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心の秋映え 35

「わーい! トラさんだ~! パパ、ありがとう!」  お土産ショップで芽生にトラのぬいぐるみを買ってやると、大喜びだった。   「芽生くんは、相変わらずぬいぐるみ好きですね」 「あぁ誰に似たんだか」  瑞樹が何か閃いたような表情を浮かべたので、続く言葉を待ってみた。 「あの……僕と弟の夏樹は大のぬいぐるみ好きで……だから」 「そうか! じゃあ瑞樹に似たんだな。外見は俺で、内面は瑞樹だ」  瑞樹が驚いたように目を見開き、プルプルと頭を左右に振る。 「そんな……玲子さんが産んで育てられたのですから、そんな風に言うのは、おこがましいです」  相変わらず遠慮深いなと思いつつ、だからこそ、今の彼に言ってやりたい言葉があった。 「瑞樹だよ。これから芽生を俺と育てていくのは、君だよ」 「あっ……はい」  今度は頬を染めて、俯いてしまった。  だが、その仕草は彼が心から嬉しい時にするものだと知っている。 「さぁ旅の最終地点に向かおう」 「え、まだあるのですか」 「最後は瑞樹の行きたい場所だ」 「えっ、僕の?」 ***  いよいよ、旅の締めくくりだ。 「着いたよ」 「あの……ここは?」 「ここは『見本林』と言って、外国樹種が北海道で育つかを観察するために明治時代に樹々を植栽した場所だよ」 「そうなんですね。あっもしかして有名な小説の舞台でもありますね」 「そうだ……主人公の決心と再生の土地でもあるんだよ」 「なるほど、ここだったのですね」  旭川にある『外国樹種見本林』。  通称『見本林』の敷地には、ストローブマツやヨーロッパカラマツなどが所狭しと植わっていた。  真っ直ぐ伸びた1本道の遊歩道の両脇には、見上げるほど高く成長した木が立ち並び、ツタ類が高い木を登るように樹の幹に沿って成長していた。  また木の根を傷めないようにチップが敷いてあるので、ふかふかの踏み心地が疲れた足に優しく、歩く度に木の香がふわっと立ち込めてくる。    珍しい草花も多く、自然溢れるとても静かで落ち着く場所だった。 「草花を愛す瑞樹にぴったりの場所だろう?」  辺りには人がおらず、俺たちだけの貸し切りの空間になっていた。 「素敵ですね。ここは、まるで海外のようです」 「あぁそうだな。海外の品種でもちゃんと日本で根づき成長したんだ。それを君に見せてやりたかったんだ」 「あ……宗吾さん。僕も宗吾さんと芽生くんの家庭に後からやってきましたが、ちゃんと根付けるのですね……そういうことを?」  察しの良い瑞樹だ。  俺が伝えたかったことを、すぐに理解してくれたようだ。 「人生はこの遊歩道のように真っすぐではないが、心の中は一本道だ。迷う事ないんだよ。瑞樹……君はもうすっかり俺たちの家族なんだ」 「うっ……宗吾さん……ありがとうございます」  少しずつ紅葉が始まっており、緑の中に輝くような紅色や黄色が映えていた。  まるで俺たちの心の中の色のようだ。  穏やかな緑、そこに灯る情熱の色、愛情の色……  すーっと伸びた樹木と草花が生い茂る場所で、俺たちは自然に躰を寄せって淡い抱擁をした。  芽生が俺たちの様子を見上げて、無邪気に笑った。 「パパも、おにいちゃんも、いいおかをだね。カシャッ!」  芽生が、小さな指でカメラのシャッターボタンを押す真似をした。  芽生の心にも残って欲しい。  今日の俺たちの姿……  紅葉と共に、心の中が色付いて行くのを感じた。 「まるで……『心の秋映え』ですね。今、僕の心は高揚し……紅葉したように色がついています。宗吾さん……僕をここに連れてきてくれてありがとうございます」 「あぁ、喜んでもらえてよかったよ。さぁそろそろ戻ろうか。俺たちのホームへ」 「はい!」                          『心の秋映え』 了    

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