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心の秋映え 31
「おにーちゃん、おにーちゃん、わかったよ」
芽生が何か閃いたように冴えた表情で、俺たちを見上げた。
「ん? 何が分かったのかな?」
「おにーちゃんってば、旅行にきてから『やっぱりホッカイドウの牛乳はしんせんでおいしい』って、朝も昼も夜もイッパイのんでいたでしょう?」
「くすっ確かにそうだね。普段の2、3倍は飲んでしまったかも」
「それそれ! 『のみすぎはからだによくない』って、おにいちゃん、パパによくいっているよね?」
「そうだよ、体調に変化が出てしまうから気を付けないとね」
瑞樹の口癖?
あぁ酒の話かと聞き流していたら、芽生がとんでもないことを!
「やっぱり? だからだよ! おにいちゃんは牛乳の飲みすぎで牛さんみたいにおっぱいがでるようになったんだ! これは、たいへんだよ!」
瑞樹が一瞬キョトンした表情で固まった後、ワナワナと震えた。
「……な、ならないよ。絶対に!!」
ひぃ……我が息子よ~
せっかくいい感じにカッコよく丸く収めたのに、今、ソレ言うか!
だが『授乳男子・瑞樹誕生』と、うっかりニヤリと想像すると、瑞樹に見つかったようだ。
低く静かな冷たい声で……
「宗吾さん……流石に恨みますよ」
冷たい目で、ジドっと睨まれた。
****
何事もなかったのようにレンタカーは旭川に向かって、穏やかに走行中だ。
運転は瑞樹だ。
彼は今は涼しい顔で、少し開けた車窓から入ってくる秋風を浴びながら、楽しそうな横顔を見せてくれていた。
「宗吾さん、道が真っ直ぐで気持ちいいですね」
「あぁ君の運転は上手だ。乗り心地がいいよ」
「ありがとうございます! 褒められるのは嬉しいですね」
普段俺といる時には運転をさせないので、旅行先で運転出来るのを心から喜んでいるようだ。
それにしても富良野・美瑛エリアは、ドライブに最適な道だ。
どこまでも続くなだらかな丘。丘陵地帯には畑や牧草地が広がり、さまざまな花や作物が連なりパッチワークの模様のように見えていた。
「パパ、すごい広いねー」
「あぁ本当に広いな」
やがて見えて来たのが、今日、俺が用意したメインイスポットだ。
「瑞樹、少しその辺りで車を停められるか」
「はい?」
一度車から降りて、深呼吸する。
「ほら、あそこの木を見てみろ」
芽生の手をしっかりと瑞樹と俺とで繋いで、前方に広がる景色を見つめると、3本の柏の木が親子のように見えることから名付けられた『親子の木』という観光名所があった。
真ん中の小さい木が子供のように見え、両端の親と手をつないでいるように見えるのだ。
「わぁ……何だかあの木って、親子のようですね」
「わーあれ、ボクたち?」
芽生も瑞樹も、思いがけない景色に顔を綻ばせた。
「あそこは『親子の木』と呼ばれる観光スポットだよ」
「なるほど、親子ですか」
「あぁ冬の風雪や夏の風雨にも負けずに堂々と立っている姿がいいんだよ。以前仕事で真冬と真夏に来て見たが、秋は特にいいな。日だまり色の草原に立っていて、木も寛いでいるようだ」
「ハーベスト……まさに収穫の秋ですね」
作物が生育し実れば、丘の色も濃淡の緑色や黄金色に……季節の移り変わりに伴って変化していく。
「なぁ瑞樹、俺たちが今見ているこの風景を楽しめるのは、この一瞬だけだ。二度と同じ風景に巡り会えないよな」
「そうですね。目に焼き付けておきましょう。人も自然も絶えず成長していくのですね。またこうやって親子で見に来ましょう」
「あぁ、その頃には俺たちの関係も更に深まっているだろうな」
目を閉じて想像する。
成長した芽生と、肩を並べてこの丘に立つシルエットを。
「どんな時も俺の隣には瑞樹……君がいる」
「はい! 宗吾さん」
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