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秋満ちる 1

 運動会の翌朝、目覚めると、僕たちは3人で寄り添うように眠っていた。  まだ手も繋いだままだった。嬉しい……  そして昨夜の会話を思い出せば、朝から心が満ちて来る。 「ここは……僕の居場所なんだ」  素直にそう思える自分が、本当に好きだ。 「ん、おはよう。瑞樹……」 「宗吾さん、おはようございます」  僕たちの真ん中で眠る芽生くんは、まだ夢の中。だから芽生くんの頭上で「お・は・よ・う」のキスを交わした。  すると芽生くんの目がパチッと開いて、ニコっと笑ったので驚いた。  「え!」  でも一瞬で閉じて、また寝息を立て出したのでホッとした。寝惚けていたのかな。 「芽生はいい夢見ているな。よだれ垂れてるぞ」 「くすっ相変わらず可愛いですね。さてと、僕たちはそろそろ起きますか」 「あぁ君は今日は会社だろう。俺が家の用事は全部しておくから、ゆっくり仕度しろ」 「はい! ありがとうございます。」  ところがベッドから降りて歩き出すと躰の節々が痛かった。特に二の腕が怠くて動かす度にズキズキした。  うわ、これってまさかの筋肉痛?   どうやら昨日の綱引きの影響が出てしまったようだ。皆さん翌日か翌々日に、腕が怠くなると話していたから想定内だが……僕もかと、苦笑してしまった。  僕も、もう若くないのかな。いやいやそんなはずはない。 「瑞樹、どーした? 歩き方がぎこちないぞ? 」 「うう、実は筋肉痛みたいで……」 「ははは、瑞樹は普段から運動不足じゃないか」 「むっ」(タフな宗吾さんに抱かれるのって、運動並みにハードなんですよ) 「ははっ怒っても無駄だぞ。可愛いだけだから」 「そう言う宗吾さんは、ご無事ですか」 「俺? この通りさ」  ところが宗吾さんも立ちあがった瞬間、表情がぐにゃっと歪んだ。 「イテテ……腰がやばい! 」 「えっ大丈夫ですか」  慌てて近寄ると、そのまま腕を引っ張られ、くるりとひっくり返されてしまった。  上に乗った宗吾さんに、首筋をペロッと舐められる。 「あ……だ、駄目ですって」 「少しだけ」 「め、芽生くんが隣に……」 「寝てるよ」 「さっき起きましたよ」 「もう寝てる」 「あ……んんっ」  そのまま、おはようのキスよりもっと深いキスを浴びた。 「は……っ、うう……ん」  っていうか、腰が痛いのは嘘? 「腰、嘘だったんですか」 「んーいや、マジに少し痛いな。今日は俺もお疲れ休みだ」 「大事にしてくださいね。無理すると腰は大変ですよ」 「あぁ君を抱けなくなったら大変だから、今日はここまでにしておく」 「もうっ……あっ」  宗吾さんの腕が緩むのが、名残惜しかった。    いやいや駄目だ。宗吾さんは幼稚園のお疲れ休みに合わせて有休を取っているが、僕は仕事だから、もう切り上げないと……  それにしても毎回感じるのは、宗吾さんにキスされるのが好きだということ。  愛情がダイレクトに伝わってくるので、離れたくなくなってしまう。 「宗吾さん僕たちの間には、毎日愛が産まれているようですね。って、こんなのキザですよね」  つい口走って、猛烈に恥ずかしくなった。 「瑞樹、そうだな。俺たちってある意味、男女の恋愛よりも深い所にいるのかもな」 「あ……ありがとうございます。そう言ってもらえるの、嬉しいです」  会社の飲み会で……先輩が『もしも子供がいなかったら妻とは続かなかった。きっとアイツもそう思っているだろう』と冷めた声で呟いているのを耳にした。もちろんお子さんがいても離婚される人もいるだろうし、子供のためだけに夫婦関係を続ける人もいるだろう。夫婦仲が円満の人もいれば妥協と打算で過ごす人もいる。  本当に家族といっても様々なスタイルがあるのが現実だ。  もちろんそれはそれで、いいと思う。人の数だけ、いろんなスタイルと選択肢があるのだから。  だから僕たちも、これでいいと思える。  僕と宗吾さんは男同士だからこそ、本当に人と人として純粋に互いに向き合っている。そう思うと何だか……凄いな。 「宗吾さんとずっと一緒に歳を重ねたいです。芽生くんの成長を見守っていきたいです」 「おお、なんだか改まった挨拶だが俺も同感だよ。改めてよろしくな」 「はい! 」  心に新しい波がやってくる。  新しい1日と共に、新しい気持ちが芽生えていく。  前向きに、ひたむきに、この人と生きて行こう。  運動会を経た僕たちは、また一歩近づいた。  そうしみじみと感じる……清々しい秋の朝だった。  

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