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深まる絆 24
幼稚園児の競技は賑やかな運動会の曲に合わせて、流れるように続いた。
年少さんはまだ本当にあどけなくお遊戯も整列もバラバラなのが可愛かったし、年中さんの玉入れも僅差で興奮した。
年少さんから年中さん……そして年長さんと、年々表情豊かになっていくのも興味深い。普段の送迎時には気付かなかったが、この時期の子供の成長って、目を見張るものがあるな。
芽生くんも最近どんどん大人っぽい言葉を覚え、語彙も増えて……しっかりとした会話が出来るようになった。きっとすぐに大きくなって、あっという間に巣立ってしまうのだろうな。
「瑞樹、次はなんだ? 」
「あ、次は年長さんのかけっこです」
「そうか。芽生は何番目に走る? 」
「えーっと、8番目です」
「よし! ゴール付近に撮影に行こう」
「はい」
いい場所で撮影しようと思ったが、かけっこのゴール付近はカメラやビデオを抱えた親御さん達で、既に賑わっていた。
「うわっ、あっという間にすごい人ですね」
運動会の日は世のお父さんもお母さんも大忙しで、すばしっこい。今はカメラやビデオ撮影が常識で、自分の目で見るよりもファインダー越しが当たり前なんだなと、その光景を見て……しみじみと思った。
まぁ僕たちも例にもれず、しっかりビデオとカメラを握りしめている。でも、それでいい……こんな日は皆に溶け込みたい。他の親御さんと同じことを、芽生くんにもしてあげたい。
「宗吾さん、どこにスタンバイしましょうか……出遅れてしまいましたね」
「うーん、そうだなちょっともう無理だな。あの端っこから観戦するか」
「……そうですね」
行列に入る余地がなかったので、僕たちは脇にずれた。
「ここからだとゴールを正面から撮影出来ないですね」
「そうだなぁ」
するとゴール前の撮影スペースの最前列にコータ君ママがいて、声をかけてくれた。
「宗吾さんたち~芽生くんの写真は私が撮りますので、大丈夫ですよ。安心してくださいね。いい場所取れたので任せて下さい」
「それはありがたい! 助かります」
わ……なるほど。こうやって協力しあうのっていいな。自分の子も、人の子も、みんな大切な子供なんだな。
「これより年長さんかけっこを開始します。位置について、よーい、ドン!! 」
「わぁぁー」
歓声が鳴り響く中、4人の子供が一列になって走ってくる。
まさに全力疾走だ。
皆、いい顔している! 子供が夢中になっている真剣な顔って清々しいし、元気を分けてもらえるよ。
「瑞樹、次、芽生じゃないか」
「そうですね。芽生くんー頑張って!」
芽生くんの番だ。うん、すごくいい顔! 頬を上気させて、カラフルな帽子が揺れている。
「がんばれー!! 芽生!! 」
宗吾さんの声も、一段と力が籠り、大きくなる。
カーブを曲がった所で、インコースの芽生くんがグングンとスピードをあげて来た。
「がんばれー! 」
僕も気が付いたら大声を出していた。こんなに大きな声は、いつぶりだろう。大切な人をエールするのって素敵だね。
皆が皆、それぞれの大切な人を応援している歓声が鳴り響く中、芽生くんが颯爽とゴールへと駆け抜けていった。
「何位だ? 」
「……僅差で2位でしょうか」
「そうか、頑張ったなぁ。芽生」
「はい!そうですね」
宗吾さんがしみじみと芽生くんを見つめ、感慨深い表情を浮かべていた。
僕は4歳からの芽生くんしか知らないが……宗吾さんにとっては玲子さんのお腹に宿った時、産まれた時、0歳、1歳、2歳……積み重ねてきた思い出がある。
「芽生、いい顔してるな。満足そうだ」
「いい顔です、宗吾さんも」
カッコいいなと見惚れて、思わず口に出してしまった。
「ん? そうか」
「いいパパの顔です」
「……ありがとう。おっと夢中になってカメラもビデオも忘れちゃったな」
「あ、そういえば。でもコータ君ママが写真は撮ってくれていますよね」
「おう。じゃあお返しで俺らはコータ君を撮ってあげよう」
「はい! 今度はもう少し冷静に見られそうです」
この瞬間を、しっかり心に焼き付けよう。
今当たり前のようにある日常が、本当の幸せだ。
それを知ってるから。
いつまでも……この平和で明るい日常が続くように願って。
僕も、芽生くんのパパのひとりとして頑張りたい。
これは責任とかそんなんじゃなく、自然と頑張りたくなる心境から生まれたもの。
こんな気持ちにさせてもらえて、僕はやっぱり幸せだ。
「宗吾さんと芽生くんと、出会えてよかったです」
「俺も瑞樹とこうやって息子の応援が出来て嬉しいよ。さぁまだまだ続くぞ! 俺たちも頑張ろうな」
「はい! あ、この次の芽生くんの種目は組体操ですね。午前中ラストのメインですから、気合が入りますね」
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