮮だった。
「宗吾さん、楽しい一時をありがとうございます」
「瑞樹が輪の中心だったよ。みんなの気持ちを和ませてくれてありがとうな」
「そんな、僕は……でも嬉しいです。そんな風に思って下さって」
「宿題も出したしな」
「宿題って?」
「俺のシャツを着ることさ!」
瑞樹の顔がみるみる赤くなる。
日の高いうちから刺激的過ぎたかな。
「……宗吾さんの過ごした部屋は、充分刺激的でしたよ」
可愛い事を……俺の匂いに過敏に反応していたよな。
「さぁ帰ろう。俺たちの家に」
「はい!」
家に帰ると、瑞樹はすぐに浴衣を丁寧に畳みだした。
「なんだ? もう畳んじゃうのか」」
「きちんと畳まないと、次に着るとき皺になりますので」
「ふぅん」
「これ、宗吾さんのなんですね。そう思うと大切にしたくて」
口角を上げて、幸せがこぼれそうだ。
「そんなに気に入ってくれたのか」
「とても」
「ボク、ゆかたもっと着たいな。おまつりにいって、おおきなはなびもみたい」
「お? そうか。なら調べてみるよ」
お盆を過ぎたら夏休みも後半戦だ。8月の週末はあと2回。
「瑞樹、次の週末の休みはいつだ?」
「はい。最後の週は休めます」
「了解!」
インターネットで早速検索していると、丁度良さそうな花火大会を見つけた。
お祭りの屋台も出るし、これは楽しめそうだ。
すぐに瑞樹に相談すると、二つ返事でOKをもらえた。
おねしょのせいで5時に起きて、昼間はビニールプールで水遊びをした芽生は疲れていたらしく、夕食を食べながら船を漕ぎ出し、夜の8時からぐっすり眠ってしまった。
「芽生くんも、楽しかったのでしょうね」
芽生に布団をかけながら、瑞樹が優しい眼差しを浮かべていた。
瑞樹にとっては血の繋がらない芽生だが、瑞樹と過ごせば過ごす程、芽生は俺と瑞樹の子供なんだと強く思うよ。
3人で、同じ空間で同じ時間を過ごしているからなのか。
「あぁ満足そうな寝顔だ」
「ふふっ本当に可愛いです」
「さぁ瑞樹はこっちおいで。 思いがけず俺たちの時間が早くやってきたな」
「あ、そうですね。……ビールでも飲みますか」
瑞樹も満更ではないのか、甘くはにかんだ笑顔を浮かべていた。
「いや、まずは着替えだ」
「え?」
「俺のシャツを着る約束したよな」
「あ……くすっ、早速なんですね。いいですよ」
瑞樹がパジャマのボタンを照れくさそうに外していく。
そして上半身を露わにしてくれる。
もうその時点でソファに押し倒したくなったが、グッと堪えた。
芽生が瑞樹のTシャツを着ていたのを思い出し、俺も瑞樹に白いTシャツを着せてやった。
素肌が隠れてしまうが、ぶかぶかの襟ぐりから少し覗き込めば、可愛い突起が拝めるし、瑞樹の躰のラインが動く度にシルエットで浮かび上がるのもいい。
「これは脱ごう」
「え!」
そのまま彼のパジャマのズボンを脱がして、下着だけにする。
「あ、あの──」
恥ずかしそうに、Tシャツの前見頃を引っ張る様子が溜まらないな。
「似合うなぁ」
「そんなに……似合いませんよ」
「じゃあエロい」
「それは……宗吾さんが脱がしたからです」
「ははっ俺、本当に君が好きで好きで、変になりそうだ」
寝室のベッドに連れて行き、その場で押し倒して抱きしめた。
項に口づけを落とし、柔らかい髪を指で梳く。
芽生と風呂に入った身体からは、清潔なボディソープの香りが立ち込めている。
「実家では君を抱けなかったから、欲求不満だ。分かってくれ」
「宗吾さん……宗吾さんの部屋で、僕はドキドキしました」
「微塵も感じさせないで、隠すのが上手いな」
「それは、芽生くんの事もあって……」
「家に帰ってきて安心した? ここならいいだろう」
「はい……改めて、ここが僕の家なんだなって思いました」
「そう思ってくれて嬉しいよ」
話しながら次第に距離を詰めて……
後は互いの素肌に触れ合いながら、会話しよう。
俺のシャツを着た君が可愛すぎるので……脱がさずに、裾から手を大きく潜り込ませた。
DIVE INTO YOUR BODY……
真夏の暑い夜に、君の熱い躰に飛び込むよ。
シーツという海に沈んだ瑞樹も……熟れた瞳で、俺をゆらゆらと誘う。
「……瑞樹」
「宗吾さん……」
今日の君は、やっぱり誘っているな。
まるで海中を泳ぐように、俺の背中にまわされた細い腕。
息継ぎするように口を開いて、口づけを繰り返す。
潜ろう!
君の躰の最奥まで……
真夏の夜の夢を見に行こう。
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