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深まる絆 22
「じゃあ俺は先に出るから、君は芽生を起こして、連れて来てくれ」
「はい!」
お弁当を詰め終え、俺は場所取りのため先に出掛けた。
それにしても昨日コータ君のお母さんに教えてもらって良かった。実は去年も一昨年も、運動会はニューヨーク出張だったので観戦できなかった。だから知らなかったのだ。
俺にとっては今日が……初めて生で見る、幼稚園生活で最初で最後の運動会になる。気合が入るわけだよな。
「宗吾さん、お弁当重そうですね。後から持って行きますよ」
「いや、この位大丈夫だよ。それより、いい席を取って来るよ」
「はい! 楽しみにしています」
「瑞樹、火傷はもう大丈夫ですか」
「軽かったので、冷やしたら痛みもなくなりました。ありがとうございます」
ニコッと微笑む君の顔に安堵した。
今、俺たちは同じ方向を向いて、同じ目的に向かって協力し合っている。
それが嬉しい。
いつの間にか夜は明けて、明るくなっていた。
頭上には、目が覚める程の青い空が広がっている。
今日は見事な秋晴れだ。
「いいお天気で、運動会日和ですね。あの……宗吾さんは本当に頼りになりました。おにぎりも唐揚げも手際良くて……場所取りも上手くいくように応援しています! いってらっしゃい」
小さく手を振る瑞樹に、甘い笑顔で見送ってもらい、ますますやる気が出た。
俺は分かりやすい人間だと思う。
ちょっとしたエールで、物凄いエネルギーが湧くタイプだ。
好きな人から応援してもらうのって、嬉しいものだな。
だから、俺はいつも、いつまでも、君から応援される人でいたい。
応援される人の特徴は、ポジティブで前向きな人……努力している人、素直な人だと、以前何かで読んだんだ。
俺は実は……瑞樹と暮らすにあたって、心掛けていることがある。
君の太陽になりたいと……(キザかな)
俺を応援することで、瑞樹も元気になって欲しいんだ。
人は人を応援することで、自分のモチベーションが上がったり、自然とやる気になったりするものだ。それって実は自分自身を応援するのに繋がっているのだと思う。
門の列に並ぶと、後ろのお父さんから話しかけられた。
「芽生くんのお父さんですよね。息子さんとうちの娘は同じクラスなんですよ。いつもお世話になっています」
「おぉ、いつもありがとうございます。お互いに早いですね」
「えぇ、頑張っていい席をと思って」
「分かります。子供の晴れ姿、近くで応援したくなりますよね」
「そうなんです」
「頑張りましょう。今日は1日! 」
今まで、どこか物事に真剣になれずに浮ついた俺だった。
だが今は違う。
瑞樹に応援してもらえる人になりたい。
そう思うと、全力で生きたくなる。
やがて幼稚園のアナウンスが入った。
「今から開門です。走らずにお入り下さい」
俺は事前に運動会のパンフレットで確認しておいた、ライオン門という退場門近くの観覧スペースを、無事に確保できた。
世のお父さんもお母さんも、子供のために必死になっている。
なんだか以前は気恥ずかしかったが、実にいい光景だった。
大事な人のために出来ることがある。
それは幸せなことだ。
『瑞樹、無事に確保したぞ』
『本当ですか! 嬉しいです。お疲れ様です。こちらは今芽生くんを起こしたところです。朝ごはんを食べてから、伺いますね』
瑞樹の嬉しそうな顔が浮かぶ返信だった。
今日は、きっと……いい1日になる!
『いい日にしような! 』
『はい、僕もワクワクしています。よろしくお願いします』
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