466 / 1749
心の秋映え 32
富良野を出発し、中富良野町、上富良野町、美瑛町を通り抜け、一路旭川へ向かった。
少し道を外すと「親子の木」以外にも、「セブンスターの木」「マイルドセブンの丘」「ケンとメリーの木」「パッチワークの丘」「四季彩の丘」などの景観スポットが沢山あり、ドライブには最適なルートだった。
道中、車を少し停めて、北海道らしい景色を満喫した。
「宗吾さん、もうすぐ旭川市内に入りますね」
「結局、君にずっと運転させてしまったな。疲れてないか」
「いえ! 真っすぐな道が爽快だったので、本当にあっという間でしたよ」
「そうか、お陰で俺もゆっくり景色を楽しめたよ」
「良かったです!」
瑞樹もとても満足そうだった。口元を綻ばせ、目が笑っていた。
ご機嫌だな、瑞樹。
いい嫁さんだ、俺にはもったいないほどの。彼は絶対尽くすタイプだと、心の中でニマニマしてしまった。
「やっぱり一番印象に残ったのは『親子の木』ですね。何だか勇気付けられました」
「あぁ、あれを君と肩を並べて見るのが夢だったから、俺も嬉しかったよ」
「ねぇねぇ、おにいーちゃん、つぎはどうぶつえんだよね」
「そうだよ! 楽しみだね」
さてと、ここからの主役は芽生だ。
大人は北海道らしい雄大な景色だけでも満足だが、子供はやはり遊園地や動物園というテーマパークにワクワクと心を引かれるようだ。
幸い旅の最終目的地の旭川には、全国でも有名な動物園がある。
ここには絶対に連れて来てやりたかった。
芽生には素直に何でも吸収できる小さいうちに、いろんな土地へ連れて行き、いろんな景色を見せ、いろんな体験を積ませたい。
今はまだ幼く無条件に瑞樹に懐いているが……思春期になっても、俺たちの関係を受け入れて欲しいという勝手なエゴがあるのかもしれないな。
芽生には小さなことに動じない、寛容な人になって欲しいと願ってしまう。
それにして子供はスポンジのように新しい知識をどんどん吸収する。知識や経験という水は、どんなに注いでも根腐れしないだろう。スクスク真っすぐに上へ上へと成長していくだけだ。
「着きましたよ!」
「わーい! はやく、はやくー!」
芽生はもう車に乗っているのは飽きたようで、瑞樹がドアを開けた途端に、ピョンっと元気よく飛び降り、入場門に向かって一目散に走り出してしまった。
「あっ芽生くん、待って! 危ない! 」
「おいっ、ここはまだ駐車場内だぞ!」
瑞樹が焦って追い駆けた。すると停車していた車が突然動き出したので、瑞樹が急いで芽生を抱きとめた。
ふぅヒヤッとした……これだから子供は目を離せない!
「芽生っコラッ! 駐車場では走るなと何度も言っただろう! 忘れたのかっ!」
つい厳しい口調になってしまったが、駄目なことは駄目ときちんと伝えたい。それに万が一怪我でもしたら、瑞樹は絶対に自分を責めてしまう。
「う……ご、ごめんなさい、ぐすっ」
俺の大声で、芽生がビビッてベソをかきだしてしまった。
「……芽生くん……今度からはちゃんと僕と手を繋いで歩こうね。動物園は逃げないから大丈夫だよ」
「ご、ごめんなさい。ボク……たのしみすぎて」
「それは僕もだよ。動物園は久しぶりだ」
瑞樹は芽生をふわりと抱きしめ、それから目を細めて前方を見つめた。
確かに東京で遊園地には何度も行ったが、動物園は知り合って間もない頃、一度行っただけだ。あの頃はまだこんなに深い関係でもなく、お互いに少し緊張しながら、ぎこちなく歩くだけだった。
だが今は違う。
こんな風に、芽生の子育てにも、瑞樹は積極的に協力してくれる。
俺だけでは行き届かない、きめ細かさと優しい心を持っている。
親の役割は様々だ。
怒る人、宥める人……各自がいろんな役を担って調整していくのかもな。
こんな時、瑞樹がいてくれてよかったと、しみじみと思うよ。
「おにいちゃんがいてくれて、ボク、うれしいよ」
芽生が瑞樹の首に手を回して囁く。
「ありがとう。僕も芽生くんの傍にいられるのが、うれしいよ」
芽生にとって最高の答えを返すのが、俺の瑞樹だ。
ゆったりと家族で旅をしながら、瑞樹への愛と信頼が深まっていく。
ゆっくり色付いていく紅葉のように……
ともだちにシェアしよう!