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深まる絆 2

「瑞樹、今日もがんばれ!」 「はい。宗吾さんも頑張って下さいね」  宗吾さんとは有楽町駅の改札を出ると、左右に行き先が別れてしまう。  毎朝少し名残惜しい瞬間だが、1日が終われば……僕らはまた同じ場所に戻ることが出来る。だから頑張ろう!  僕は本当に宗吾さんを知れば知るほど好きになっている。彼と同じ家で暮らし始めてから間もなく半年経つが、それぞれのペースや役割も掴めて、いい感じだ。  まさに実りゆく秋と同じで、満ち足りた気持ちだ。  今年の秋はいい……明るい未来が見えているから。去年とは全く違う…… 「さてと、行こう!」  気を取り直して会社への道を歩き出すと、背後から声を掛けられた。 「葉山先輩! おはようございます」  あっ、まただ。ここの所、頻繁だな。 「あぁ、おはよう、金森くん」 「今日も秋晴れでいい天気ですね~」 「そうだね」  声の主『金森鉄平』は、今年の新入社員で僕の直属の部下だ。熱血漢な上に無鉄砲な所もあるので、毎度毎度、何かと彼の行動には冷や冷やさせられている。 「うわ! 今日も葉山先輩、綺麗ですね~ あれぇ何だかそこはかとなく色気もあるような」 「はぁ……君も変わっているね。男相手に綺麗だとか、毎日、飽きもせずに」 「そうですか。綺麗なものに男も女も関係ないですよ。花と同じです」 「花ねぇ……」  正直、大いに問題ありだと思うんだけどな。  それに僕が綺麗と言うのはどうだか。僕は男だ。宗吾さんから言ってもらえるのは嬉しいが、宗吾さん以外の男性から言われても、対処に困ってしまう。 「今日は屋外作業ですね! 」 「そうだね。10月はイベントが多いから頑張ろう」 「そうなんですよ~そこそこ! 葉山先輩と休日を全部一緒に過ごせて最高に嬉しいです」  ……そうだった。  10月は結婚式シーズンで土日は全て仕事が入っている。  但し、1日を除いては…… 「あ、でも、今度の日曜日だけは休ませてもらうよ」 「あぁそうでしたね。でも何だか意味深なお休みですよね。もしかして大切なイベントでも? 」 「ん、まあね」 「ふーん、秘密主義ですね~相変わらず。そうだ、いい加減教えて下さいよ。引っ越し先! 」 「……」  グイっと距離を詰められて動揺してしまう。 「それと、ちょっと手も見せて下さい」 「な、何!?」  いきなり空いている左手を掴まれて動揺してしまった。宗吾さんとの誓いの指輪は、会社に付けて来ていないが……これは困る。 「ちょ、ちょっと……何を」 「うげっ! 」  左手の薬指をじっと至近距離で見つめられて、慌てて振り払おうとした瞬間、ドンッと金森くんが前に吹っ飛び、その勢いで前につんのめって転んでしまった。 「おい、金森!! お前はまた~ 何度も忠告したはずだ。気安く葉山に触れんな!! 」 「あ、菅野! 」 「おはよ。朝から何、気を許してんだ。ほら行くぞ」 「あ、うん……でも金森くんは? 」 「捨ておけ! 」 「う、うん……」 「どうせ懲りずに明日にはまた同じことするよ」 「う……確かに」  汚れたスーツを手ではたいている金森くんを傍目に、僕は菅野の後を追った。 「葉山さぁ、もっとビシッと言ってやれよ。『お前には興味ない。眼中にないっ』てさ」 「う……」  それが言えたら苦労しない。でも、彼から何を言われたわけでもないし、冗談でもそんな台詞、自分から言うのも躊躇われて…… 「とにかく、アイツ熱血漢で真っすぐな所あるから、変に期待持たせない方がいいぜ」 「……うっ、それはよく分かっている」  だって僕を綺麗と言うのも……僕の指に触れるのも、全部、全部、宗吾さんだけだ。そこは……彼にしか許さない聖域なんだ。  こういうことがあると、改めて宗吾さんへの愛と、宗吾さんから受ける愛をひしひしと感じてしまう。 「相変わらずのお人好しのミズキちゃん。まぁ俺が目を光らせてやるよ」 「くすっ、ありがと」 「あー俺も甘いよなぁ」  同期の菅野は、僕を理解してくれている大事な友人だ。宗吾さんとの関係も知っている。  その上で丸ごと応援してくれて、助言してくれて……本当にありがたい存在だ。  僕は一人で生きているわけじゃない。  いろんな人に支えられ、守られている。  同時に僕も……いろんな人を支えて、守っているといいな。  秋空を見上げて、そう願ってしまった。   「葉山がいると、職場が華やぐんだ。今日も頑張ろうな!」 「ありがとう! うん、頑張ろう!」  同期と仲良く肩を並べて、職場へと走った。

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