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深まる絆 28
「あっ! お兄ちゃん。この卵焼きの味って……」
「ど、どうかな?」
卵焼きを口に含んだ芽生くんに問われて、ドキっとした。
この味付けは僕の母のレシピを少し改良した新しい味だった。砂糖を多めにして甘くほっこりする味を目指してみたが、どうだろう? 気に入ってくれたかな。それとも……
「はじめて食べる味だね~」
「うん……あの、気に入らなかったら、ごめんね」
「ううん、ちがうよ。これ、ボクのおうちの味がする」
「え? 」
みんなが芽生くんを一斉に見つめた。
『おうちの味』って、どういう意味だろう?
「あ、それ、私も思った」
「そうだな」
「本当にそうだな」
皆、同意しているが、一体何を言われるのか緊張してしまう。
「みーずき、おいおい、なんて顔してんだ?」
「あの……意味が分からなくて」
「あぁそれはつまり、俺たちの家の味が出来たってことさ」
「えっ」
「俺と瑞樹と芽生の3人家族のさ! 」
そうなのか……そういう意味だったのか。
「そうだよ。ボクんちの卵焼きができたー!」
芽生くんが嬉しそうに叫ぶと、それを聞きつけたコータ君がトコトコやってきた。
「メイんちのたまごやき、たべてみたいな」
「いいよぉ、ほらっ」
芽生くんがコータ君に食べさせてあげる光景は、微笑ましかった。
「ん! 芽生んちの、すごくおいしい! 」
「えへへ。おにいちゃんが作ってくれたんだ~ 」
「よかったな」
「うん! これが『ぼくんちの卵焼き』だよ」
芽生くんが自慢げに笑う顔に、キュンとしてしまった。
よかった、何だかすごく嬉しい……
母の味をコピーするのではなく、僕なりに芽生くんを想って加えた砂糖の加減に気付いてもらえただけでも幸せなのに、胸を張って、そんなに褒めてくれるなんて。
「瑞樹、良かったな。俺も君の味が好みだ」
宗吾さんからの言葉に、心が震える。
愛の告白みたいで照れくさいけれども、嬉しくて堪らなかった。
「さぁそろそろ午後の部だ。瑞樹、午後も頑張ろうな」
「はい!」
いつものように明るく返事をすると、それを聞いていた憲吾さんに感心された。
「いいね」
「え? 何がですか」
「前から言おうと思っていたが、瑞樹くんって、いつもいい返事をするな。最近の職場ではそういう爽やかな返事が出来る人があまりいなくてね」
「そうね、明るく元気よく『はい!』と返事をするのは。素敵ね」
美智さんも同感してくれた。
わわわ、なんだか二人にも褒められて、照れ臭いな。
「あの……ありがとうございます」
「そうね。肯定の言葉だし前向きに感じるわ。『はい! 』という返事を気持ちよく出来る人は周りから好かれるはずよ。だから私は瑞樹くんが好きよ。お弁当もごちそうさま。心が籠っていて、とても美味しかったわ」
「お母さんも……ありがとうございます!」
お母さんからも嬉しい言葉をもらい、沢山のご褒美をもらったようにポカポカな気分になった。
言葉は宝物だ。人を生かす言葉を使える人って、本当に素敵だ。
「瑞樹くん、これからも「はい」と言える素直な心を大切にね」
「はい!」
「くすっ、いつも素直で可愛い子ね! 大好きよ」
お母さんに可愛がられ甘やかされて……午後も頑張ろうという気力が、ますます満ちた。
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