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深まる絆 31
マイム・マイムか……
去年は宗吾さんが海外出張中だったので、僕がこの時間だけ飛び入りして芽生くんと踊ったんだ。あの日から1年も経つなんて、早いな。
「親子でダンスか、瑞樹が踊ってこいよ」
「いいえ。今年は宗吾さんが躍って下さい。僕は去年踊りましたから、今年は写真係になります」
「……そうか、本当にいいのか」
「はい! 是非そうして欲しいです」
宗吾さんは一瞬躊躇した様子だったが、努めて明るく送り出した。宗吾さんにとって最初で最後の幼稚園の運動会だ。去年の僕の感動を、彼にも味わって欲しい。
「芽生、今年はパパと踊るか」
「うん、いいよ。でもお兄ちゃんは」
「あっちで写真を撮ってくれているよ」
「おにいちゃーん!! 見ていてね」
芽生くんが弾ける笑顔で小さな手をブンブンと振ってくれる。それだけで心がぽっと温まるよ。やがて音楽が流れ出すと、目の前の光景が、まるで去年のように見えて眩しかった。
園児がお父さんやお母さんと手を握って輪になって、時計回りにステップを踏んでいく。
くすっ、宗吾さんもノリノリだ。
大きな動きに芽生くんがぶらさがっているみたい。
可愛い──
シャッターボタンを夢中で押していた。
『マイム・マイム・マイム マイムベッサンソン……』
やがて僕の前で二人は立ち止まりステップを踏み、手を叩き合ってラストを迎えた。
どこまでも和やかで明るい光景に、心から感激してしまった。
そういえば去年『マイム・マイム』は、どこの国の言葉なのか、芽生くんと話したな。ヘブライ語でマイムが『水』でベッサンソンが『喜びの中』だから、水が出て喜んでいるという内容の歌だったね。
あの日、芽生くんと宗吾さんの水になりたいと願った夢は叶った。
今の僕は二人と生活を共にして、家族の一員として過ごさせてもらっている。ずっと欲しかった僕だけの家族を手に入れたのだ。
だから今の僕にとっての水は、宗吾さんと芽生くんの存在だ。
「瑞樹こっちこっち」
「はい? 」
「瑞樹くん、行っておいで」
宗吾さんに手招きされたので、一眼レフを憲吾さんに預けて駆け寄った。
「どうしたんですか」
「いいから、早く来い」
続いてアナウンスが入った。
『これより保護者の方が、おんぶしての退場になります』
「え……もしかして、僕が?」
「そうだ。芽生はすぐに大きくなる。瑞樹がいつまでおんぶ出来るか分からないから、今日は君がしてやってくれ」
秋祭りでは靴擦れしてしまった芽生くんを、宗吾さんが背負った。
親子らしい光景が逞しくも、実は少しだけ……羨ましかったんだ。
宗吾さんはいつだって僕にサプライズをくれる。
予想外想定外のことは、僕の人生に於いて不吉で不要だと思っていたが、宗吾さんがくれるサプライズは嬉しいことばかり。
もう、この人は……本当にいつも最高だ。
「あ、あの……僕が背負っても?」
「あぁそうだ」
「おにいちゃん、早くしゃがんでー」
「うん! どうぞ、芽生くん! 」
背中にかかる芽生くんの重みは『幸せの重み』。
ありがとう……僕を信頼してくれて、本当にありがとう。
お知らせ(不要な方はスルーしてくださいね)
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他サイトの話になり申し訳ありません。
秋祭りのお話はエブリスタにあります。
しかも表紙絵を描いて下さったおもちさんの漫画があります。
宗吾さんにおんぶされている芽生くんのカットにご興味あれば💕
クロスオーバー作品集 『甘雨のあとの、幸せな存在』秋祭りデート
https://estar.jp/novels/25642826
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