509 / 1741
秋満ちる 1
運動会の翌朝、目覚めると、僕たちは3人で寄り添うように眠っていた。
まだ手も繋いだままだった。嬉しい……
そして昨夜の会話を思い出せば、朝から心が満ちて来る。
「ここは……僕の居場所なんだ」
素直にそう思える自分が、本当に好きだ。
「ん、おはよう。瑞樹……」
「宗吾さん、おはようございます」
僕たちの真ん中で眠る芽生くんは、まだ夢の中。だから芽生くんの頭上で「お・は・よ・う」のキスを交わした。
すると芽生くんの目がパチッと開いて、ニコっと笑ったので驚いた。
「え!」
でも一瞬で閉じて、また寝息を立て出したのでホッとした。寝惚けていたのかな。
「芽生はいい夢見ているな。よだれ垂れてるぞ」
「くすっ相変わらず可愛いですね。さてと、僕たちはそろそろ起きますか」
「あぁ君は今日は会社だろう。俺が家の用事は全部しておくから、ゆっくり仕度しろ」
「はい! ありがとうございます。」
ところがベッドから降りて歩き出すと躰の節々が痛かった。特に二の腕が怠くて動かす度にズキズキした。
うわ、これってまさかの筋肉痛?
どうやら昨日の綱引きの影響が出てしまったようだ。皆さん翌日か翌々日に、腕が怠くなると話していたから想定内だが……僕もかと、苦笑してしまった。
僕も、もう若くないのかな。いやいやそんなはずはない。
「瑞樹、どーした? 歩き方がぎこちないぞ? 」
「うう、実は筋肉痛みたいで……」
「ははは、瑞樹は普段から運動不足じゃないか」
「むっ」(タフな宗吾さんに抱かれるのって、運動並みにハードなんですよ)
「ははっ怒っても無駄だぞ。可愛いだけだから」
「そう言う宗吾さんは、ご無事ですか」
「俺? この通りさ」
ところが宗吾さんも立ちあがった瞬間、表情がぐにゃっと歪んだ。
「イテテ……腰がやばい! 」
「えっ大丈夫ですか」
慌てて近寄ると、そのまま腕を引っ張られ、くるりとひっくり返されてしまった。
上に乗った宗吾さんに、首筋をペロッと舐められる。
「あ……だ、駄目ですって」
「少しだけ」
「め、芽生くんが隣に……」
「寝てるよ」
「さっき起きましたよ」
「もう寝てる」
「あ……んんっ」
そのまま、おはようのキスよりもっと深いキスを浴びた。
「は……っ、うう……ん」
っていうか、腰が痛いのは嘘?
「腰、嘘だったんですか」
「んーいや、マジに少し痛いな。今日は俺もお疲れ休みだ」
「大事にしてくださいね。無理すると腰は大変ですよ」
「あぁ君を抱けなくなったら大変だから、今日はここまでにしておく」
「もうっ……あっ」
宗吾さんの腕が緩むのが、名残惜しかった。
いやいや駄目だ。宗吾さんは幼稚園のお疲れ休みに合わせて有休を取っているが、僕は仕事だから、もう切り上げないと……
それにしても毎回感じるのは、宗吾さんにキスされるのが好きだということ。
愛情がダイレクトに伝わってくるので、離れたくなくなってしまう。
「宗吾さん僕たちの間には、毎日愛が産まれているようですね。って、こんなのキザですよね」
つい口走って、猛烈に恥ずかしくなった。
「瑞樹、そうだな。俺たちってある意味、男女の恋愛よりも深い所にいるのかもな」
「あ……ありがとうございます。そう言ってもらえるの、嬉しいです」
会社の飲み会で……先輩が『もしも子供がいなかったら妻とは続かなかった。きっとアイツもそう思っているだろう』と冷めた声で呟いているのを耳にした。もちろんお子さんがいても離婚される人もいるだろうし、子供のためだけに夫婦関係を続ける人もいるだろう。夫婦仲が円満の人もいれば妥協と打算で過ごす人もいる。
本当に家族といっても様々なスタイルがあるのが現実だ。
もちろんそれはそれで、いいと思う。人の数だけ、いろんなスタイルと選択肢があるのだから。
だから僕たちも、これでいいと思える。
僕と宗吾さんは男同士だからこそ、本当に人と人として純粋に互いに向き合っている。そう思うと何だか……凄いな。
「宗吾さんとずっと一緒に歳を重ねたいです。芽生くんの成長を見守っていきたいです」
「おお、なんだか改まった挨拶だが俺も同感だよ。改めてよろしくな」
「はい! 」
心に新しい波がやってくる。
新しい1日と共に、新しい気持ちが芽生えていく。
前向きに、ひたむきに、この人と生きて行こう。
運動会を経た僕たちは、また一歩近づいた。
そうしみじみと感じる……清々しい秋の朝だった。
ともだちにシェアしよう!